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86 わたしのいちばん長い日 ⅩⅤ


 お巡りさんたちは気が進まないのか、なかなか動こうとしない。


 警察と背広の人のあいだに温度差があるのは明らかだった。変わって背広の何人かが動いた。

 まず比較的御しやすいと踏んだのか、Aチームの拘束を始めた。ボブがわざわざうしろを向いて手錠をはめるのに協力した。楽しそうな顔をしていた。


 「メイガン中尉」サイが言った。「こいつがあなたの言っていた「黒幕」の一員だろうか?」

 「明らかにそうよ」後ろ手に手錠をかけられながら、メイガンが答えた。

 「オイいまこいつって言ったな!」背広が叫んだ。「おまえだけは後悔させてやるから、覚悟したまえ!」

 メイガンが言った。

 「威張り散らすのはいいけど、今ごろは領海侵犯した中国の原潜について、我々と日本首脳部は手打ちしている頃ですよ。あなたのボスは恐慌に陥ってるでしょうね。あなたが焦ってこんなことしているからには、間違いなく」

 「なにを言ってるのか理解に苦しむね!」

 「それはそうでしょう。肝心な説明はなにひとつされないで働く役人に過ぎないのだから。あなたこのまま暴走したら東京湾に浮かぶことになるわよ?」

 「わたしを侮辱するのもたいがいにしたまえ!」


 背広の人が本格的に腹を立て始めた。本当に今日という日はいろんな人が腹を立てる。

 「巡査部長!ぐずぐずしてないで拘束に協力したまえ!」


 だけど警察の隊長とおぼしき人は先ほどから携帯で通話しながら、片手で部下を制していた。

 背広の面目はそろそろ保ちがたくなっていた。


 いっぽうで、サイとですぴーはわたしとタカコを囲むように移動していた。それで背広たちは、わたしを拘束したければまずサイとですぴーを排除しなければならない、という立ち位置になった。

 背広の手下たちは仕方なく、といった様子でサイに手錠をはめた。デスペランもリン・シュウリンを地面に降ろし、大剣をコンクリートにドスッと突き刺して従った。


 「この民間人女性ふたりはどうします?」

 背広はわたしたちをじっと見て、言った。

 「手錠は必要ないだろう。尋問はする。ほかの連中とは別で」


 全員の拘束を終えると、背広は目に見えて気分がよくなったようだ。

 「あーところで、おまえたちの一味に小僧がいたはずだ。サイファーという外人のガキだ。どこにいる?」

 「いたらどうするのだ?」サイが尋ねた。

 「特別注意しろとのお達しで――おい女!きさま質問していい立場じゃない!黙れ!」


 背広は言いながら、懐からなにか取り出した。

 羊皮紙の巻物だ。  


 それを見て、サイとですぴーは顔を見合わせ、うなずきあった。

 

 「ゴーだ!」ですぴーが言うと同時に、Aチームが手錠をあっさり引きちぎった。


 「貴様らっ……!!」背広が驚愕に眼を見開いて叫んだ。


 サイとですぴーも難なく鎖を引きちぎって、手首の鉄輪も簡単に取り外してしまった。


 サイが手首をさすりながら、ゆっくりと背広に向き直った。

 「さて」デスリリウムを拾いながら言った。「次はどうする?」

 

 背広は憤怒に顔を赤くして、2~3歩後じさった。

 「貴様ら……」


 ですぴーがサイの横に並んで、大剣で肩をトントンしながら言った。「最終対決としては、少々張り合いに欠ける」

「どうかな……おい背広のあんた、これでおしまいか?なら今度はこちらの用件を言う」


 「くそっ!これだけは使いたくなかったが仕方ない――! 」背広はあの羊皮紙を取り出して叫んだ。「V作戦!」

 背広を頂点とした逆さVの字を形作るように部下が整列した。背広隊長以外は苦虫を噛み潰したように顔をしかめていた。

 「変ンンッ身ッ!」


 ボブがですぴーのとなりに寄って、言った。

 「ボス、まぁたシャドウレンジャーのお出ましみたいっすね」

 ですぴーがうなずいた。

 「あの手の変身術はな、術者の潜在意識から「パワー」の源泉(イメージ)を汲み取るんだ……つまり多感な時期に変身ヒーローに憧れていたりすると」あとは分かるな?というように手を振った。

 「えっそうなんスか!?」ボブは自分のコスチュームを慌てて見下ろした。全身緑色のタイツだ。「嫌なこと聞いてしまった……」

 

 今度のシャドウレンジャーは9人。

 全員銀色と赤のダイバースーツっぽかった。フルフェイスのマスクもスーツと一体化していた。


 (レンジャーって言うか……アレだな)わたしは思ったけれど口には出さないことにした。

 

 「さあ来い!愚かな米帝の走狗ども!」


 「どうする~?サイファー」 

「わたしもいい加減うんざりだ。さっさと片付けよう」

 「だよな?せっかく元に戻ったんだからよぅ、久々にしっぽり行こうや、な?」

 「誰がしっぽり――」サイはデスリリウムを振り上げた。「行くかっ!」思い切り剣を振り抜いた。

「シェッ!」

 シャドウレンジャーの皆さんは高く飛びのいて散開した。

 「わたしが授けられた大いなる力を見よ!」

 背広隊長がそう言って額にはめたグリーンの石に両手の二本指をかざした。

 「いま必殺の――」


 そのとき、地面が揺れるほどの雷鳴が響いて、シャドウレンジャーとサイたちのちょうど真ん中に 雷が落ちた。サイまでがたじろいで目を覆うほどの光と衝撃波だ。


 落雷のあとは嘘みたいな静寂が続いた……呆然とするわたしの耳に「しゃらん」という聞き覚えのある音が聞こえた。


 落雷地点に人影があった。

「双方、争いをやめい!」

 聞き覚えのある銅鑼声……。

 たいそう大柄な人物が、錫杖をトン、トンと打ちつけた。

 「この勝負拙僧が預かる」



 真空院巌津(しんくういんがんつ)和尚だった……!


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