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80 わたしのいちばん長い日 Ⅸ


 タカコが言った。

 「エッ?どこの潜水艦?」


 「中国」Aチーム全員とメイガンが同時に答えた。


 「そんなにマズいんですか?」わたしがたずねた。


 「アレ、原潜だ」ボブがそれで全部理解できる、というように言った。

 「しかも戦略級原潜」

 ジョーが補足してくれたけど、それで乙女ゲー腐女子のわたしに分かるわけなかろう?


 光の筋の先端にはサイとですぴーがいた。あの2人の〈魔導律〉パワーだけででっかい潜水艦を引っ張っているようだ。

 潜水艦は急に船体の半分ほど見えるくらい浮上した。

 もの凄くでっかい船だ。100メートル以上ありそう。

 「あ~あ、浅瀬に乗り上げたな。完全に座礁した」ボブが言った。


 潜水艦は岸壁の手前で、すこし傾いて完全に停止した。


 メイガンは金髪を掻き上げながらスマホで通話していた。

 「――はい……セルフォン回線なので具体的な名前等は避けてください。いま現在湾で起こっている案件についてです……衛星で確認してください。そちらのチャンネルを通じて自衛隊と警察の動きを牽制していただけますか?……はい、彼らは対処したがらないと思います。わたしたちが介入すると言えば丸投げしてくれるはずです……はい、よろしくお願いします」


 ですぴーがわたしたちのところまで飛んできて、ひらりと着地した。

 「ボス、えらい釣果っすね!」

 ですぴーはごく真面目な顔でうなずいた。「大漁だ」

 「ディー!これは国際問題になるわ!」メイガンが抗議した。

 ですぴーがにんまりした。

 「この国がどう対処するのか、見物だな」

「サイファーは、アレをどうするつもりなの?」

「知らんが、このあたりに居ちゃイケない船だろ?文句は言わせねえ」

 「あなたたちがさっき戦った連中、たぶん自衛隊でしょ?彼らがあの船に逃げ込んだなら、極めて重大な問題だけど……」

「まあ俺は政治的なあれこれは知らんが、問題だろうな」

「がっちり証拠を押さえる必要がある。それで日本政府をぐうの音も出ないくらい締め上げられる」

 「中国は?そっちの方が深刻だぜ?」ブライアンが言った。

 「そりゃあ……」メイガンは潜水艦を見て、途方に暮れたようにため息をついた。「見当もつかない」

 「第三次世界大戦は勘弁して欲しいな」シャロンが言った。「こんな状況で始まりましたなんて恥ずかしすぎる!」


 サイは船体の真ん中にそそり立つ塔の上に立って、船体のうしろのほうを見下ろしていた。

 

 「動きがない」ブライアンが言った。

 「おおかた、あちらさんもどうすべきか悩んでるんだろ?破れかぶれでもう一回仕掛けてくる可能性、高いぞ……」

 メイガンが振り返った。

 「ナツミ、タカコ、あんたたちは下がって!ここは危険よ!」

 「は、はい……あっ!」


 ガクン!と金属がきしむ音が響いて、みなが注目した。

 潜水艦の後ろ半分、背中のあたりが大きくふたつに開いている。


 「おいミサイルサイロがひらいてるぞ!」ボブがかなり逼迫した声で叫んだ。


 それがなにを意味しているのか、ミリタリー音痴のわたしには分からなかった。

 分からなくて幸いだった。ああいう潜水艦は普通、背中に核ミサイルを積んでるのだ――ずっと後で知らされたことだけど。


 意味を承知していたAチームは、もの凄く焦っていた。しかし――


 「あの開き方は変だわ……」メイガンが言った。

 「たしかに、核ミサイルサイロの開き方じゃねえけど……オイマジか!?(ホーリーシェット)」ボブの声が驚愕で半オクターブ跳ね上がった。

 

 潜水艦の中から、銀色の骨組みのかたまりみたいな物体が、悠然と身を起こしていた。

 

 「アレって……」ジョーがなにか言おうとして、手をヒラヒラさせた。

 

 巨大な骨組みのいちばん上の部分は、四角い頭のようだった……なぜなら黄色い眼がふたつ、光っていたからだ。

 それに腕が付いていた。巨大な骨組みの腕がギシギシと擦り切れる金属音を響かせながらハッチの縁に掛かり、巨体を引き上げた。


 「ロボだ……!」ボブが言った。

 

 そう、巨大ロボットが出てきた。


 ――マジか!?


 角張った「胸」の部分に緑色の光が灯っていた。

 あの光はハワイで見た。〈魔導律〉でパワーアップした巌津和尚からサイが取り出した、結晶の光だ。

 つまり、またしてもメイヴの力を利用して作られたロボなのか……


 「オイ、ロボだぞ。報告しなくていいのか?」

 「えっ……?」ブライアンに言われてメイガンが呆けたように答えた。

 「え~と……上になんて報告すればいいのか、なぁ……」


 「中国って進んでるんだな~」ボブも魂の抜けた声で呟いていた。

 

 巨大ロボットの腰のあたりに〈 Xianxingzhe Mk-42〉とデザイン書体で書かれている。読めないけれどなんかカッコイイ。


 メイガンがハッとして、叫んだ。

 「だれか、記録撮ってる!?」

 「はーい」タカコがスマホを構えながら手を上げた。

 『マーシャル中尉、三基のドローンが記録中です』無線の声が答えた。

 


 そして、雲行きが怪しくなっていた。

 比喩ではなく、本当に暗雲が立ちこめている。ついさっきまでギンギラギンに炎天下だったのに。

 この突然の天候急変も過去に二度経験している。

 サイによれば、〈魔導律〉の集中発動は地球の森羅万象にたいへんな影響を及ぼすらしい。真っ先に影響が及ぶのが「空気」だ。


 ロボットが完全に立ち上がった。何十メートルも高さがある。

 ロボットは目の前のサイを見下ろしていた。


 対峙する勇者と巨大ロボを雷光が照らし出す。



 正直言って、生まれてこのかた、これ以上へんてこりんな構図は見たことなかった。

  

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