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176 ふたつめの神器


 空が爆発した。

 超特大の鐘の音のような鋭い破裂音が響き渡る。


 わたしたちは思ったより長く落ち続けていたようで、爆発は3㎞くらい上のほうのように見えた……もっとも対比物もろくにないからはっきりとは分からない。

 「こりゃ、決着付いたな」

 そう言いながらですぴーが腰のベルトから無線機らしきものを取り上げて、何やら話し始めた。

 

 (サイ……!)

 わたしは居てもたってもいられず、絨毯のうえに立ち上がってサイの姿を捜した。

 さきに〈天つ御骨〉がわたしの手に戻ってきた。

 わたしが手の中に現れた剣に目を落とすと、誰かが叫んだ。

 

 「いたぞー!」

 50メートルくらい離れて浮かんでる絨毯で、誰か知らない人が上を指さしてる。たちまち何枚もの絨毯が集結した。

 ジョーもそこに絨毯を向かわせた。

 大勢が魔法を発揮しているらしく、サイがゆっくりと落ちてくるのが見えた。

 ぐったりしてる。

 密集した絨毯にサイが降りてゆく。


 メイヴさんが到着を待たず大ジャンプしてサイのもとに文字通り飛んでいった。わたしもそうしたかったけれど、いまサイに必要なのはメイヴさんの治癒魔法だった。


 「ナツミ、心配ねえよ」ですぴーが言って、わたしの肩に大きな手を置いた。

 「うん……」   

ジョーが叫んだ。

 「ボス!〈後帝〉を見て!」

 わたしとですぴーは空を仰ぎ見た。

 

 空に覆い被さっていた真っ黒な×印が、真ん中からゆっくり裂けていた。表面にチカチカと無数の光が瞬き、細かい破片が分離して輪郭がぼやけはじめてる。


 「奴も死んだようだな……」ですぴーが呟いた。

 「これで、終わったんですか?」

 ですぴーがうなずいた。

 「サメジマからの報告だと、地上で戦っていたイワツキが忽然と姿を消したそうだ。消滅したのか逃走したのかは分からんが、ひとまず戦いは一段落したらしいよ」

 

 四つに割れた〈後帝〉(ハインドモースト)は白っぽく変色してる。死んだハイパワーがそうなったのと同じだ。

 メイガンとジョーにいちど説明されたけど、偽物質がなんたらかんたらでわたしにはチンプンカンプンだった。なんとなく理解できたのは、炭化すると粉みたいなスカスカのかたまりに……ふ菓子みたいな状態になってしまうらしい、というところだけ。


 「あれ、落っこちてきませんよね……?」

 「いま関係各所が必死こいて確認中だろうが、宇宙にいる〈ハイパワー〉がどうにかしてくれんじゃねえかな?」

 「だといいんですけれど……」

 「それよりも」

 ですぴーがわたしの背中に手を当てて言った。

 「ナツミ、わりいげどもう一回だけ、おまえさんじゃないとできない仕事がある」

 「えっなに?」

 「〈鏡〉(ミラー)だ。アレを受け止められるのはおまえさんだけだと思う」

 「そ、そっか……」


 わたしはあらためて空を見上げた。

 本当に落ちてくるのかな?と思ったけれど、わたしはごく自然に〈天つ御骨〉を頭上に掲げていた。

 一分ぐらいそうしていると、たしかに「引き」があった。

 そして、崩壊し続ける〈後帝〉を背後に、ブルーの光が瞬いているのが見えた。

 「来たぞ」ですぴーが呟いた。

 ブルーの瞬きがやがてしっかりした光になり、緩やかな弧を描いてわたしに向かってくる。

 光が弱まって、見た目は黒い円盤に変わった。


 すぐそばまでやって来ると、円盤は平らな面をわたしに向けて空に静止した。

 直径10メートルくらいのまるい鏡だ。鏡面だけど何も映し出していない。水銀のように波打っているようにも見えて、いくら目を凝らしても実態が掴めない不思議な物体だった。

 それがふっと消えて、わたしの左腕にまるいフリスビー状の盾が現れた。

 

 背後でですぴーが誰かに報告していた。

 「こちらディーだ。ナツミが〈鏡〉をゲットした」


 

 わたしたち魔法の絨毯の一群は池袋に向かって高度を下げていった。

 そのあいだに別の命令を受けたらしい米軍の絨毯部隊が一枚、また一枚と編隊から別れて、東武デパートの一部崩れた屋上に戻った頃には10枚あまりに減っていた。

 屋上に着陸したのはわたしたちと、サイとメイヴさんを乗せたもう一枚の絨毯だけ。ほかは池袋上空をパトロールするため空に残った。


 屋上にはシャドウレンジャーのみなさんと巌津和尚、天草さん、タカコとハリー軍曹が待っていた。


 わたしはですぴーに手を引かれて、サイが横たわる傍らに導かれた。

 

 「サイ?」

 サイはゆっくり身を起こして、言った。

 「ナツミ」

 「大丈夫なの?」

 「ああ、怪我は治してもらった」

 わたしは剣と鏡を置いて、サイに抱きついた。


 「ナツミ、もう終わった。みんな無事だ。泣くことない」

 「うん……」

 だけど止めどもなく泣けてきちゃうんだもん。


 わたしはそっとサイの懐から身を起こして、サイの顔を、男の子に戻ったサイの顔を覗きこんだ。

 「ナツミ……どうした?」

 「あのね、わたし」

 涙を拭って、努めて笑顔を浮かべようとしたけれど、上手くいったとは言いがたい。

 「がんばって〈鏡〉を手に入れたけど――サイにもらった〈魔導律〉、ぜんぶ使い切ったみたい……」

 「えっ?」

 

 「だから、視力が、元に戻っちゃった」


 「ナツミ――」


 「せっかくサイがまた男の子になったのに、ぼやけてよく見えないよ……」



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