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61 (またしても)招かれざる客


 翌日。


 夜通し遊んでた皆さんも無事朝食の席に現れたので、わたしはホッとした。

 タカコも社長も朝帰りだ。

 その割にはぴんぴんしてる。

 

 「ハァ――――……」

 社長がながなが嘆息した。昨日の余韻を噛みしめてるのだ。

 タカコも満ち足りた微笑を浮かべてた。

 「わたし、ブライアンと結婚するかも」

 ブライアンはAチームのミスターTだ。昨日は力こぶを盛り上げた両の二の腕に社長とタカコをぶら下げてた。たしか画像が残ってるはず。

 「おめでとう」

 タカコがわたしの肩をどやした。

 「あんたはいいよサイとラブラブしてれば。あたしはひと夏の恋に身を燃やし尽くすの!」

 「コミケそっちのけで?」

 「うぐっ……それを言われると辛い」

 「タカちゃん」社長が改まった口調で言った。「あんたの27歳の夏はかけがえがないんだよ。誤った選択肢に迷ってはダメ」

 「社長……その言葉重たすぎなんですけど……」



 バーベキュー会場は太平洋を望む断崖に面した芝生の公園だ。緑色の原っぱが遠く山の麓まで続いてる。

 参加人数は30人くらいに増えてる。

 大半はAチームの職場関係の友達らしい。その家族もちらほら。


 大きなバーベキューピットにクーラボックスのビール。お肉お肉お肉。シャロンは気を利かせて野菜串とコールスローを用意してくれた。

 男性陣はサッカーに興じてる。

 なんというのんびりした空気……。


 そしてバーベキューリブ!

 なんという美味しい食べ物なのだ!

 なにも汚さずリブを食べる方法はまずないけれど、その犠牲に見合うだけの美味しさであった。

 日本でオタクなんかしてるとアメリカやイギリスの食べ物を馬鹿にすることがしばしばだけど、リブとハニーマスタードを発明しただけでも、彼らの味覚がそれなりに複雑だと分かるだろう。

 ただし分厚いステーキは「お肉!」って感じで、経験値の高い社長が機転を利かせて購入した日本製ステーキソースがありがたかった。

 だいぶアゴの筋肉を鍛えたと思う。


 「でも食い物を食った!って実感はあるわぁ~」

 「そうね、食べ過ぎちゃった……ポークリブ美味しかったな~。あれ日本でも食べられるかな」

 「『トニーローマ』にあるよ。オニオンフライも美味しいのよ。あとで行ってみよう」

 わたしとタカコは満腹のおなかを抱えてピクニックシートに座っていた。ふたりともTシャツにアロハ、麦わら帽姿。

 『食べて、祈って、恋をして』の「祈って」の部分を省略した感じだけれど、じゅうぶん満足だ。

 

そのうちにタカコは立ち上がってAチームのテーブルに行ってしまった。デスペランさんの背中にメイガンが覆い被さってるのを見たのだ。

 ブライアンとの恋愛を押すんじゃなかったっけ?


 サイはシャロンのお母さんとなにか喋っていた。フラが上手な太めの女性で、午前中わたしたちは子供たちと一緒に教えてもらったのだ。



 サイがわたしのそばに駆け寄った。

 「どうしたの?」

 「シャロンのママがいったんだ。なにかよくないものが近づいているそうだ」

 「よくないもの……?」

 サイに引っ張られてわたしは立ち上がった。手をつないで断崖に向かった。

 「サイファー、どうした?」

 サイのただならぬ様子を察知したのか、デスペランさんも駆け寄ってきた。

 サイは水平線の彼方をじっと睨んでいた。

 「デスペラン――」サイが海を見据えたまま言った。「みんなを避難させてくれ」

 デスペランさんが振り返って口笛を吹いた。

 「Aチーム!警戒態勢だ!みんなをここから退避させろ!――」

 

 そう叫んだとたん、地面が激しく揺れだした。


 「じっ地震――!」

 サイがつんのめりかけたわたしの体を抱え上げた。

 サイもデスペランさんも地面の揺れをものともせず、バーベキューテーブルに向かって走った。

 バーベキュー参加者たちは全員テーブルに伏せるか地面に尻餅をついている。

 わたしはサイに抱っこされて首にしがみついたまま、海のほうを見た、

 さっきまでわたしたちが立っていた崖縁が崩れてる。

 水平線あたりの空が真っ黒になっていた。


 そして、人間がひとり、立っている。……だけど遠近法がおかしい。人間にしては大きすぎる……


 でっかいお坊さんだ。


 それは真空院巌津和尚だった!


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