表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/199

20 未知への誘い


 ……それに、瞳にお星様を宿して、煌めいている。


 (えっまさか!?)わたしは、耳まで真っ赤になった根神先輩を呆然と見据えた。(この人…………ガチ?)


 「もうな~んかつまんな~い‼」びっくんが機嫌悪そうに素っ頓狂な声を上げた。そのまま足早に立ち去って、雑踏に消えた


 「エ~……」

 伊藤さんがたったいま起こった出来事をまとめようとしたが、断念したようだ。その代わりに言った。

 「サイファーくんおなか空いたでしょ。お昼食べに行こう!」

 「ちょっ先輩ずるいっすよ!」

 「そうね!悪いけど店番よろしく!わたしら席外す」

 こうして、わたしたち年長組は特権を駆使してランチに出掛けた。



 少し歩いて、いつも利用するファミレスでランチとなった。

 「サイファーくんのお昼代はお姉さんが奢ってあげるからね!なんでも好きなもの頼んじゃって!」伊藤さんが宣言した。本がたくさん売れたので太っ腹だ。

 「それじゃわたしドリンクバー代持ちま~す」コピー誌が完売したタカコも言い添えた。


 ちょっと助かる。


サイファーくんはクラブハウスサンドをチョイスしたけど、伊藤さんがさらにオニオングラタンスープを勧めた。

 サイファーくんはタカコと一緒にドリンクバーに向かい、五分くらい帰ってこなかった。

 わたしもBLTサンドにして、つけ合わせのフライドポテトの大半をサイファーくんに譲った。


 「サイファーくん、すごく落ち着いてるよねえ。おっさんたちびびってたよ?」

 「ああ……」サイファーくんはわずかに苦笑いした。

 「淑女(レディー)に対する礼を失した発言が目に余ったもので、やんわり止して頂こうと思いました。遺恨を残すようなことがなければ良いのだが」

 「レディー!」伊藤さんが両手を頬に当てて叫んだ。「やだわ、サイファーくんたら、ホホホ」

 マジで喜んでるご様子。ちなみにこの人旦那と幼稚園の子供います。

 「遺恨だなんて気にしなくて良いからね!あたしたちもちょっと目障りに感じてたからさ」

 「びっくん相手でも優しくしなくて良いから」

 「びっくん……というのはあの……痩せてる人ですか?」

 「うん、尾藤っていう名前なんだけど、あたしたちはびっくんて呼んでるの。あいつも面倒くさいやつでさ~。普段は陽気なお兄ちゃんなんだけど、すっごいナルシストなのよ」

 「ナルシスト、とは?」

 「エ~なんて言ったらいいかしら、自己中心的?自己愛過多というか……」

 サイファーくんは合点がいったようだ。頷いた。「ああなるほど、そういう人」

 「自称ホモなくせにあの会場で唯一サイファーくんに魅了されてなかったもん。自分大好きだから」

 伊藤さんの言葉にわたしは驚いた。

 「え?けっこうはしゃいで見えましたけど……」

 「ああ、アレこそいつもの調子よ!あわよくば自分にはべらせようってだけ。あいつは基本、自分のことしか考えてないし、さっきのアレでもうサイファーくんはなびかないって悟ったから、とっとと立ち去ったの」

 「なーる」

 さすが年長者の知恵だ。

 

 でも、みんな根神先輩のアレには気付いていないらしい。

 ホッとしたような複雑なような……わたしは胸騒ぎを覚えた。気のせいなら良いんだけれど、いずれ厄介なことになりそ~な――



 一時間して会場に戻ると、残してきたメンバーにブーブー文句を言われた。結局サイファーくんは二度目のランチを付き合う羽目となり……


 根神先輩は三時前に粛々と撤退準備を始めて、「んじゃ」と素っ気ない一言で帰ってしまった。仲間と飲みに行く可能性がなくなったため、閉幕まで居たくなかったのだろう……わたしたちの「反省会「という名のどんちゃん騒ぎ)」に誘われることはないと知ってるから。

 

 本はほとんどなくなり、わたしたちは狭い会場をうろついては知り合いと駄弁る、マッタリした時間を過ごした。立ち止まった先々でスマホのサイファーくんの画像を見せられてあれこれ詮索された。

 (やっぱり、連れてきたのは時期尚早であったか……!)

 わたしは内心後悔していた。


 なにか得体の知れない不安……コントロールできない領域に陥ってしまった、という気持ちが、収まらなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ