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★1 転生ってやつですか!?

作中に登場する固有名詞、地名は実在しません。



 しばらく平日に更新します。


挿絵(By みてみん)


 あいつが転生してきたのは四月最初の金曜日。

 朝から季節外れの冷たい雨でした。

 来客など予期していなかったので、簡単な朝ご飯を済ませたわたしはノートPCをぼんやりいじってた。


 ああそう、わたしのスペックは27歳ニート(♀)、スクラッチくじで一等が当たったので5年間勤めた会社を辞めたばかり。銀行にお金受け取りに行ったのがここ数年で一番劇的なイベントでしたわ。六畳居間とキッチン浴室だけのアパート暮らし。

 眼鏡女子よ。

 

 そんなだったから、貯金を食いつぶしながら(さあどうしよう)と思案する日々。

 だけど具体的に行動するでもなく……それより小説投稿サイトに駄文を投稿するのを優先してしまう。物語をイチから紡ぐほど脳味噌もないので二次創作ですけどね。


 そんなわけでその日も朝っぱらからおこたにもぐってPCに文字を打ち込んでたのだけど……目の隅に光が瞬いた気がしてキッチンに眼を向けると、青い光がどんどん強まって直径1.5メートルくらいの光の球体になってそれから……

 あいつがポロッと出てきたのだ。

 わたしは驚いて立ち上がってたから、ゆっくり倒れ込む彼を受けとめることができた。

 そう、「彼」よ。

 つまり男。ガス会社の点検くらいしか男性を上げたことのないこの部屋に!


 「えっちょっちょっまじで」わたしは慌てていたことと思う。


 彼を抱えたまま畳の床にへたり込んだわたしは、しばらく固まっていた。光はいつの間にか消えてる。部屋はしんとしていた。窓からしとしと雨音が聞こえる。

 「ね、ねえ……」

 わたしの肩にもたれ掛かった頭に話しかけた……しかし応答ナシ。それでわたしは突然思い至った。

 (死体!?)

 わたしはまた慌てて身をもぎ離し、彼は畳の上にうつぶせで横たわった。

 のろのろ立ち上がって彼を見下ろした。

 甲冑着てる。全身じゃなくて胸当てと肩と足だけど。

 体つきは中学生くらいでやや小柄……赤みがかかった金色の髪。

 帯剣してる。

 (ウッソー……)

 どうするわたし? 警察……いやまず救急車?いやちょっとそのまえに……

 彼の首筋にソーッと触れた。

 温かい。生きてるっぽい。

 なんとなくホッとしたけど問題はなにも解決していないと気付くまで2分かかった。とりあえず……彼を仰向けにした。苦しそうだったから。


 それからたっぷり3分ほど、見とれた。


 すっごい美少年……まるで、まるで……

 王子様。

 西洋人でもなくちょっと東洋人とのハーフというか、シュッとした目鼻立ち。かすかに眉をしかめて苦しげな表情、襞付きの白いシャツに胸当てを着けてる。その胸当てにざっくり裂け目が刻まれて血が――

 わたしは声もなく飛び上がって、それから胸当てをどうにかして外した。シャツは血まみれ。ボタンを外して胸をはだけると……

 傷口が光って、ゆっくり修復している……ように見えた。


 わたしはあらためて救急車を考えたけど、ヒジョーにヤバイ状況なのではないかと思い当たった。だってどう見える?自宅に引っ張り込んだ瀕死の男の子を脱がそうとしてる成人女……

 下手したら後ろに手が回るんじゃないこと? 

額に汗しつつもわたしはおこたの上のスマホを拾い上げ、震える手で……指先を画面の上に彷徨わせた。 1 ―――――――― 1

 9

 「ウー……」

 彼が呻いて、わたしは文字通り3㎝ほど飛び上がってスマホを放り出した。彼のかたわらに跪いて呼びかけた。

 「ねえキミ、大丈夫?」

 すると彼は片腕をゆっくり持ち上げ、わたしの二の腕を掴んだ。

 「みず……」

 「あーはいはいちょっと待ってて!」わたしは冷蔵庫からミネラルウォーターを取りだしてコップに注ぐと、彼の頭を膝に抱き起こした。

 「ほら、飲める?」

 彼は辛そうに眼を閉じたまま、あてがわれたコップの中身をごくごく飲み干した。ハーと息を継いで言った。

 「うまい」

 「もっと欲しい?」

 「結構……」彼が眼を開けた。ハシバミ色の瞳がわたしを見上げた。「もう、大丈夫だ」

 「ええと……お医者さん呼ぶから、楽にして」

 「よせ」

 「え?」

 「医者など要らない……誰も呼ぶな」

 「だけどさあ」

 「もう回復した」彼はゆっくりと、肘を突いて体を起こした。わたしは背中を支えた。彼はぼんやりとあたりを見渡した。「ここはどこだ?」

 「ここ?わたしのウチ」

 「見慣れないところだ……どこの国だ?」

 「国って……ここは川越、ていうか日本の……」

 「知らない名だ」彼はがくっと頭を垂れた。「……そうか、吹っ飛ばされたんだな」

 彼は立ち上がった。ちょっと胸の傷口を押さえているけどもう疵はなくなっていた。足はしっかりしている。

 「ちょっと見回ってくる」

 「えっ!?ダメだよ外なんか出ちゃ――」わたしが留める間もなく、彼は外に飛び出した――窓から。


 わたしはかなり焦って窓に駆け寄った。ここは二階だ。

 彼は無事だった。脚を痛めた様子もなく、短いマントを翻して道路を駆けて行くのが見えた。


 わたしは壁に掛けてある上着をひったくって追いかけようとした。玄関口で靴を履こうとすると、頭になにか当たった。

 「――ッつ!なに!?」

 それはリボンで縛られた小さな巻物だった。わたしはそれを拾い上げ、リボンを解いて広げてみた。

 ヨレた手ぬぐいみたいなそれに魔方陣が描かれていた。見慣れない象形文字が揺らめいている。なのになぜか判読できた。



 『あなたは世話役に選ばれました。責任を持って勇者様をお世話してください。よろしくお願いします』



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