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87 わたしのいちばん長い日 終了 !

長かったイベントがついに終了です。



 シャドウレンジャー隊長は尻餅をついていた。


 「ダッ誰だ貴様!?」心底動転してる声音だった。思うに、サイと関わる人間としての経験がまだ無いのだろう。

 メイガンが言っていたように、詳しい状況を知らされないで〈魔導律〉パワーだけ渡され仕事をしろと言い渡されたのだ……


 「拙僧、名乗るほどの者ではござらん」

 巌津和尚――といっても出で立ちは変わっていた。黒っぽくて厳つい甲冑をまとい、笠は被っていなかった。そして憑き物が落ちたような穏やかな表情……



 ですぴーが言った。「おまえ……戻ってきたのか」

 「さよう、危急を要する事態ゆえ、こうして参った次第」

 「危急を要するだと?」

 巌津和尚はうなずいた。

 ですぴーがサイに顔を向けた。「サイファー」

 「ああ、そうだな」


 サイは腰を抜かしてへたってる背広隊長の側に駆け寄ると、かれのスーツの胸ぐらを掴んで軽々と引っ張り上げた。

 「やっやめろっ!」

 大柄とはいえ女性に足首が地面から離れるほど掴み上げられ、背広隊長はさらに困窮していた。ジタバタ抵抗するのもみっともないと思ったのか、手足をどうすれば良いのか分からないかのようにブラブラさせていた。

 「悪いがそれを頂く」

 サイは背広隊長が持っていた羊皮紙の巻物をふんだくった。

 用事が済むと、隊長を地面に降ろして、次いで広げた羊皮紙の上に指を走らせながらなにか唱えた。

 「やめてくれ!」

 シャドウレンジャー全員のコスチュームが消失した。


 「ああ……」

 背広姿に戻った彼は、サイの手にある羊皮紙に震える両手をかざして、注射器を見るヤク中みたいな顔つきになっていた。

 「〈魔導律〉を操るのは楽しいだろうが、これはおまえたちが使っていい玩具(おもちゃ)ではない。大人しく退散するがいい!」

 「そ、そんなもんおとなしく従えるわけないだろ!おまえたちは……おまえたちは我が国に従属すべきなんだ!それで安全保障の枠組みが保たれるのだぞ!おまえたちが好き勝手に暴れたら世界は――アメリカ一強の地獄と化してしまう!」

 言葉とは裏腹に、できればいますぐ帰りたいという感じで後ずさっていた。それができないのはひとえにメンツをどうにか保ちたいからと思われた。

 サイは相手にしなかった。

 「知るか。それよりうしろを見てみろ」

 背広隊長はサッと背後に首を巡らせた。


 階段のほうから野次馬が再び押し寄せていた。

 おまわりさんが必死に押しとどめようとしてたけれど、多勢に無勢である。西館企業ブースからも待避してた人がどんどん出てきて、わたしたちの対決を眺めていたのだ。


 「ああくそ!おいおまえらなにしてるんだ!オタクどもを追い払えと言ったろう!」

 「人手不足なんですよ!」警察の人が面倒くさそうに答えた。

 

 わたしはぼんやり、晴れ間の戻ってきた空を眺めていた。

 たしかにですぴーが言うように最終決戦としてはいささか緊迫感に欠ける展開が続いて、わたしも緊張感がすっぽり抜けていた。お亡くなりになったはずの巌津和尚が生き返ったらしい、というあたりで思考回路もショートしかけていた。


 ですぴーが大剣をを肩に担いで言った。

 「おーし撤収だ皆の衆。ブライアン、中国人を頼む」

 「ウィース」

 Aチームがメイガンと一緒に柵を跳び越えて地上に降りた。ですぴーが片腕にタカコを抱えて後に続いた。

 「パワー」を取り上げられた背広に彼らを留める術はなく、ただもう早く消えてくれと願っているように思われた。


 「巌津和尚」サイが言った。

 「話を聞きたいのだが」

 「拙僧も望むところである」巌津和尚は首をかしげた。「さて、おぬしも転移者とお見受けしますが、先ほどサイファーと呼びかけられていたようだが?」

 「わたしはサイファーだ。姿は変わったが」

 「さもありなん」和尚はうなずいた。

 「拙僧も彼方(あちら)でいささか見聞を広めましたのでね。願わくばずっとバァルに滞在したかったのであるが、まだここでやることがあると天使に告げられ転生した次第」

 「たいへん興味深いことだ。では今夜、わたしたちは八重洲で「打ち上げ」をする。貸し切りなので人目は気にならない。6時半からはじめるので、お出で願いたい」

 サイは店の住所を書いて渡した。

 「ご招待頂き恐縮」和尚は片手でお辞儀した。「伺いましょう……しかしまずお山に戻り黄泉がえりの報告をせねばならぬので、ここは失礼する」

 巌津和尚はそう言って錫杖を地面に打ちつけた。

 姿が消えた。


 遠巻きのギャラリーがどよめいた。


 「さっナツミ、たいへんな一日だったけど、今度こそ終わりだ」

 「サイ、打ち上げなんかできるの?大騒ぎなんだよ?」

 サイはうなずいた。

 「大丈夫、店は予約してある。上野さんたちに連絡しなよ。憂さ晴らしに飲んで騒ごう」

 サイが保証するなら大丈夫なのだろう。

 「うん、そうする」


 「おまえらなんぞとっとと行っちまえ!」背広の人が泣き出さんばかりに毒を吐いてたけれど、サイとわたしは無視した。


 わたしがサイに抱きつくと、背後で再びどよめきとシャッター音が聞こえたけれど、なんだかもうどうでもよかった。


 大事なのは、数々の嫌がらせや妨害を踏み越えて、サイとわたしがこうして一緒にいられること。



 それ以外はなにも求めない。



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