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85 わたしのいちばん長い日 ⅩⅣ

          

 ほんの数分前に「ここは危険だ」って認識してたのにわたしのドジ!



 さっそく絶体絶命のピンチに陥ってしまって情けないやら申し訳ないやら――


 でもスーパー美女化したサイにとってはピンチでもなんでもなかった。


 勝ち誇ったブラックスワンが畳みかけるように勝利宣言をしようとしたそのとき、巨大ロボはうしろから蹴られた――突如出現した巨大化美女に。 

 衝撃でブラックスワンは巨大ロボから投げ出された。その身体をですぴーがキャッチした。

 ロボは再びなすすべもなく転倒した。巨大化してフル甲冑に翼まではやしたサイはその背中に容赦なく剣を突き立てた。

 ロボは火花を散らせながら巨大な手足をガチャガチャと藻掻いたけれど、二度三度と剣を突き立てられてついに動作停止した。

 サイは巨大ロボの足首を掴んで軽々と吊り上げると、その図体を力いっぱい空に投げ上げた。


 巨大ロボが宙で大爆発した。


 わたしとタカコは四角い樹脂製の腰掛けの陰に伏せて爆発をやり過ごした。

 何百メートルも離れてたけど熱風と焦げた匂いが襲ってきた。破片が壁に当たる音も聞こえた。


 ゆっくり顔を上げると、燃えさかる残骸が海に落ちてゆくのが見えた。巨大女サイは消えていた。

 ですぴーがブラックスワンの身体を抱えて戻ってきた。

 わたしたちはゆっくり身体を起こして立ち上がった。

 

 「どりゃあ!」ですぴーがいきなりブラックスワンの襟元に手をかけて、コスチュームを引き裂いた。

 「ヤッやめてなにするネッ!?」

 さすがのタカコも困惑していた。

 「ですぴー!いくらなんでもそれ――」

 「あン?このスーツがヤバいんだよ。脱がさなきゃパワーを奪えねえ」

 ですぴーはそう言ってのこりの部分も乱暴に引き剥がした。もっともその下には競泳水着に似た黒いインナーを着てたけれど。

 ヘルメットもむしり取ると、憤怒をたぎらせたリン・シュウリンの顔が現れた。

「武装解除完了、と」


 ですぴーの傍らにサイも舞い戻ってきた。

 うしろに腕を回されですぴーに押さえられていたリン・シュウリンが、サイを見て思いきり顔をしかめた。

 「伏兵いたとは分からなかったネ!あんた何者か!?」

 サイはそれには答えず、リンの腹にかなーり力のこもったパンチを叩き込んだ。

 リンは「ハウッ」と息を吐き出してがくっと卒倒した。サイもけっこうドイヒーだけど女同士だとショックも少ない。

 四月以来、サイとわたしに迷惑をかけ続けた女だ。

 「あとでいろいろ聞き出す」

 「だな」


 わたしはたずねた。「サイ、今度こそおしまい……?」 

 「そのはずだが」サイは空を仰いだ。

 いまだ曇天が広がっている。


 突然、いろんな人が現れ始めた。

 右手のほうからメイガンとAチームが駆け寄ってきた。

 「ボス!潜水艦はケリが付きましたよ!」

 「おう!ふざけたブリキ野郎も片付けたぜ」

 「ディー」メイガンが困惑していた。サイのほうに手をひらひらさせながら尋ねた。「そちらの女性は……どなた?」

 「そうよボス!」ジョーが瞳をきらめかせていた。「そのウルトラゴージャスな王女様、誰なんすか?」

 「まさか……」簡単な算数でシャロンが真相に思い当たった。

 ですぴーがわざとらしく咳払いした。

 「諸君、その話はあとで!それより面倒そうなのが12時方向からやってくる」

 Aチームが振り返って、階段のほうを見た。


 日本のお巡りさんと背広のおじさんたちがぞろぞろやってくるのが見えた。


 「日本国がやっと動き出したらしい」ですぴーが皮肉っぽく言った。


 お巡りさんたちはわたしたちを遠巻きに包囲した。背広の人がひとり進み出て、わたしたちを見渡した。

 「あー、責任者は?」

 メイガンが一歩踏み出た。「わたしです」

 「きみが?」背広の人は不信感をあらわにメイガンを眺め回した。「ま、良かろう。君たちの身柄は我々が預かる。どうか従ってもらいたい」

 「謹んでお断りする」サイが言った。

 「きみ」背広は失笑した。「どうか従ってくれ、とは言ったがね、これはお頼み申し上げてるんじゃないんだよ。きみたちは治安擾乱その他深刻な容疑をかけられているんだ」

 「なにを言うのも勝手だがまず名乗られるがいい」

 「わたしは――」背広は言いかけて舌打ちすると、振り返って警察関係者を手招いた。

 「オイきみたち!この連中を拘束したまえ!それからそこの大男!」ですぴーを指さした。

 「おれ?」

 「そうだ、その押さえつけている女性を放したまえ!明らかに不当拘束だ」

 ですぴーは笑顔で言った。「やなこった」

 「君たち」背広は腹立たしげに笑いながら言った。「そういう態度は事態を悪化させるだけだよ?大人しく事情聴取に従わないと――」

 「外交問題になりますよ」メイガンが言った。

 背広がキレた。

 「そうだとも!きみの国にとって大きな外交上の失態となるだろうね!黙っていろお嬢さん!君たちコスプレのチンドン屋風情がなにをほざいても無駄だ!我が国は主権国家なのだ。外人が好き勝手に蹂躙して良いモノではないんだよ!オイなにしている!?さっさとこの連中の身柄を拘束しろ!」


 (え?わたしたち逮捕されるの?)


 たいへんな一日の、度重なる困難の結末がこれなのか?


 「ナツミ、これちょっとヤバい雲行きじゃないこと?」

 タカコがわたしの肩に手を置いて言った。わたしはその手に掌を重ねた。

 「うん、でも……」


 Aチームもメイガンも、サイもですぴーも落ち着き払ってる。


 わたしは、サイを信頼してとことん付き合うしかない!


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