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58 超展開

       

 それからわたしは大勢に祝福のキスやらハグやらを受けたけれど、ぼろぼろ涙があふれてなにがなんだか分からなくなってたので、よく覚えてない。

 

 「ナツミちゃんを泣かせる作戦成功」

 タカコが勝利の笑みを浮かべて宣言した。

 「もうっ……!」わたしはようやく、昂ぶった心を静めていた。

 「そうだ、タカコが俺に教えてくれたんだ」 

「ありがとう、タカコ」この10分で何度ありがとう、サンキューベリーマッチと言ったか分からなかったけど、また言った。

 「あんた去年も誕生日忘れてたって言ってたし」

 「だってママでさえ「七夕は七日だよ」とか言うんだもの。冗談でもちょっと傷つくし」


 Aチームがまたしても乾杯で祝ってくれて、わたしはなんだかフワフワしてきた。

 「フルーツパンチ美味しいね~」

 「あ、あれボビィがテキーラドボドボ注いでたから、気をつけてね……」

 もう四杯も飲んじゃった~。


 そこから記憶が飛び始めた。


 ケーキが切り分けられた。ものすごーくあまーい。


 誰かがカラオケでビリー・ジョエルを歌ってブーイングされてる。


 ミラーボールがキラキラ煌めいてみんなが踊ってる。


 AチームのミスターT(仮名、まだ名前聞いてない)がキメキメのダンスを披露してる。


 「ハリー軍曹ってどこからとってつけたのよ?」

 「ハリー・キャラハンだろ?」

 「フーディーニじゃないの?だってこれ見てよ」巨大化したハリーの首を掻きながらジョアンが言った。ねこさんが巨大化してもだれも不思議がってない。

 「いいや違うね」ミスターTことブライアン兵曹が言った。「ハリー・ポッターだ」

 

 ボビィがケーキに顔を突っ込まれてわたしはおーわらいした。

 

「ナツミ、なんで誕生日教えてくれなかったんだ?水くさい」

 「だって」わたしは泣いてた。「サイと一歳離れちゃうんだよ!?わたし悲しくて……」

 「そんなこと気にするな」

 「うん……でも嬉しい」



 それから屋上に上がって夜景を眺めた。夜風が火照った顔に心地よい。


 ピクニックシートに座ってみんなでわいわい騒いだ。


 床が揺れてる。なんでかな。


 まるで魔法の絨毯でお空飛んでるよう。


 ゆらゆら気持ちいいので、わたしはサイの肩にもたれて眠りに落ちた――。




 ――それからベッドの上で目を覚ました。


 わたしは仰向けで横になったまま、頭を持ち上げてぼんやりあたりを見渡した。

 だだっ広い部屋で大きなベッドがふたつ。隣のベッドにはタカコとメイガンが寝ていた。

 窓の外は明るい日差し。椰子の木と芝生、それにプールが見える。


 どうやら地上に戻ったようだ。

 起き上がると、ソファにもAチームの女性ふたりが寝てる。


 「ここどこ?……」

 感覚的には朝。馬鹿騒ぎして寝オチしたらしいけれど。サイドテーブルの時計を見ると朝9時過ぎ。

 曜日は7月4日。この時計壊れてんのかな?


 部屋の奥、入り口のほうでガチャッとドアが開いて、思いもよらぬ人物が現れた。

 「し、社長!」

 「あらナツミさん、おはよ」

 なんでわたしの勤め先の社長がここにいる!?

 てか、ここどこ!?

 社長はバスローブ姿で頭にタオルを巻いていた。言うの忘れてたけど40歳サバサバ系で独身。ちょっと高木美保系です。

 「あの……社長がなぜわたしたちと一緒?」

 「ああ、階上でアメリカ人がパーティーしてるっていうから見に行ったの。そしたらべろんべろんに酔ったあんたが現れて「一緒に行きましょ~!」ってわたしの腕掴んで、拉致られてアメリカ人たちとヘリで横田基地に向かったわけ。それからすぐでっかい飛行機に押し込められてさぁ。さすがに驚いたけどま、いっかって。それでいまはここ」

 「ここって、ここどこなんです!?」

 「たしかオアフじゃなかったっけ?米軍基地よ。真珠湾の先っぽにある」


 わたしは耳を疑った。

 「オアフって……ハワイの島ですよ……?」


 「そうだと思うよたしか」

 「それじゃいま、わたしたち、ハワイにいるんですかぁ~!?」


 社長は顔をしかめて手を上げた。

 「あーうるさい、いますぐコーヒーが必要だわ。それか迎え酒……」


 社長がタワマンの住人だとは知らなかったけど、予期してしかるべきだったか……。

 いやいやそれドコじゃない!


 わたしは混乱した頭で散々たる部屋の様子を見渡した。床じゅう脱ぎ捨てられた服やビール缶が散らかってハリー軍曹が巨大化したまま寝てる。


 とりあえず、ほとんどレズ状態でメイガン・マーシャルと抱き合ったまま寝てるタカコの肩を揺すった。

 「タカコ!起きて!起きなさい!」

 隣のメイガンが先に目覚めてサッと身を起こした、

 「やだ、なに!?」

 「メイガンさん、おはよう――」

 メイガンは挨拶に答えず、慌てた様子で服を拾って浴室に駆け込んだ。


 社長が部屋の外で一服しているあいだに、わたしは部屋の全員を起こした。

 タカコは飛行機に乗ったことは覚えていた。ジョーとシャロンは酔いも醒めてけろっとしていて、浴室を占領してるメイガンに早く出てよと訴えていた。

 ハリー軍曹は子猫に戻った。

 「オシッコしてくる」

 「その前にTシャツくらい着てよタカコ!」

 社長とシャロンがごく親しげな様子で喋っている。どうやら少なくとも、お互い紹介は済んでるらしい。


 部屋の外はプールサイドだ。プールを囲むように作られた宿泊施設のひとつにわたしたちは泊まったらしい。

 なんだか空の色も空気感も違う。


 マジでわたしハワイにいるの!?



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