★81 わたしのいちばん長い日 Ⅹ
ロボットの肩の上に人影が現れた。
赤とか青とか賑やかなカラーコスチュームの五人組、シャドウレンジャーだ。
そしてロボの頭の上にもうひとり。ブラックのコスを身につけた女性……コスプレ広場でサイと戦っていた相手だ。
「ホーッホッホッホッ!!」
なんと、腰に手を当ててと高笑いしてる……。
それからわたしたちに指を突きつけて宣言した。
「ワタシの名前、ブラックスワンね!あんたたちワタシのパワーに敵わない!降伏するがイイネ!」
「口上を述べるまえに高笑いする奴って本当にいるんだな……コミックだけかと思ってたが」腕を組んだボブが感慨深げに言った。
サイが短剣をブラックスワンと称する女に向けた。
「リン・シュウリン!おまえこそもう積んでるだろ?大人しく降伏してこれ以上恥をさらすな!」
「ワッワタシリン・シュウリンちがうネ!デタラメ言うのイケナイ!」
「なんでも構わないが、戦う気か?」
「その通りネ!」
リン・シュウリン――もといブラックスワンが手首に巻いたなにかを指で操作すると、巨大ロボが身じろぎした。
足を大きく振り上げて潜水艦のハッチをまたぎ越え、海に降り立った。
「スゲーな歩いてやがる」
「ボビー!感心してないで戦闘準備!」
「あいよジョー!」
ロボが大きく腕を振り上げてサイが立っていた塔に振り下ろした。ガシャン!という大きな音とともに塔がひしゃげた。
サイは一瞬まえに飛び上がって攻撃を逃れていた。
「あの調子じゃ艦は放棄するつもりだわ!」メイガンが叫んだ。「やつらは爆破装置をセットしたと思う!」
「ボス!俺らはシャドウレンジャーを片付けてあの艦の自爆を阻止します!どうせロボ相手は無理だし!」
「了解だ!ブラックスワンとロボは俺とサイが引き受ける!」
ですぴーはそう叫ぶと振り返って、わたしとタカコをいきなり両脇に抱え上げてジャンプした。
「ちょっ!」倉庫二棟の屋根を軽々と飛び越え、Uターン路に着地すると、わたしとタカコを降ろした。
「ですぴー!いきなり――」
「お嬢さんがた、トレイラーまで引き返せ。いいな?」
「わ、分かりました……」
「じゃ、ちょっくら行ってくるわ」
「気をつけてねですぴー!」
「おう!」
ですぴーがふたたび跳躍して岸壁に行ってしまうと、取り残されたわたしとタカコは言われたとおり駐車場に向かった……
しかし、またしても大勢の野次馬が会場のほうから押し寄せてくる!
「な、なんだよアレ」
わたしは背後に振り返った。
「ロボットのせいだよ。ここから見えるもん」
「無理もないか……でもこのまま行かせたら危険――」
背後でもの凄い破裂音が響きわたって、わたしたちはぎくりと首をすくめてふたたび振り返った。
オレンジ色の混じった大きな黒煙が倉庫の屋根から立ち昇っていた。
爆発したのだ!
「たいへんだ……!」
これにはさすがの物見高い人たちも立ち止まらざるを得なかった。
立ち止まって、ざわつき始めた。
わたしとタカコは手をつないで、棒立ちになった人たちのあいだを走った。
足元には、いつの間にか現れた猫のハリー軍曹が軽やかに追従していた。
駐車場も人で一杯になっていた。だけど幸い、視界が遮られるからトレイラートラックのまわりにはあまり人はいない。
さっきは気付かなかったけれど、トレイラーの両隣の車両もアメリカの組織の車両らしい。どうりで似た車両が並んでたわけだ。
カーゴドアが開け放たれて、外人が出入りしていた。背広姿に普段着の人もいるが、軍人さんらしき人はいなかった。みんな埠頭のほうに走ってゆく。何人かは大きな機械を抱えていた。
わたしたちが急なラダーを登ってトレイラーの中に乗り込もうとしていると、メイガンが追いついてきた。片手に拳銃を握っていた。
「あんたたち、無事?」
「メイガンさんも」
「ええ、あっちに突っ立ってたら無事じゃ済みそうもないから退散したわ。どうせわたしは役に立たないしね」
「メイガンさん、このままだとパニックが起きそうですよ!}
「分かってる。これでもマスコミの動きを抑えてるからまだマシなのよ。警察が道路を封鎖して地下鉄駅のほうに群衆を誘導してるけれど――」
またガツン!という大きな音が響き渡って、同時に何千人が同時に息を呑む「ウォーッ!」という声が轟いた。
ロボットが上陸したらしい。
倉庫を蹴散らして、こちらに近づいてくる。
「すっげー!これってブシ○ードのイベントってマジ?」
「ヤリスギなんとちゃう?」
おたくさんたちがスマホと目の前の光景を見ながら喋っていた。
メイガンがそれを見てため息をついた。
「わたしたちがカウンターデマを流布するまでもないわね……どこかの親切な人間がデタラメ書きまくってる」
巨大ロボの頭に雷が直撃して辺りが騒然とした。ロボットはぐらりと傾いたけど、転倒はしなかった。
もうロボットの周囲を飛び回っているサイとですぴーの姿まで見える。
わたしたちは暑さも忘れ、だんだん接近してくるロボットの巨体を、麻痺したように突っ立って眺め続けた。
おかげで、また隙を突かれてしまった。




