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99 腐女子アブダクション

    

 なにか世界がぐるんと回転したような感覚に襲われて、わたしは気を失ったようだ。


 気がついたら大の字で横たわっていた。


 「え?なに?どこここ」

 わたしは頭を持ち上げてあたりを見回した。乳白色の不透明ガラスの床にわたしは横たわっていた。

 まわりはいちめん真っ黒な……壁?


 (なんでわたしはこんな所に寝転がってる?サイは……サイは行っちゃったの?)

 わたしはゆっくり身を起こして、衣服が替わっていることに気付いてギクリとした。

 「なっなにこれ!?」

 わたしは慌てて立ち上がって、自分の身体を見下ろした。

 全身銀色……というか金属光沢の、水銀でできたようなボディスーツ……

 「ちょっとぉ!勘弁してよ……いったい誰が勝手に着替えさせたのよっ!」」


 ここに来てわたしはようやく事態を飲み込んだ。


 あのふざけた名前の異星人、山田くんはサイではなく、わたしを拉致したのだ!

 (それっていくらなんでもポンコツ過ぎだろ……)

 わたしなんか連れてきてどうする!?


 ――どうするつもりなの……?


 背筋がゾクッとした。

 知らないエイリアンの船に監禁されて、水着よりからだの線がはっきりしちゃうエッチな全身タイツを知らぬ間に着せられ……

二十面ダイスの内側のような部屋……真っ黒な壁にひとつだけギラギラ光が差し込んでくる。

 壁と床の境目あたりを見て、わたしはここがどこなのか悟った。

 宇宙だ!

 足元に地球の白と青のマーブル模様が広がってるじゃないの!

 ギラついた光は太陽だった。


「マぁジですか……」

わたしは壁に手をついて足元の地球を見た。

 サイと出会ってからテレポートでいろんなところに出掛けたけれど、さすがに宇宙はない。

 なんて遠いところに連れてこられてしまったのかしら……

「ヤッば、落ち込んできた」

 急に手足が萎えてへたりかけた。頑張って立ち続けようとしたけど足が震えはじめた。けっきょく壁に背をもたせかけて、ずるずると床に座り込んでしまった。


 わたしはしばらく、抱えた膝に顔を伏せて座り込んでいた。

 心臓がバクバクしてる。

 努めて深くゆっくり呼吸して、パニックに陥らないよう、良いことだけ考えた。

 

 なんと言ってもサイが連れ去られなかったのは良かった。

 サイならきっとわたしを助け出してくれる。

 良かったさがし、終了……。


 ――落ち着け、わたし。


 たぶんわたしが拉致されてまだ10分かそこら経っただけじゃない?

 それとも、失神してるあいだに一日ぐらい過ぎちゃったのか?

 いやいやそれならオシッコとか我慢できなくなってるはず――


 わたしはわりと大問題に気付いて顔を上げた。

 「ああそうだ!トイレ行きたくなったらどーすりゃいいの!?」

 

 すると ピンポーン♪ て音がして、ハイパーモダンな部屋に似つかわしくない物体が床からせり出した。

 洋式トイレだ。


 「あっそう」わたしは呟いた。

 ちゃんと用意されてんのね。地球人のこと研究してんだ。

 それじゃ、あとはこの服でどうやって用を足せばいいのか考えるだけよね……。


 それで、わたしはもうしばらくいじけ続けた。

 

 

またピンポーンとチャイムが鳴って、わたしが顔を上げると、ハイパワーの山田くんが数メートル先に立っていた。わたしは緊張した。


 「な、なんか用ですか?」

 「ああ、さっきからきみのパワーを取り出そうとしてるんだけどさ、上手くいかないんだよね。それでどうすればいいのか、直接確かめに来た」

 わたしは立ち上がりたかったけれど、怖いし、こんな裸同然の全身タイツ姿を晒す勇気もないので、座り続けた。

 「わたしを連れてきたことじたい間違いだと思うんだけど……」

 「それはない。アメリカ人が〈魔導律(マギュア)〉と呼んでいたパワーは間違いなくきみが保有している」

 まあたしかに、サイはわたしがサイの〈魔導律〉を吸ってると言ってたけれど……そんなにたくさんなのかな?

 「どっちにしろ、わたしにはどうにもできないもん。魔法なんか使えないから」

 「そうか……すると、触媒が必要なのかな」

 「しょくばい?」

 「きみのパワーを引き出すための何かだ。たとえばいま我が船の外に張り付いているあいつとか」

 「……えっ?」


 山田くんの背後に楕円形の画像がポップアップした。

 わたしはその画像に映し出された光景に息を呑んだ。

 サイが、宇宙船の外板に張り付いてる!

 真っ黒な宇宙を背景に、宇宙船の黒ガラスの表面に剣を突き立てていた。

 外は真空のはずだけど、動いてる。苦しそうには見えない……けれどものすごく怒っているのは分かった。


 「サイっ……!!」

 わたしは思わず立ち上がっていた。

 「サイ!」

 呼びかけても聞こえはしないだろうけど、とにかくサイはすぐ近くにいるのだ!


 「たしかに、この星の生き物なら死んでるはずだね」山田くんが感慨深げに言った。「きみのパワーを与えられているからあんなことができるんだ」


 山田くんは妙な勘違いをしているようだ。

 わたしはその勘違いを正そうとべらべら喋りそうになった。

 ――だけどちょっと待って!わざわざ親切に教えてやる必要ある?

 「あなたたちが欲しいのはわたしじゃなくてサイです!」って?

 そんなのだめだ。そんなことしてもサイがより危険になるだけだ。

 どうすればいいの?

 わたしは頭をフル回転させた。

 

 「ああそうだ!」わたしは叫んだ。「あなたたちが欲しいパワーをもっとたくさん持ってる人がいる」

 「なんだって?」

 山田くんはつかつか歩み寄ってわたしの首を掴んだ。

 「それはどこにいる?」

 「くっ……詳しくは……しらな・い……だけど」

 「話せ」

 「世界地図、持ってる……?」

 山田くんがパチンと指を鳴らすと、かたわらに半透明な地球儀が浮かび上がった。

 「どこにいる?」

 

 「コ……ここ」


 わたしは中国を指さした。


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