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103 お空をとんで


 「わっ!なにこれすごっ」

 

 ここ半年あまりで空を飛んだり高所から飛び降りたりは多少耐性があったけれど、それでも驚いた。

 空とぶ絨毯!

 わたしたちを乗せた絨毯はぐんぐん高度とスピードを上げた。


 「さて、どっちに行けばいいかしら?」

 メイヴさんはこの砂浜が延々と連なっていることを承知していた。それで、わたしは空に浮かぶ異世界の蜃気楼をじっと見つめて、川越のアパートで眺めた光景と違うかを一生懸命見定めようとした。

 「えーと……あっちかな」

 わたしは大河に向かって左を指さした。

 「分かったわ。ところであなたどこからいらしたの?」

 「えっと、日本の……埼玉県川越というところから……」

 「日本という地名は聞いたことある。それではおそらく2000㎞は離れてるわね。サイファーが作った穴はそこにあるのでしょ?」

 「はい」

 「ある程度距離的な相関関係はあると思うの。少し急ぐわね」

 メイヴさんはふたたび絨毯の模様に手を置いた。

 すると絨毯はものすごいスピードで飛び始めた。

 不思議と風圧は感じない。

 (さすが魔法の絨毯)

 あとはサイが建てた櫓を見つけられれば……


 とにかく、妙な成りゆきだけど山田くんの魔の手を逃れた。

 でもサイはまだ中国にいる。どうにかしてわたしが宇宙人から逃げたことを知らせないと。


 それにしても、魔法の絨毯だ。

 サイには悪いけれど、テレポーテーションよりこっちのほうが好きかも……やっぱり女子たるもの、いちどは魔法の絨毯に乗らなきゃね!


 異世界の蜃気楼を浮かべた幻想的な紫色の空、対岸が見えないほど大きな河と南国風の海岸の上を、わたしたちは飛び続けた。

 メイヴさんは蜃気楼を見つめてる。

 「帰ろうとしてたんですね?」

 「そうよ」ぽつりと言った。「だけど思ったより簡単ではなかった」

 サイもまえに似たことを言ってたっけ……。

 メイヴさんはわたしに顔を向けた。

 「サイファーと知り合いなのよね?」

 「ええ」

 「あいつも帰ろうとしてたのね……」質問ではなかった。

 「あ、そうだ!デスペランさんも来てますよ」

 メイヴさんが苦笑した。

 「あら、やっぱりそうなの……わたしたちより先にやられたから、ひょっとしたらと思ったけど、そう、生きてたのか。――それなら再会してみなきゃ」


 メイヴさんが鞄から琺瑯のマグを2個取り出した。

 それから缶のドクターペッパーを取り出してマグに注ぎ、1個をわたしに差し出した。

 「あ、ありがとうございます……」

 よりによってドクターペッパーですか。ジャスミン茶のほうが()()()んだけど。

 メイヴさんは満足げにごくごく飲んでいる。

 「ハーおいしい」

 

 どうも、以前夢で出遭ったときのイメージとはずいぶん違うようだ。

 

 さすがに、たぶん1時間くらいも飛び続けると、わたしは指示した方向を間違えた気がしてきた。

 あるいはサイが作った桟橋や見張り櫓を見落としたか……。ものすごいスピードで飛んでるからその可能性はあるけれど。

 

 

 しばらく前方を見続けていたメイヴさんが不意にうしろを振り返った。

 「なんですか?」

 「追っ手がかかったみたい」

 「えっ?」わたしも思わず振り返った。


 背後の空の彼方……目を凝らすと、米粒みたいな点に焦点が合った。

 どんどん接近してくる。

 それが人間だと分かったとたん、わたしたちは猛スピードで追い抜かれた。

 「うっそ!?」

 空飛ぶ人間は大きく旋回すると、わたしたちと平行に飛び始めた。

 赤いマントをなびかせて……派手なコスプレ。

 明らかに(魔導律)をシェアされた人間だ。なんでヒーローコスになっちゃうのか、まえに理由を聞いた気がするけど忘れた。

 「メイヴ・ウィンスター先生!」彼が叫んだ。

 「はいはーい」

 「戻ってください!いまは一大事なんです!」

 「あなたがたの国にはじゅうぶん尽くしてあげたと思う」

 「じゅうぶんとは言えません!あなたがいなければ中華思想拡大はままならないのです!――というかいま現在あなたの力が必要なのだ!われわれは異星人の侵略を受けているのだ!戻ってわれわれと一緒に戦って頂きたい!」

 「残念だけどそのお話には乗れないわ!キリがないですからね」

 「ではあなたを抹殺するしかない!」

 彼はそう言い捨てると同時にまた距離をとって、大きく宙返りした。


 「なんです?彼攻撃してくるんですか!?」

 「イヤよねえ……生真面目な人って。いくら〈魔導律〉を分けてあげても満足してくれないし、態度は尊大になっちゃうし」


 彼はわたしたちのうしろに着いた。

 「ヨォ――――――イ!」

 甲高いかけ声を叫ぶと、突き出した両の拳からまばゆい電撃がほとばしった。

 「きゃっ!」

 わたしたちはビリビリスパークする稲光に包まれた……けど、とりあえずノーダメージ。

 「バカな子ね。師匠に勝てるわけないのに」

 「でも!絨毯の端が焦げてんですけど!?」

 「あら」メイヴさんはチラッと振り返って顔をしかめると、叫んだ。

 「ま、ちょっとおっかないかもしれないけど我慢して!」


 そう言ったとたん空飛ぶ絨毯が急降下して、わたしは悲鳴を上げた。だって掴まるところなんかないんだもん。

 まあジェットコースターみたいに身体か振り回される感覚はないんだけど、頭がついていかない。

 地面すれすれまで高度を落として、だけど猛スピードのまま椰子林に突っ込んだ。わたしは正座したまま凍り付いていた。

 追っ手は椰子林の上を飛んでわたしたちに光の槍みたいのを投げつけてきた。椰子の木がはじけ飛んで倒れてくる。

 もうなにがなんだか分からない!

 

 メイヴさんは絨毯の上に立ち上がった。

 「あなたじゃこんな低い飛び方できないでしょ!」

 「バカを言うな女!頭を抑えるのが軍事の基本だ!」

 「それじゃこんな止まり方は!?」

 メイヴさんがそう言うと、絨毯はとつぜん速度ゼロに――時速数百㎞から一瞬で急停止した。わたしはメイヴさんの膝につんのめりそうになって、両手で身体を支えた。

 彼が猛スピードで追い抜く瞬間、驚いた顔でわたしたちを見下ろすのがちょっとだけ見えた。

 それから彼は前を向き、「アーッ!」と叫んだ。


 わたしたちはいつの間にか砂浜まで戻っていた。


 それで、彼は勢い余って海岸線を越えてしまったのだ。

 あの大河の水に入るとどうなるか、わたしは知っていた……メイヴさんにも分かっていた。彼も知っていたに違いない、慌ててUターンしようとした。


 メイヴさんが両腕をサッと振り上げると、彼の行く手に大きな水柱が立ち上がって、彼はそれに頭から突っ込んだ。


 そして、彼のコスチュームが消失した……


 「アイヤ――!」

 

 すっぽんぽんになった彼は、パワーを失って水中に没した。


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