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107 なぜかダンジョン攻略


 「おっ重っ!」


 わたしはジョーとシャロンの手で防弾チョッキを着せられていた。


 「我慢して。さすがにそれ着てくれないとわたしらも安心できない」

 さらにヘルメットまでかぶせられた。これまた重いったら!

みんなには言い忘れたけれど、わたしはアパートに戻った時点でジーパンとTシャツに着替えていた……というか、山田くんに着せられたあの銀色タイツの脱ぎ方が分からなかったため、重ね着してる。

 防弾チョッキまで着せられると、かなり重装備だった。


 「よっし!準備完了した」

 メイガンがわたしの着こなしをチェックしながらAチームに尋ねた。

 「施設内には特殊部隊が待ち構えてるかもしれない。銃はいる?」


 これもいままで言い忘れたけれど、ですぴーとAチームは銃を持ってない。少なくとも戦争映画に登場する長くて弾がダダダッ!って出る類いのは。

 お台場でも基本、素手で戦ってた。ですぴーはそういう武器の有用性を疑問視してるからだ。

 「弾切れになったらどうすんだ?」

 ということらしい。

 魔導傭兵には、銃は効かない。これはAチームを選抜する際、ですぴーと模擬戦を戦った経験から結論したそうな。それで銃に頼らず戦えるエキスパートが残ったのだ。

 数ヶ月前、Lo-Di騒ぎの時にサイファーがアメリカ合衆国に対して告げた、ある脅迫も関連しているという。

 どういう脅迫だったのかメイガンも誰も教えてはくれなかった……というか、「知らない」という。だけどそれでアメリカ政府は強硬路線をやめて、サイファーと紳士協定に至ったらしい。


 「ブライアンとボブ、威嚇用に一丁持っていけ。ちらつかせれば相手も警戒するだろ」

 「はいよ、ボス」

 「僕も同行したい!」鮫島さんが訴えた。

 メイガンとですぴーは顔を見合わせた。

 「いいのか?」ですぴーが言った。

 「捕虜か戦死したとしても、僕が自白しないかぎり日本国籍はバレないと思う。衣服も装備品も出所が辿れないものだから」

 「基本は踏まえてるんですな、一尉」ボブが言った。

 「そんじゃいっそみんな一緒でいいか。サイファーを見つけたらただちに撤収できるからな」

 「かもね。それじゃあいらないものは置いて、身軽に行きましょう」



 そんなわけでわたしたちはみんな一緒に、クレーター湖の島にテレポーテーションした。 ほんの数時間前に訪れた場所だ。

 だけどあのときとは何もかも様変わりしてた。

 まわりじゅうに残骸が散らばっていた。飛行物体が飛び回ってる。爆発。酷い焦げ臭さ。


 頭上に浮かんでる〈ハイパワー〉の宇宙船だけが元のままだ。


 わたしたちは、駐機してる白くて大きなヘリコプター二機を迂回して建物の壁に走り寄った。

 ヘリコプターの操縦席に座ってる人がわたしたちをいぶかしげな目つきで眺めていた。 「見られちゃいましたよ!」

 「気にするな、追って来やしない。中にいる連中に連絡されるかもしれんが」

 わたしたちは開けっぱなしのドアを見つけて建物に侵入した。

 前と様子は変わっていない。

 地面の大きな金庫扉は大穴が開いたまま。ただし誰かがロープを張って穴の中に降りたようだ……と、メイガンが分析した。


 「一気に降りるぞ」ですぴーが仁王立ちで穴を覗きながら言った。「ナツミ、こっち来い」

 「え?は、はい」

 わたしが小走りに駆け寄ると、ですぴーがわたしを五歳の子供みたいに担ぎ上げた。

 「あっちょっと――」

 ですぴーはそのまま穴に飛び降りた。直立してプールに飛び込むように、ストンと。

 さすがに悲鳴を上げる余裕もなかった。ヒッと息を呑んでですぴーの首にしがみついてた。


 わたしたちは暗闇に向かって落下した。

 よく見えないのは幸いだ。山田くんと一緒にゆっくり降りたときの記憶では100メートルくらいの深さだったからだ。


 長い長い数秒間の落下ののち、地面についた……いわゆるヒーロー着地だったけど、わたしはほとんど衝撃を感じず。

 あたりは真っ暗だったけれど、残りのみんなも次々と降り立つ気配を感じた。

 「散開」ですぴーが屈んでわたしを地面に降ろしつつ囁いた。

 闇の中はまだ蒸し暑くて焼けた色々な物の匂いが鼻をつき、それで記憶が鮮明になった。

 わたしたちはたぶん、あの広々とした地下トンネルにいるはずだ。だけどいまは照明が消えてる。

 「ジョー、シャロン、発煙筒、遠くに投げろ」

 微かなカサカサという音がして、まもなくピンク色のまばゆい光がふたつ灯った。Aチームと鮫島さんは思ったより離れたところに前進していた。そんな物音ぜんぜん無かったのに。

 シャロンとジョーが物陰からサッと飛び出して発煙筒を思い切り投げた。

 脈打つピンクの光が回転しながら飛んでいって、あの不気味なオブジェの群を次々と照らし出した。

 発煙筒が床に落ちて燃え続けたけれど、動きはなし。

 サイの姿もなし……


 「ナツミ、こっち来て」

 メイヴさんが後ろのほうで言った。

 「そうだ、俺はちょっと忙しくなるから、メイヴにくっついててくれ」

 「わっかりました」

 わたしは身を屈めてメイヴさんの声のほうに向かった。

 「メイヴ、マズそうなトラップはどれだ?」

 「まずは、100キューピッド先のゴーレム。〈魔導律〉を纏った者ならだれでも攻撃してくる」

 「おまえでも攻撃してくるのかよ?」

 「入り口方向からやって来る魔導傭兵には誰彼かまわず。それ以上の判別機能をつける必要は感じなかったのよ」

 「ボス、中国人はひとりも倒れてないようです」

 「それじゃあ、ヘリでやってきたやつらはおまえが〈魔導律〉をシェアした特殊部隊じゃねえのか」

 「その人たちの〈魔導律〉はもう取り上げたから、どちらにしろパワーは持ってないはず……ああ、でもトラップがバレたあと、彼らは別の入り口を作らなきゃいけなくなったって、わたしに文句言ってたっけ」

 「それ先に言えよ!」

 「その入り口の場所はわたし知らないのよ」

 「ええいクソ!ナツミ、このトンネルの長さがどれくらいか、分かるか?」

 「500メートルはあると思う……」わたしは一生懸命思い出した。「ずっと両脇に彫像みたいなのが並んでる。トンネルの終点に施設の入り口がある」

 「みんな聞いたか?敵は待ち構えてなさそうだからそこまで強行突破するぞ」

 「テレポートは出来ないんで?」

 メイヴが答えた。

 「たぶん無理……」

 「俺がまず行く。Aチームはメイガンとナツミを連れてあとから続け。俺が厄介なことになっててもすり抜けろ。ハリーは俺と一緒に来い」

 「ニャー!」

 「ボス、気ぃつけてくださいよ」

 

 ですぴーは大剣を担いでトンネルの中央に進み出た。


 「行くぞ」

 ですぴーは大剣を構えてダッシュした。

 傍らでハリー軍曹も駆け出した。走りながら巨大な猛獣に変身した。


 ガツン! 大きな音がトンネルに響き渡って、ですぴーの行く手に剣を持った巨大な腕が2本、壁から生えだして、刃で巨大な×印を形作った。


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