1.新型コロナウィルス対策は、国によって違うのが当たり前
2020年04月25日現在、新型コロナウィルスによる医療崩壊を防ぐため、緊急事態宣言で、日本全国で店舗の営業を止めるなどしてなんとか人の接触を通常の八割減まで持っていこうとしており、基本的に外出しないことが求められてますが、皆さん、いかがお過ごしでしょうか?
幸い、外出自粛要請に従う人がそれなりに多く、緊急事態宣言(対象地域:全国)から2週間ちょい経過しましたが、なんとか感染者数の増加ペースを現状維持程度に抑えられているようで、同じ日本国民として誇らしく思います。
さて、前置きはこれくらいで、本題に入っていきましょう。まずは基礎知識から。
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人類史上初となる全人類が当事者となる「感染症の世界的流行」、いずれくるだろうとは言われてましたが、まさか、自分達の時代に本当に経験することになるとは思っていませんでした。
しかも、今回の新型コロナウィルスは自覚症状の出ない潜伏期間中も感染能力があり、しかも潜伏期間が二週間(一カ月なんて話も出てますが)もあり、感染力絶大、症状が悪化する率はSARSなどに比べるとかなり低いものの、それでも一部の人は急激に悪化して手の施しようがなく死んでしまう、という厄介な性質を持っています。そして、この新型コロナウィルスに人類は免疫を持っていないため、いくつかの薬は候補に上がってはいますが、基本的に対処療法(栄養補給とか、熱を下げるとか)で、生き延びるのを手助けすることしかできません。
富める者も貧しき者も、男も女も、老いも若きも、国籍も信仰も信条も区別せず、平等に死を招く感染症というだけあり、人々の危機意識も相当なものがあります。
感染した場合に亡くなる確率は何も対策を打たなければ0.3%程度と見られています。このウィルスの特徴からいって、最終的には人類全員(76億6000万)が感染することでしょう。スペイン風邪のように第二波で致死率が大きく上がる、ということがなかったとしても、人類全員の0.3%、2300万人が亡くなります。
そして新型コロナウィルスですが、当然、どう対処すればいいかなど誰も知る筈もなく、各国は手探り状態のなか、施策を行っていくしかありません。
ベストな方法がわかっている学校のテストなどであれば、減点方式での採点をしていけばよいのですが、この感染症への対策については、ベストな方法はわからないのですから、加点方式で採点していく必要があります。
急いで実施してるんだから、効能>問題点なら仕方ないとある程度割り切らないといけません。マスコミもせめて同じ比率でいいので、施策によるプラスの効果について説明してくれれば、未来への希望が持てるんですけど。
今の状況は二週間前の〇〇と同じだ、とか医療崩壊してる国の識者なる人の説を紹介されても、説得力が薄いですよねぇ……。というか、その論調、2月から延々と続いているんですけど、いつまで続けるつもりでしょうか。
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さて、そんな新型コロナウィルスへの対応ですが、各国、選択している施策はまちまちです。日本の状況も施策も他国に類を見ないものです。とはいえ、各国の選択は置かれている状況の違いもあって、異なるのが当たり前であり、他の国が導入しているから、我が国も、というように簡単に導入できるとは限りません。
以下、新型コロナウィルスの感染爆発防止、死者低減に効果を発揮しているであろう項目を21列挙しました。それぞれの文のラストに(〇)(△)(×)と記載したものは、日本以外での導入が可能かどうか、という私の独自判断です。
◆地理的条件によるもので真似ることが難しいもの
1)家の中で靴を脱いでいる。(×)
→靴底から感染が広がっていると言われており、家屋内で靴を脱ぐ家の作りは、感染を抑える効果があるのは間違いありません。これは日本が「泥の文化圏」であり、外を歩いて帰ると靴は泥だらけで、そのまま家の中を歩いたら家の中が汚れてしまいます。建物自体が脱ぐこと前提か、そうでないかという話なので真似ようにもハードルは高いのが実情です。
2)風邪、インフルエンザ対策で手洗いをしている。(×)
→手に付着しているウィルスを洗い流す効果が期待できる訳ですが、そもそも清潔な水を潤沢に使える国自体が限られます。常に消毒液を使うと常在菌を死滅させることになり、リスクのほうが大きいのではないか、とも言われてます。それと清潔な水の確保に苦労する国が、消毒液の確保は容易なんてことはありません。
3)風呂に入る習慣があり清潔である。(×)
→体表に付着しているウィルスを洗い流す効果が期待できる訳ですが、そもそも清潔な水を潤沢に使える国自体が限られます。
4)毎日のように髪を洗っている。(×)
→髪に付着しているウィルスを洗い流す効果が期待できる訳ですが、そもそも清潔な水を潤沢に使える国自体が限られます。
5)衣類等の洗濯を頻繁に行っている。(×)
→そもそも清潔な水を潤沢に使える国自体が限られます。
6)頻繁に雨が降り、外気に面した壁、床、道路、扉等々、人が触れる部分の多くを洗い流している。また、雨水が海に流れるまでの時間がとても短い。(外国からきた人が日本の川を見て「これは滝だ」と言ったりしてます)(×)
→物(床、壁含む)に付着して感染が広がる、その表面を洗い流す訳ですから、感染を抑える効果は期待できます。……ただ、地理的条件なので、これは真似ようがありません。
◆社会制度上のものであり、短期的な導入が難しいもの
7)国民健康保険制度のおかげで、国民の健康状態が他国に比べるとかなり良い。かなり悪化してから病院に行く他国との違いは大きい。(医療費負担も大きいですけど)(×)
→色々と弊害もありますが、高額医療費免除の仕組みもあるため、治療を受けやすい恩恵は大きいものがあります。ただ、導入して定着させるまで何十年とかかる話です。
8)CT検査装置がOECD諸国平均の4倍と突出しており、肺炎の時にはまずCTで画像診断できるので、その時点で新型肺炎か診断しやすい。アメリカはCTの数は日本の半分ほどあるが、1回の診察に数十万と高額の医療費がかかるため、簡単に利用できない問題を抱えている。(×)
→個人医院でもCT装置を導入してたりと、日本のCT(MRIもそうですが)の数は突出しています。OECD諸国=他の国に援助するくらい裕福な国の集まり、その平均の4倍ですから。PCR検査は検出率はよくて7割、誤陰性になる確率も3割ほどあって微妙、それに比べて画像診断であれば9割以上の精度で判定できます。でも、だからといって、「PCR検査が微妙ならCTを使えばいいじゃない」というのは「パンがないならケーキを食べればいい」というレベルの話です。
9)上下水道を完備しており衛生的な環境が整っている。(×)
→排泄物から感染が広がるという話もあり、上下水道の普及は感染を抑えるかなりの効果が期待できます。……が、当然、普及には膨大な資金と物資とマンパワーと時間が必要です。
10)医療崩壊を防ぐため、社会活動を止められるだけの豊かさがある。(×)
→比較的、豊かな国であるブラジルですら「感染は止められない、それより経済を動かさないと」と大統領が言い出す事態になっています。日本の場合は、制度を用意しても、資金を配る速さが足りない点が問題となっていますが、そもそも配る資金がなければ、社会活動を止められません。
11)医療崩壊を防ぎつつ、経済活動を行うことを模索できるだけの医療体制の厚みがある。(×)
→そもそも、そんなことを行おうと考えられる国自体が少ないことをまずは認識しましょう。医療体制が薄ければ、そもそもその薄さに耐えられる程度の活動では経済が動かず死ぬ、そんな国が殆どです。先進国であっても余程上手く立ち回らなければ、感染者増による死者を許容せざるを得なくなるでしょう。そして医療体制の整備などというものは数十年、下手をすれば百年単位で時間が必要です。
◆生活習慣的なものであり、短期的な改善が難しいもの
12)肥満の人の割合が世界に比べるとかなり低い。(×)
→新型コロナウイルスの重症患者に肥満症患者が多い、というデータが出ています。そして、これは生活習慣の改善が必要であり、多くの人がダイエットに失敗しているように、簡単には改善できないのが実情です。日本人は肥満耐性が低い(海外では肥満=体脂肪率30%以上、日本は25%以上)こともあり、これでも太らないよう頑張っているほうらしいです。
◆導入には多額の資金や生産能力が必要であり、導入できる国が限定されるもの
13)症状が悪化した際、人工呼吸器で呼吸を補助することができる。(△)
→治療に使える人工呼吸器を沢山用意し、それを運用できる医療従事者を集めるには、資金と生産能力が必要です。でも、ECMOよりはまだハードルは低いです。
14)人工呼吸器で厳しい状況でもECMO(体外式膜型人工肺)という最後の手段がある。(△)
→人工呼吸器で厳しくなったら打つ手がない、世界的に見ればそちらのほうが普通で、日本が保有しているECMOの台数はとても多い、という幸いな状況です。使える人が足りない、という問題は出ているようですが。人工呼吸器よりも資金、生産能力、人員の確保が大変でハードルが高いです。
15)体調悪化時や花粉症対策でマスク着用をする文化がある(△)
→こちらはマスクを付けるなんて文化的にNGだ、なんて甘いことを言ってられなくなり、世界的に導入が進んでいますね。技術的、資金的なハードルが低いので、導入しやすい策です。ただ、使い捨てマスクを毎日、全員に行き渡らせるなんて真似は、生産能力的にも、資金的にも到底不可能です。スカーフで口元を覆うだけでも飛沫を低減させる効果は期待できるので、使い捨てマスクに固執する国は限定的でしょう。
16)花粉症対策であちこち空気清浄機が稼働してる。(△)
→一体、日本国内では何台の空気清浄機が稼働しているんでしょう? 空気中の浮遊物を減らす訳ですから、当然、感染を抑える効果はある程度は期待できます。物によってはウィルスを破壊する機能付きのものもあったりするくらいですから。ただ、当然、フィルターは消耗品ですし、機材自体もそこそこの価格ですから、先進国なら導入も進むでしょうけど、導入が進まない国のほうが多いでしょう。
17)BCG接種(結核)が効果を発揮しているのかもしれない。肺結核に効果がある=肺に症状が出る新型肺炎に効果があるのかも。(△)
→こちらは、大規模接種して効果を検証中ですね。もし効果があるとなれば、量産して、大規模接種と進む訳ですが、当然、資金的にも、生産能力的にもそれなりに大変です。マスク以上、空気清浄機未満ってとこでしょうか。
◆文化的なものであり、比較的、導入が容易なもの
18)他人に移さないように、移されないように自主的に外出を控える人が多い。(△)
→日本人は幸いなことに、外出を控えるようお願いすることで、人の接触をかなり抑えることができています。こちらを「△」としたのは、海外のように罰則を設けて強制的に外出禁止とする、という策にすれば、同じ効果が得られるためです。まぁ、外出禁止を破った市民を射殺した例とかはやり過ぎとは思いますが。
19)ハグしたり握手する習慣がない。(〇)
→習慣的なものですが、握手の代わりに肘を触れ合う、なんて感じに接触を抑えることはできてるようです。
20)他人とある程度の距離を取るのが一般的。(〇)
→ソーシャルディスタンス(社会的距離を取る)と称して、他人と1.8m以上距離を離す、ということが普及し始めているようです。こちらは狭い日本ではそれほど距離を離すだけのスペースがない分、ニューヨークなどではより効果的な導入が進んでいるように思います。
21)電車の中では皆、基本的に会話はせず静か。(〇)
→混雑した車内で、皆が話もせずにいるのは不気味、なんて語られてもきましたが、そのおかげで感染リスクを抑えることができてきたのも確かです。こちらも導入にコストはかからないので真似やすいと言えるでしょう。
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さて、21項目を見てどうでしたでしょうか? 思ったより海外では導入が難しい項目が多かったのではないでしょうか? もちろん、逆に日本では導入が難しい策もあります。中国のように東京レベルの超巨大都市を封鎖するなんて真似は独裁国家ならではの強硬策で到底導入できませんし、韓国のように軍の医療従事者三千人を投入して各家庭まで行って対応したり、位置情報確認アプリで行動をトレースするような真似は戦時体制国家(韓国は朝鮮戦争対応の戦時体制で大統領に大幅な権限が認められている、そして朝鮮戦争は休戦状態であり終戦はしていない)でないとできませんし、台湾のようにSARSで被害を受けた教訓から体制を大幅に強化してきた訳でもありません。国土の15%に国民が密集して生活しているので、ニューヨークみたいに他の人と1.8m距離を空けて、などということも物理的に不可能です。
また、スウェーデンでは1000万の人口に対して1500人以上(その多くが高齢者)が亡くなっています。人口比で考えると日本なら、1万5000人が亡くなった計算です。でも、政府の対応への支持は厚く、経済活動再開への流れに舵を切ろうとしています。高齢者への過度の治療は尊厳を損ねる、という考えが根底にあるからですが、これは死生観にも繋がる話で、日本での即時導入は無理でしょう。薬漬けで無理に生き延びさせる日本の終末医療がいいとは思いませんが、これこそ数十年単位でないと導入できない話でしょう。
以上のように、同じ施策でOKなどという国はなく、各国とも様々な制約の中で、なんとか被害を抑えようと懸命な努力をしています。他の国がやってるから、我が国も。……それが本当にできるのか、考える癖を付けましょう。新型コロナウィルスのワクチン開発は早くても1年後と言われてますし、長丁場になることは覚悟しなくてはなりません。
……と言っても、個人レベルではやることは変わりませんけど。三密(密閉空間、密集場所、密接場面)を避けて、手洗いをして、他人に感染させるかもしれないと常に考えてマスクをつけるようにして、後は運動不足にならないようにして、しっかり食事をして、良質な睡眠をとること、それだけです。
それともう一つ。気が滅入るだけなので、新型コロナウィルスに関する情報を見るのは1日1、2回程度に抑えましょう。上記の通り、個人レベルでやるべき行動は変わりませんから。
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<補足情報>
「8」で紹介したCT検査装置の数の国別グラフになります。OECDのグラフしか見つからなかったので、GDP上位25位までの国について、GDPから推測して追加してみました。
日本人のCT検査装置好きは、かなり特殊であることがこの表からもわかるでしょう。なんでこんなに多いんでしょうか。安くても数千万、高いと何億もする装置なんですけどね。資金だけなら日本より豊かな国はごろごろとあるだけに不思議です。
東日本大震災(M9.0級巨大地震)の時もそうですが、やはりその時代の人が、その時の視点でないと書けない内容もあると思い、思うところを書いていくことにしました。全てが終わった後であれば、あーすれば良かった、こうすれば良かった、と後付けの知恵も出てくるでしょうけど、今を生きる我々にそれはわかりません。2~11話も連載のほうに影響がない程度に、早めに投稿していこうと思います。