133 昼ドラスパイラル
その夜は動揺しまくって眠れなかった。
(どうしよう)
告白……されちゃった。
あまりに思いがけなかったのでわたしはキョドって曖昧な返事しか出来なくて。あの時のことを思い出すと恥ずかしくて顔が火照っちゃう。
どうしよう……
鮫島さんと会うのが怖い。気まずい。
寝返りを打つと、サイが目を開けてこちらを見ていた。
「あ、ゴメン起きちゃった?」
「ナツミ、ぜんぜん眠れないようだけど、どうかした?」
「うん、ゴメン……ちょっと悩み事」
「なにを悩んでる?」
「ええと……」わたしは目をそらした。「ちょっと難しいの……」
「そう」サイがわたしの腰に腕をまわした。「それじゃあ子守歌を歌ってあげようか?」
わたしは吹き出した。
「子供じゃないんだから……」わたしはサイの胸に頭を寄せた。「でも、歌って」
それで、サイが静かな声で異世界の子守歌を歌うあいだ、わたしは顔を見せずに済んだ。
なにか、不実なことをしてる気分。
明くる日になってもわたしはぐらぐらしてた。
きのう新たな敵が現れてキモい先輩に挨拶されていろいろあったのに、わたしの頭の中は告白でイッパイいっぱいになってる。
(ねえナツミさん、優先順位間違ってませんかねえ?)
こんなに動揺してるのは、サイがいつまでたっても女性のままだからだ。それでわたしは焦ってるんだ……
――ってもサイを責められようか!?元に戻っただけなのに。
サイははっきり言わないけれど、女性に戻れて嬉しいのはたしかだと思う。
すると、わたしとラブラブだったあのサイ(♂)はどこへ行っちゃったの!?
それが目下の問題である。
鮫島さんは……まだそれほど親しくしたわけじゃないけれど、一緒にキャンプしたかぎりではいいひとそうだ。優しそう。
ゴメンナサイするのはたいへん気が引ける。
「はあ……」
なんか一人でテンパってるなわたし。
しょうがないよね。今年になるまでモテたためし無いんだもん。
でも、良くないよねえ……。
こういう時は親友に相談だ!
わたしはアパートから抜け出して、国道で電話した。
『もしもし~』
「ね、タカコ、ちょっと相談があるんだけどさあ」
『あ~?うん、な~に~?』
「あのさ、わたし昨日――」
『楽しかったよねえ!』タカコはクスクス笑った。『ナツミさん早く帰っちゃってもったいなかったよ?あのあとどんちゃん騒ぎでもう朝まで――』
「ちょっとタカコ!あんた酔ってんの!?」
『う~ん?もう醒めてるぞひと眠りしたから』
「ねえタカコ!ちょっと聞いてお願い。わたし昨日告られちゃったんだよ……あんたそっち関係詳しいでしょ?どうしたら良いかアドバイスちょうだい」
『ふぉーナツミさん告られちゃったですか~。それは是非アドバイスせねばならんねェ』
「うんうん!」
『それじゃタカコお姉さんからアドバイスよ』
「うん!」
『楽しめ。以上!』
「タァ~カ~コ~!」
『おしっこしたいからまたあとで』
切れた。
ぜんぜん参考になんないよ!
「ったくも~」
わたしが上着のポケットにスマホを突っ込んでアパートのほうに振り返ると、ダブル天草さんが立っていた。
「あっ……」
天草さんがお辞儀した。アルファはニッコリ笑って手を振った。
「川上様、おはようございます」
「お、おはよう」
「すいません、ご挨拶しようとしたんですけれどお電話してたので……」
「こちらこそ気がつかなくて……えと、ちょっと前からうしろにいた?」
「はあ……」
「バッチリ立ち聞きしました」アルファが朗らかに言い切った。「告白されたようですねえ?」
「失礼よアルファ!」
わたしは額に汗した。
「あ、あの、それ言いふらさないでよね」
「まさか、わたし人間のそういうの興味ありませんし」
「そう」わたしはホッとしたけれどホッとして良いのかどうなのか。
「それで鮫島さんにどう返事しようかお悩みなんですよね?」
「なっなんでそんなこと知ってなさる!?」
「だってきのうダンスしながら話してたの、わたし見てましたもん。感覚鋭いから会話聞こえたし」
「うっそ……」
「あ、そうなんですか……」天草さんが言って、「それじゃあ、失礼します」と呟いて、コンビニの方に歩き去ってしまった。
(え?なにいまのレスポンス……)
アルファが早歩きで立ち去る相方の背中を見て、わたしに振り返った。
「おやまあ、そうなんだ」
「そうなんだって……え?」
わたしは恐ろしい可能性に思い当たって絶句した。
物事がどんどん複雑化してゆく。
「マジで……?」




