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25 バレた……!


 タカコは哀れむような微笑でティッシュの箱を差し出した。

 わたしは咳き込みながら二枚取って口を拭った。

 

 「な・なんで……!?」

 サイファーくんもほんのり諦めの苦笑を浮かべていた。

 「ばれたようだな、ナツミ」

 「どうして……」

 「ふっふっふっ」タカコはスマホを印籠のごとく掲げて見せた。

 わたしはスマホに顔を寄せて、メガネのつばを摘まんで目をすがめた。画面にお馴染みの小説サイトが表示されていた。

 しかもわたしのページ――『わたしと魔王様の秘密のスローライフ』の一ページ目ではないか!!


 「――あんたユーザーだったの……?」

 「あんたが書き始めたときからね」

 わたしは困惑した。「そんな素振り全然なかったじゃない」

 「あんたが登録してポイント入れてねって言ったんじゃないか。いちおう、新作投稿チェックぐらいしてたよ?」

 「まったく興味ないのかと思ってた……」

 「そんな友達甲斐のないひとじゃないしあたし」

 「それなら感想一回くらい書いてくれても良くない?」

 タカコは訳知り顔で首を振った。

 「パブリックアイを意識しないほうが、のびのび書けるもんなのよ。とくに日記調は」

 「しまったぁ!」わたしは頭を抱えた。「誰にも分からないと思ってたのにぃ」

 「ま、気付いたのはあたしだけだと思うよ」

 「そうでもなかったようだが」サイファーくんが言い添えた。

 タカコがサイファーくんを見た。

 「どういうこと?」

 わたしは仕方なく、昨日の出来事を――ざっとだけど、話した。


 「えーっ!アメリカの、諜報機関がサイファーくんを探しに?」

 「そのデスペランていうひとによると、そんな感じ」

 「で、デスペランてサイファーくんのお友達なワケ?」

 サイファーくんが答えた。

 「友というか、腐れ縁が長々続いているだけだ」

 「ふーん!」タカコは目をキラキラさせていた。「なんだか面白いことになってるんだねえ」

 

 ……サイファーくんが「異世界」からやってきたという点にもっと驚愕してしかるべきではないの?

 とはいえわたしだって、まだ半信半疑だけど……

 現実もある限度を超えたら脳みそが働かなくなるのかもしれない。

 異世界からやってきた男の子に対してわたしは一週間、なにかしなくちゃいけないという強迫観念と葛藤した……

 葛藤してたよね?


 その結果得た教訓は、世の中にはなにもしないのが正解、という場合もあるってことよ。……なんだか無為に過ごした自分を正当化しているだけに聞こえるけれど、反論できないよね?

 それでも厄介なことになってるけど。

 

 「それでさあ」タカコが言った。「その、デスペランて、やっぱりイケメン?」

 「そっちかい!」

 あ、でもタカコはおじ様()好きなんだっけか。わたしは考え込んだ。

 「なんだよその表情!ひょっとしてマジイケメンなのっ!?どうして写メ撮っとかないのよう!」

 「それどころじゃなかったもん……」

 「とにかく、あんた大変なことに巻き込まれてんのね。お疲れさん」

 「言っとくけどあんたも参加しちゃったからねっ!」それからわたしはサイファーくんに向けて手を合わせた。「ごめんねサイファーくん!わたしの脇が甘かったばっかりに……!」

 「いや、おかげでデスペランが連絡してきたし」

 「デスペランてアメリカから来たのよね?どこかに泊まってるわけ?」

 「さあ。川越に事務所作ってるとか言ってたわ」

 「それじゃ明日は小江戸川越行こう」

 「それいくらなんでも短絡すぎくない!?」

 「いーの、どうせほかに観光スポット無いし」

 「地元をサクッとディスったね……」


 お昼を終えてビデオも見終わった。と言ってもおしゃべりしてたので誰も見てなかったけど。さすがにケーキの余地はなかった。

 「泊まるのはけっこうだけどお風呂とかどうする?」

 「スーパー銭湯行こう!」

 「えー?わたし苦手なんだけど」

 「いーじゃないたまには。背中流しっこしよう」


 それで夜になったからスーパー銭湯に出掛けたけど、詳細は省略するね!ひとことだけ言うならわたしのサイズは女性用お茶碗(タカコ談)くらいよ。いちおう谷間もできるけどタカコには負けるわ。


 小一時間も入浴を楽しんだ後は、先に出ていたサイファーくんと一緒にマッサージチェアに揉まれ、そのあと食堂でご飯を食べた。わたしとタカコは缶ビールを一本開けた。



 今夜はサイファーくんにロフトを譲って、わたしとタカコはシングルマットレスを共有することとなった。十一時半にサイファーくんが寝てしまうとタカコは驚いた。夜通しおしゃべりでもするつもりだったのだろう。


 「朝早く運動に出掛けるから」

 電灯を落とした部屋で寝転がったわたしたちは、ひそひそ声でおしゃべりし続けた。

 「はえ~。あの子健全生活者なんだ……正直さあ、あんたたちがどう過ごしてるのか気になってしょうがなかったのよねえ」

 「ヘンな想像しないでよ?」

 「そりゃ……するでしょ」やらしい含み笑いで掌を口に当てながら言った。

 「いちおう断っとくけど、あんただって彼に手を出したら犯罪だから!」

 「まあそうだけど……川上さん?さぞかし溜まってるのじゃござぁませんこと?」

 「余計なお世話ですわよ、タカコさん」

 タカコが突然、口にキスしてきた。チュッ……

 「なにすんのいきなり!」

 とは言ったものの、初めてじゃない……高校の、思春期で頭がどうにかなってた頃、戯れに二度ほどキスしあった。タカコいわく「練習」。

 「いや、溜まってるかなって……」

 わたしたちはしばし見つめ合ったけど、やがて溜息をついて仰向けになった。


 「女盛りなのに何やってんだか……」

 「すぐそばにとびきりの男の子がいるのにね……」タカコももの悲しそうだ。「あっくそ、ケーキ食べ忘れた」


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