王子が断罪しようとしていた悪役令嬢に逆に利用され断罪される話
初投稿です。よろしくお願いします。
「セレーナ・サンズ公爵令嬢。お前との婚約を破棄させてもらおう。」
ざわざわとどよめきが起こるのが分かった。私はそれを殿下のうしろで見ていた。
「その婚約破棄、謹んでお受けいたします。こちらに書類がございます。
殿下。王家の代表としてサインを。」
「あ、あぁ。分かった。」
そういうと、殿下はセレーナの持っていた書類にサインした。王家の代表として書くのに内容を読まなくていいのかな? さすが、馬鹿殿下。思い通りの展開ににやけそうになる口元を私は必死に抑えた。
セレーナは写しを一枚殿下に渡した。
「では、失礼。」
「まて。セレーナ。お前はさんざん俺の可愛いリリィをいじめたな。リリィは、確かに伯爵と平民の侍女の間にできた娘だが、きちんと伯爵の血が流れているのだぞ。それを理由にいじめるなど…お前も、平民になってみろ。お前が卑しんだ平民にな。」
ざわざわと一際大きなざわめきがおこった。
「何をおっしゃるのですか。もう、私は公爵家の人間ではございません。
また、貴方の言葉こそリリア嬢に失礼では? 生まれについてリリア嬢及び伯爵家は正式に発言していなかったはず。貴方が今おっしゃったことで、噂が事実に成り代わりましたわ。」
セレーナがそう言い放った。私も、馬鹿殿下のこの発言には正直泣きたくなった。前より、私を見る周りの人たちの目が冷たくなっている。特に女子。
平民の母親をもつ(←確定)私が殿下と一緒にいるのが許せないって顔に書いてある。
「は? でも、みんな侍女の子って…
あと、もうセレーナが平民ってなんでだ?」
呆ける殿下。やっぱ、馬鹿。普段本人的にはかっこいいと思って偉そうにしている口調も素に戻っている。
「なぜ平民って、逆になんでそんな質問が出るんですか?サインした瞬間に私はもう平民になる、といった趣旨の内容が、先ほどの書類に書いてあったでしょう。まさか、殿下は書類を読まれていないのですか。さんざんサインの前に書類を読むように申し上げてきましたのに。」
「貴様…」
「ここからは、独り言ですのでどうぞお気になさらないでください。私は婚約破棄してくださり感謝しております。流石でございます、殿下。私がこの婚約をどこかで嫌がっているのを感じて、わざわざ破棄してくれたんでしょう。もう、二度と婚約できないような傷物になり下がるような方法だったとしても…殿下の出来の悪い脳みそでは、このような方法以外思いつかなかったのは、想像できます。かすから知恵をしぼってくださったと考えると涙が出ますわ。もう一生会うことはございませんね。さようなら殿下。
では、皆様失礼いたします。」
そう言って颯爽とセレーナは去って行った。ピンとのびた背筋は断罪された令嬢のものではなかった。堂々としていて、その後ろ姿は凛々しい。元々中性的な美しさをもつセレーナ。彼女はとてもかっこよかった。しばらくして、殿下は満面の笑みでこんなことを言った。
「リリィ。もう大丈夫だよ。皆のものよく聞け。俺はこの時をもってリリアーヌと婚約する。」
どこまで、思惑通りの事をしてくれる殿下だろう。私は、笑いがとまらなくなってしまった。
「リリィ?」
「殿下、一ついいですか。最後なので。」
「最後とな。何を言っているんだリリィ。」
「殿下と、結婚?何で私が貴方を好きな事が前提なんですかね。うぬぼれもいい加減にしてください。」
「確かにあまり、喋ってくれなかったが、恥ずかしかったのだろう? 婚約しようと言っても首をふっていたが本心では、私と結婚したかったのを私は知っているぞ。」
やっぱり殿下は気づいてなかったみたいだ。何ておめでたい頭をしているのだろう。そこまでいくと、才能か?
「私は、王家に逆らうのがおそろしくて貴方の言いなりになってきただけです。何かの言いがかりで罰せられないように笑顔を貼り付けていたんです。この際だから、言いますけど本当は、ずっと嫌だったんです。好きだなんて心外ですね。一昨日きやがれ、家柄と顔しか取り柄のないカスが。クソ。失礼。私はあんたに好きだなんて一回も言ったことがないです。貴方が勝手に勘違いしていただけですよ。学園で勉強したいのに、貴方がくっついてきてそんな時間もなかったんです。むしろ、時間を返してください。本当に、何で好きだなんて勘違いしたんですか。
私がそんな安い女に見えていたのかなぁ?
残念だが私はそんなに安くない。」
「お前は本当にリリィか?」
「リリィ?馬鹿殿下に愛称で呼ぶのを許した覚えはないですけど。」
「それ以上言うと、リリィでも許さんぞ。」
「どうでもいいわ。
そうだ。セレーナ様の名誉のために言っておくと彼女が私をいじめたなんて事実はございません。そもそも私、殿下にいつ、いじめられたなんて言いましたか?」
「は?どういうことだ…?いじめられていたのを見たぞ。リリィはたまに服がボロボロだったり、濡れていて下着がすけてたり、生足見えてた…のは正直嬉しかったが…教科書をやぶられたりお茶をかけられたり、怒鳴られていただろう。かわいそうに。色々な人に聞いたが皆セレーナの命令だと言っていたぞ。」
「それは、セレーナ様以外の令嬢が貴方に気に入られた私に嫉妬して起こったことです。それを、セレーナ様になすりつけただけ。セレーナ様はめんどうだと疑惑を訂正しなかったんですよ。確かに、いじめは受けましたがセレーナ様は私を守ってくださった方です。彼女を侮辱しないでください。
というか、全部貴方のせいですよね?周りの事を考えず自分の好きなように行動したせいで私はいじめられたんですよ。もっと、自分の影響を考えて行動しろよ。
あん?何だその顔、文句があるっていうのか?事実だろうが。」
「本性を隠していたな⁉️凶悪な女だ。結婚する前に気づけてよかった。もう、お前なんて死ね。しかし、だまされていたとはいえ、一度は好きになった女だ。死刑は許してやろう。俺を侮辱した罪で貴族籍をはく奪することを王太子として宣言する。これだけで済んだのだ。感謝せよ」
「馬鹿の一つ覚えみたいに、爵位はく奪と。まあ、馬鹿だから仕方ないのか? 身分だけが全てじゃないんだぜ? お前こそ、平民を馬鹿にしてんだろうが。平民になるのが罪になるっておかしいよなぁ?元々、平民で生まれた人間もいるのに、その人たちと同じ生活をするのが罰とか、ふざけてんのか。
あーあ、最後まで敬語使おうと思ってたんだけどなぁ。もう無理だ。尊敬できないゴミに敬語なんてつかえねぇわ。」
「何だ。お前が、王太子である俺に逆らうのか。優しくしていたら、調子のりやがって。不敬だぞ。」
「本当に救いようのない奴だな。あんた。こりゃ、セレーナが婚約破棄出来て喜ぶわけだ。
さっきサインした書類をきちんと読んだか?
内容教えてやろうか?セレーナへの慰謝料が、4億で、あんたの個人資産からの支払いが義務付けられてる、ってことが書いてある。なければ鉱山などで強制労働とかも書いてあったな。払えないだろ?たくさん色々な女に貢いでいたからなぁ。あれは国庫から払ってんだっけか? あんなのをもらう女も女だが…ケッ。まあ、いいや。もうすぐ貴族じゃなくなるかもな。今、どんな気持ちだ?あんたの思っている事当ててやろうか? 取引を無効にしてやろう、だろ?王家の代表としてサインしたんだから、もう取りやめは出来ねぇよ。じゃあな。カスが。」
言葉は途中から乱れちゃったけど、こいつに昔襲われかけたしそれくらいゆるされるよな?そういうのは昔治安の悪い通りに入ってしまったとき以来で、貴族でも平民でも人間はみんな変わんねぇと思ったんだっけ。でも、このクソの側近がとめてくれて、人はそれぞれだなと思ったんだ。そういえば。すっかりその事件忘れてたけど今言っとけばよかった…まあ、この話はどうでもいい。
失念していたが今は卒業記念パーティーだった。
「皆様、大変ご迷惑をおかけいたしました。失礼いたします。」
そう言ってお辞儀をした。最後くらいは、貴族らしくね。急いで大広間を抜ける。一応、まだ王太子を散々こき下ろしたからね。捕まる可能性も0に近いが0じゃない。歩きにくいヒールの靴をぬぎ裸足になって全力疾走した。ドレスもきりたかったが、ばらしてパーツごとに売る予定だったので価値が下がるとこまる。王城のとある場所にある忘れ去られた門があった。その前に質素な服に着替え、馬に荷物をくくりつけているセレーナがいる。
「お待たせ。セレーナ。」
「待ってたよ。リリア。これ着替えねぇ。」
「センキュー。セレーナ。いや、セレーナ・サンズ様かな?」
「チッ。もう、サンズじゃないし。」
「舌打ちすんなってば。ちょっとからかっただけじゃん。セレーナ、換金できそうなの持ち出せたんだ。というか、もう誰も元公爵令嬢だなんて気づかないと思う。」
「ずっと、私は公爵家を抜けたかったからねぇ。そういう準備は計画を立てる前からしてたんだ。あんな私を道具としか見てない父と兄しかいない家なんて未練もないし。」
「セレーナの素を知ったら、みんな倒れる事に一票。淑女の鑑といわれるセレーナ様がこれとは。私、初めてセレーナと会ったとき評判はあてにならないと身をもって知ったから。」
「うるさいなぁ。まあ、いいや。念願の女子旅が叶う今日は機嫌がいいから、少しなら許す。」
「お。今日は、セレーナをからかう絶好のチャンスじゃん。本人のお墨付きとは。」
「ちょっとだけって言ったよなぁ。」
「ごめん。ごめん。でも、殿下があんな事するなんておどろいたね。」
「リリアさんよ。かなり前から今日の情報を入手してこれを利用して平民に戻って女子旅&最低王子に復讐しようって言ったのは誰かな?」
「さて、誰でしょうね。セレーナさん。」
その後私とセレーナはそれぞれ馬にのると街へ駆け出した。
馬をとばし、二人で顔を見合わせるとフフッと笑いあう。
風が心地よかった。
「あの、女好きでくそ野郎な王太子と縁切れてよかったー。ヤッホーイ。」
私たちがそれを叫んだのは同じタイミングでさらに笑った。
二人で王太子をふるという計画が上手くいったことが嬉しかった。
私たちは王太子と縁を切れたことに歓喜し、窮屈な貴族社会を抜け出せた喜びをかみしめながら、暗闇を駆けた。
ありがとうございました。
これは、恋愛ジャンルでいいのかな……?