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6 やっぱまずいかな

         

 わたしはそのうちに、彼がイタリアあたりに「帰りたい」と言い出すんじゃないかと冷や冷やし始めた。

 ……そう、サイファーくんという歩く厄介者が現れたばかりだというのに、わたしはもう彼を失うことを心配していた。何故なんだわたし?

 わたしにも分からない。オトメゴコロってやつですかしらね、おほほ。


 とにかく、PCで画像検索し続けたら、彼が住んでいた場所に似ている古い街並みをそのうち見つけるのじゃないか?


 だけど、彼はどちらかというと「塔」に気を取られた。

 「塔」というのは高層ビルのことだ。何百メートルも垂直にそそり立つその姿を、サイファーくんはにわかに信じられないでいた。


 「そんなのどこにでもあるよ」わたしは窓の外を指さした。雨はやみ、垂れ込めていた雲も晴れ始めていて、遠くに川越市内のビル群が見える。

 「本当だ……」

 「まあせいぜい2~30階だけど」

 「あんなところには、さぞ名のある賢者か豪族が住まわれているのだろうな?」

 「いや~……それはど~かなぁ」


 彼は厚い皮のベルトに巻いた装備しか持っていなかった。小さなポーチから砂時計を取りだし、それが落ちる時間をわたしに計らせると、その結果からこの世界の一日の時間を割り出した。

 「一日の長さは俺の世界と変わらないようだ。一日が七回で「一週間」、およそ30回で「一ヶ月」12ヶ月で1年か……」

 「そう。それで……あなたが何歳なのかも分かるかな?」

 「ええと……」彼は計算した。「15歳と……二ヶ月」

 「やっぱ犯罪じゃん」

 「え?」

 「いやこっちの話」

 「そうか」

 「ちなみに……わたしはね――」

 サイファーくんは手で制した。

 「ご婦人に年齢を尋ねるのは礼儀作法に反すると、かつて父に教わったのだが」

 「お父様は紳士なのね!それではそういうことで」


 彼は距離や面積についても調べた。

 わたしは彼の使う単位から電卓を使って㎞や㎝を割り出し、この世界の単位を彼に伝えた。さいごに彼は地球の総面積を割り出して、衝撃的なひとことを言った。

 

 「ここは、俺が住んでいた世界より狭い」



 「この世界のどこにも出掛けられるのだろうか?」

 「ああそれは」ついに来るべき問いが来た。「パスポートっていう通行証みたいなものがないと、日本の外には出られないの……」

 「地球の反対側まで二日で行けるそうだな、この、「旅行サイト」によると。冗談じゃなくて?」

 「飛行機に乗れば」

 彼はもう飛行機がなにか知っている。「ドラゴンの五倍も速く移動できるとは……」

 「どこかに、行きたい?」

 「そんな必要はないだろうな」彼の答えに少しホッとした。「ただ見物に行くのは楽しいだろうけど。しかし当面はカワゴエでいい。なぜここに来たのか、意味があるかもしれないし」

 「それを……探るの?」

 「探る必要はない。なにかあるなら向こうからやってくるに違いない」

 「そ、そういうもん?」


 なんかサクッと不吉なこと言ってない?


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― 新着の感想 ―
[良い点]  サイファー君のやや達観しているけどスレていない性格と、ナツミさんのどことなく頼りないけれど肝心な部分はしっかりとした性格がとてもバランスが取れていてスムーズに物語の中に入っていけます。
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