41 サイキックバトル (そーいうの勘弁して!)
「デスペラン!!」
デスペランさんは片手をあげた。「よーカワカミサン。サイファーじゃなくて済まねえな」
下はぴっちり折り目の付いたズボンだけど、上は白いランニング一枚の胸筋ムキムキで、刃渡り二メートルはありそうな剣を片手で軽々と持ち、肩のあたりをポンポン叩いていた。
「サイは?なにかまずいことでも――」
「心配ねえ、ちょいとばかりおれのスポンサーと揉めてキレたけど、ピンピンしてるよ。おまえさんこそ体調万全か?」
「は、ハイ!」
「オッケー」
デスペランさんは大剣を翻すと、巌津和尚に切っ先を向けて構えた。「そんじゃそのくそ坊主を〆て終わりにすっぞ」
「デスペランとやら、おぬしもサイファーに通ずるものであるか?」
「まあ、そうだ」
「ならば不足はござらん!」
「あってたまるかよ。だがてめえ人間のくせにヤバいもん背負ってやがるって、サイファーも感心してたぜ。ご褒美に魔導律をたっぷり味わせてやっから、覚悟しやがれ!」
そう言うと同時にデスペランさんが大剣をバツを描くように振るった。
大木の根元と巌津和尚の足元いがいの地面が消滅した。
突如霧が晴れて数千メートルという高台に景色が変わったのだ。わたしはすくみ上がった。
けど巌津和尚はそうではなかった。片手を指二本立てた詠唱の構えで目を閉じている。
「破ッ!」
岩の塊がどこか下の方からせり上がってミニバンくらいの大きさの拳を形作ると、デスペランさんの頭上に振り下ろされた!
「あぶ――!」
けどデスペランさんはその岩塊を片手で受け止めてしまった――いとも軽々と。それから岩塊は粉々に砕け散った。
巌津和尚が3メートルほども跳躍してうしろに飛び退くと同時に、いままで立ってた場所に何十本も剣が突き刺さった。
これがわずか20メートルほど離れた場所で起こったので、わたしはすっかり腰を抜かして木の根元にへたっていた。
自在に宙を跳ね回って戦う男ふたりを尻目に、子猫――もとい猛獣「ハリー軍曹」がわたしのほうにのんびりのし歩いてきた。
「ガウ(ねえちゃん平気かい?)」
「だっ大丈夫なんであんま近づいてこないでっ!」
わたしは手のひらを必死に振ってアピールしたんだけど、ハリー軍曹はわたしの膝元に寝そべってしまった。
(あーあ……じゃなかった!デスペランさんは!?)
もちろんサイキックな大バトルが続いていた。
こんなの現実じゃない。
神さま、もうおたく卒業しますからこんな妄想ヤメにしてくださいっっ!
腹立つのは男ふたりともけっこう楽しそうに戦ってることだ!デスペランさんも巌津和尚も凄絶な笑顔で歯をむき出してる。
(まったくもう男って!)
「坊主、いくらニンジャイリュージョン繰り出してもヤワすぎて話にならねえぞ!そろそろけり付けさせてもらうぜ!」
デスペランさんが宙を蹴って一気に間合いを詰めた。
巌津和尚は腕をクロスして突撃攻撃を防ごうとしたけど、なんだかよく分からないアッパーを食らって身体ごと弾き飛ばされて大木の幹に――正確に言うと大木のまわりに張り巡らせされたバリアーかなにかにぶち当たって、わたしの数メートル手前に落下した。
「ぐほぁっ」
巌津和尚は俯せたまま、片腕をゆっくり伸ばして、身体を起こした。笠はどこかに飛んでいってしまった。
和尚はなんとか、立ち上がった。足がふらついてる。
「も、もうやめてくださいよ!」
「そうだぜ坊主、潮時だ」
「まだまだ」巌津和尚は頭をぶるっと振った。「加減は無用に願います」
「加減?なんのこった」
「ご立派な大剣を向けようとしないであらぬか……!」
「ああこれ」デスペランさんは大剣を手首のスナップでくるっと回した。「おまえ素手だから、公平だろ?」
「おぬしは真剣勝負を避けておる!」
「てめえの力量じゃサイファーどころか俺にも敵わねえんだよ。だから、ああそうだよ!手加減してやってんだろが」
「手加減は無用と言っている!」
「なんで手加減してやってるかと言うとだ、おまえがカワカミサンに手を下さなかったからだ。彼女に傷ひとつ付けてたら、おまえはとっくにミンチだ」
「拙僧を愚弄するか!?」
「正直におまえはマイナーリーグだと告げたまでだ。サイファーどころか俺に喧嘩売るのも10年早ええってんだ。山に帰れ!修行し直してこい!」
それで、巌津和尚は厳しい表情で黙った。
いつの間にか霧が晴れていた。それで、わたしはここが西川越駅からほど近い川沿いのグラウンドだと気付いた。
市内とは全然反対方向に来ていたのだ!
背後の大木も無くなっていて、わたしは土手に座っていた。
「ミャー」
ハリー軍曹も子猫に戻っていた。




