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7.最後の手段ECMO(体外式膜型人工肺)は平時の治療

2020年05月03日、ステイホーム期間の連休3日目ですね。本日のNHK特集(クルーズ船の調査報告)で説明されてましたが、新型コロナウィルスは、手が触れるところからの接触感染、会話、呼吸で広がる飛沫感染は、人の行動と共に広がるため、非常に防ぎにくいウィルスだ、とのことでした。


また、サイレント肺炎(自覚症状がないのに肺が炎症を起こす)がCT検査で見つかったというのも驚きです。自覚症状が出る時には肺全体に炎症が回って重症化してる、とか。


極限常態の中で、対応していたことがわかり、関係者の皆さんの奮闘には頭の下がる思いです。


合計3711人の乗員・乗客のうち、感染者712人、死者13人で抑えたという成果は、後にフランスの空母を含む艦隊で乗員の5割が感染したことを考えれば、限られた中でベターな対応をできたと思います。


さて、厚生労働省の新型コロナウィルス特設ページを見ると、入院を必要とする人数(+161名)に対して、退院した人数(+174名)と僅かですが本日も退院者数が上回りました。良い傾向です。

 ※以下の表は厚生労働省の新型コロナウィルス特設ページのものです。


挿絵(By みてみん)





さて、今回の話はECMO(体外式膜型人工肺)のお話です。

今回の新型コロナウィルスでは肺が炎症を起こして、呼吸が困難になっていく問題があります。実際には他の様々な臓器も損傷を受けるようですが、今回は呼吸に絞ってお話します。


第1話で語ったように、ECMOという選択肢がある国は僅かです。

日本はその僅かな国の一つであり、他の国に比べてとても多くの台数を保有しています。心強いですね。


呼吸に問題が起きた場合に使う機器はざっくりあげると3種類あります。


1.酸素吸入器

 →通常の呼吸では、体内酸素濃度を十分に維持できない場合、吸入する空気の酸素濃度を高めることで呼吸を助ける機材です。鼻から吸うタイプでは、会話や食事も併用できるという利点があります。病院にお見舞いに行くと、この機材をつけた方が廊下を歩いていたりして、見かけることもよくあると思います。


挿絵(By みてみん)


2.人工呼吸器

 →なんらかの原因で、自力で呼吸ができないと、酸素吸入器では呼吸の助けにはなりません。その場合、外から圧力をかけて肺に空気を強制的に送り込むことで呼吸を助ける機材です。強引に空気を送り込むので肺が傷つくリスクがあります。こちらは設置式の機材なので、これを付けてる人は動き回れません。もちろん、酸素吸入器より扱いの難度は上がります。


挿絵(By みてみん)


3.ECMO(体外式膜型人工肺)

 →そして最後の選択肢とも言われるECMO。肺が炎症を起こすなどして、空気を送り込んでも、ガス交換が行われず酸素吸入、二酸化炭素排出ができないという容体になっていると、どれだけ人工呼吸しても効果がなく、地上で溺れて亡くなることになります。ECMOは血液を外に出して血中酸素濃度を高めて、二酸化炭素濃度を下げて体内に戻す、そんな機材です。外に出して戻し、適切な酸素濃度の血液を体内に循環させなくてはならない訳ですから、人工呼吸器より扱いの難度は更に上がります。


挿絵(By みてみん)





ECMO、その仕組み上、集中治療室(ICU)での運用が基本で、ECMOに熟達したスタッフ、医師4~5人、看護師10人以上、臨床工学技士2~3人といった具合に、24時間体制で管理する専門チームを組む必要があります。

6話で示した赤、処置しなければ死ぬレベルの患者です。


そして、題名にも書きましたが、患者が溢れかえったような状態で、上記のような体制を維持することができるでしょうか? また、上記の体制を維持することで、黄の、より症状は軽いものの、治療が必要な患者に医師を回せなくなることが、妥当な選択なのか?


つまり、平時なら上記体制を組めるのでECMOを使って助かる、という状態であったとしても、非常時、感染爆発が起きてECMOはまだ不要だけど、酸素吸入器や人工呼吸器を必要とする患者で溢れかえった時、トリアージはどう行われることになるのか、です。


できるだけ軽い症状のうちに処置するほど助かる可能性も高まるのが普通です。

また、軽い症状の人であれば、処置後の監視の手間も軽くて済みます。


では皆さん。国内のECMOがフル回転するような惨状において、それ以外の患者の皆さんはどれほどの人数が出てくることでしょうか?


もう一度、特設ページの入退院の表を見てみましょう。


挿絵(By みてみん)


無症状~中等症状の者が5522名、人工呼吸器の方と集中治療室(ICU)の方は分けられてませんが321名。


人工呼吸器は合計3万台程度、ECMOは1412台とのことですので、まだ余裕はかなりあるように思えるかもしれません。

……が、そうではありません。クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号で感染した重症患者の方が8名、今も治療中であるように、新型コロナウィルスで重症になるとかなり長い期間、治療が必要です。


そして、交通事故や病気などで重症患者が運ばれてきた時に使えるよう、余力は十分に残しておかなくてはなりません。集中治療室(ICU)の利用率は7割程度のようですから、新型コロナウィルス感染者のために回せる数には限りがあります。

 ※回した分だけ長期間、治療が続くことが確定するため。





以上のことから、我々、一般市民ができることは感染者数を下げること、これに尽きます。軽症から数時間で要治療状態まで悪化するなど、まだよくわからないことが多い新型コロナウィルスですから、他の病気で治療を受けられない等という患者間での治療の奪い合いのような様相は何としても避けたいものです。


ECMOがある日本は平時であれば助かる可能性は高い国と言えるでしょう。ですが、ECMOを使うほど容体が悪化した患者は、ECMOを付けても助かる確率は5割程度とも言われています。そこまで悪化せずに済むならそれに越したことはありません。


そして、非常時ともなれば、膨大な人数で24時間体制の運用が必要なECMOの使用よりも、もう少し軽度の患者を優先せざるを得なくなります。医師も看護師も人数に限りがあり、簡単に増やせるものではなく、まして集中治療室(ICU)対応可能な方などというのは、かき集めようとしても無理です。


という訳で、医療崩壊にも段階があると考えていいでしょう。日本が今直面しているのは、集中治療室(ICU)を使う段階の医療体制の余力が枯渇しつつあるということ。


集中治療室(ICU)を備えた病院は多くなく、普段あまりなじみのないところなので、どれだけ切迫しているのか見えにくい部分ではありますが、そこは想像力で補いましょう。我々の行動変容が、我々がいざ集中治療が必要という事態に陥った時に我々を助けることになります。頑張りましょう。


<補足情報>

欧州では感染爆発が起きて、多くの死者が出ていますが、その中で、ドイツは6700名と、イタリアの2万8000名などに比べるとかなり抑えられてます。その理由の一つはイタリアやフランスの2~3倍も集中治療室(ICU)があるからと言われています。

日本のCT検査機器が他国の4倍とかあるのと同じで、国策として大量に確保していたという訳ではなく、数を減らそうという提言も出ていたそうです。

あと、人工呼吸器は、トリアージでいえば赤です。生命維持装置ですからね。

酸素吸入器も、ないと容態が悪化してく訳ですから、黄(いずれ赤になる)で使う機材です。

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彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』になります。
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