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勇者を庇って死ぬ当て馬キャラだったけど、物語の進みがおかしい  作者: エイ


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その後のお話(前編)

リンちゃんが弄りまわされているだけの番外編ですが、よろしければ暇つぶしにどうぞ

 


 レオが甘い。



 会わずにいた十二年という歳月は、レオを全く知らない人間に変貌させたのか。


 死に別れた時はまだ、お互い成人前の子どもだったから、大人になって色々経験してそりゃあ変わりもするだろうけど、それにしてもレオ、変わり過ぎだよ。

 息をするように吐き出される甘ったるい言葉、どこで覚えたんだよ……。


 前世親友に甘い言葉を囁かれるって、結構きついもんがあるんだなと知った、リンちゃん六歳の春。








「リン、抱きしめていいか……?」


 一緒に暮らすようになって、毎日レオに抱きしめられるのが、俺……じゃなかった私の日課になっている。


 一応、許可を求める言い方をしているけれど、私に断る選択肢は残されていない。


 なぜなら最初にそう言われたときに、『いや……それはちょっと……』と否定的な言葉を口にした瞬間、レオがこの世の終わりみたいな顔になったから、慌てて『ううん!ダイジョウブダヨ!』と受け入れる羽目になった。



 レオに悲しそうな顔をされるとツライ。


 タロが死んでからの十二年間、ずっと孤独に生きてきたレオ。

 私が……いやタロが、声の人の言うことを鵜呑みにしないで、違う選択をしていれば、レオもまた、違う未来があったんじゃないかという、後悔の念がある。

 なにより、明らかにきっついトラウマを植え付けたであろう自覚がある自分としては、レオの望みは叶えてやりたいというか、断りにくいのだ。





「う、うん……いいよ」


 そんなわけで、私は今日も、羞恥心を押し殺してレオの膝に乗るのだ。


 椅子に座ったレオの膝に乗ると、レオはたくましい両腕を私の小さな体に回し、引き寄せてぎゅっと抱きしめる。

 そして私の肩から首すじに顔をぴったり合わせ、密着して長い時間そのままなにも話さずに過ごす。


 タロの知っている頃のレオは、タロよりも背が高くてがっちりしていたけれど、もっと少年のようにほっそりしていた。今は前世の記憶にあるよりも倍くらい太くなった腕と、厚い胸板が、レオの生きてきた時間とリンとしての私の生きてきた時間の差を感じさせる。




「くすぐったいよ……レオ」


「すまん」


 レオの唇が首すじにあたって、時々熱い息がかかるのがくすぐったいと抗議したのだが、レオはすまんと謝るわりに離れてくれる様子がない。


 首元で喋られるとなんだかムズムズするので、耐え切れず身動ぎすると、レオが顔をあげた。


「嫌か?」


「い、嫌とかじゃなくって……くすぐったいって言った」


「そうか。こうするとくすぐったいのか?これならいいか?」


 そう言ってレオはわざと私の首に唇を押し付ける。ひゃん!と変な声が出た。


「からかわないで!そういうことするならもう降りるからな!」


「からかったわけじゃないんだ。リンがいろんな反応するのが可愛いからもっと見たくなるんだ。悪かった、もうしない。だから降りるなんて言わないでくれ。まだ少ししかリンに触れていない。

 本当なら一秒だってリンとは離れていたくないんだ。俺の目の届かない場所で、リンになにかあったらと思うと恐ろしくてたまらない。だがお前が、学校にはついてくるなというから、お前の意思を尊重して、一日の大半は離れて過ごしているんだぞ?ようやく帰ってきたのだから、ちゃんとリンの無事を確認しないと不安なんだ」


 レオがものすごーく悲し気に眉を寄せる。レオ曰く、体全体に魔力を流して、私の体に異常がないか調べているのだと言う。抱きしめなくても無事の確認はできる気がするんだけど、悲しい顔をされるとそれ以上は強く言えない。


「う……じゃ、もうちょっとだけ、だよ?」


 私がそう言うと、レオは愁眉を開いてにっこりと笑った。


「じゃあもうくすぐったくないようにするから。ホラ……リン、俺のほうを見て」


 レオはお互いの顔が真正面にくるように抱えなおすと、鼻先をこすり合わせて、唇がくっつきそうなくらいに顔を近づけて話してくる。



「ちょっ……もう、近い、近いって……喋りづらいよ」


「ん?そうか?でも触れていないと意味がないんだ。……リンの唇は小さくて可愛いな……美味しそうだ」


 ボソッとつぶやかれた不穏なセリフに、ぞぞぞぞぞ~っと怖気が走る。お前何言ってるの?正気?中身元男の元親友だってわかっている相手によくそんなセリフが吐けるな……。切り替え上手にもほどがあるよ。


 私はまだ、タロの記憶とリンの自我が入り混じっていて、そんな簡単に意識改革できないんだよ……。

 それにしても、前世で知るレオはこんなんじゃなかった。どちらかというと気弱で口下手で、人とかかわるのが苦手な性格だったはずだ。こんな百戦錬磨の遊び人みたいな口説き文句が言える奴じゃなかったのに。


 月日は人を変えるんだな……。なんかちょっと遠い目になってしまう。




 そのあとも散々撫でまわされたり匂いをかがれたりしてグッタリしていたところに、仕事から帰ってきた七つ子兄さんたちが飛び込んできた。レオの膝の上にいる私を見て、七人全員が叫び声をあげた。



「うおおおお!この不埒者めー!」

「リンちゃんはまだ六歳なんだぞ!いやらしいことするな!」

「犯罪だからな!このロリコンめ!」

「つーかお前仕事さぼってんなよ!」

「働かない男とは結婚させないって母さんも言ってただろ!」

「リンちゃんこんなセクハラロリコン無職のおっさんとは別れたほうがいいぞ!」

「リンちゃん思いなおすなら今だぞ!」


「兄さまたち、お帰りなさい。仕事の進捗はどうですか?」


 リンちゃあ~ん!と叫んで兄さまたちが私に駆け寄ってくる。が、レオが結界を張ったので、兄さまたちは見えない壁に激突してコントのようにそろってひっくり返った。



「兄上がた、リンは俺の婚約者です。兄弟とはいえ、勝手にリンに触れることはやめてくださいと何度も言っているでしょう」


 ばったりあお向けに倒れたままの兄さまたちに向かって、レオが冷たく言い放つ。


「うるせー!おっさん!リンちゃんを赤子の時から育てたのは俺たちだぞ!」

「お風呂もトイレも全部俺たちが世話したんだからな!」

「リンちゃんの黒子の数も位置も俺たちはぜーんぶ知ってんだぞ!」

「リンちゃんは俺たちでできていると言っても過言ではない!」

「だからリンちゃんは俺たちのものだ!」

「俺たちだってリンちゃんを抱きしめる権利があるんだよー!」


 結界の外側で兄さまたちがやいやい言っているが、レオはガン無視している。ハート強いよね。



「なにゴロゴロしてるの?七つ子たちは~またみんなで遊んでるの?あ、あらあらリンちゃんたらまたレオ君に抱っこしてもらってるの?ホント、リンちゃんはレオ君大好きねえ」


「かあさま」


 わーわー騒いでいたせいで、自室にいたはずのかあさまも来てしまった。


 かあさまは、あの間違った逆プロポーズのせいで、私がレオにベタぼれだと思っている。別に私が抱っこをせがんだわけじゃないんだけど……。


「レオ君、ダムの建設は進んでいる?レオ君が来てから、いろんな工事がどんどんできるから有難いわ~」


「来月には完成しますよ、義母上。もうすぐ雨季ですからね。それまでには治水を完了させたいと義父上が仰ってましたから、少し急ぎました」


「まぁ、頼もしいわ。本当にレオ君が村に来てくれてよかったわ」


 かあさまが心から感心したようにレオを褒めると、七つ子兄さんたちが『ぐぬぬ』と、悔しそうに歯噛みした。

 だが、レオが進めてくれた工事は、レオがいなければ絶対にできなかったことで、それを正しく理解している兄さまたちは、それについて本音ではとても感謝しているので文句を言うことができないのだ。




 レオは今、村長であるとうさまから依頼を受けるかたちで、村の灌漑事業に協力している。



 農業が主な産業であるこの村では、川に沿って畑や家が多く作られているのだが、大雨が降ると、氾濫することがある。被害を受けない場所まで移動すればよいのだが、水を遠く離れた川まで汲みに行けというのかと言って住民たちは動こうとしなかった。

 移動する場所まで用水路を作るか、川の上流にダムを作りたいと、村長のとうさまは考えていたのだが、如何せん貧乏な村なのでそのための資金も人手も確保できなくて、長年先送りされていたのだ。

 その保留になっていた事業が、レオが村に来たため、一気に進むことになった。


 レオが世界を救った勇者だと知ったグラム兄さまが、じゃあその勇者のすごい魔法の力を貸してくれと言い出して、とうさまを慌てさせた。

 魔王討伐前の暗黒時代を知っているとうさまは、世界を救ってくれた勇者様に、それはいくらなんでも不敬なんじゃないかと難色を示したが、レオが『婚約者の大切な故郷ですから協力させてください』とものすごくカッコいい事を言って受け入れたので、本格的にレオが仕事として引き受けることになったのだ。


 村の人々と色々話し合った結果、灌漑事業に協力してもらうのがいいだろうと決まった。


 私は、勇者の力って魔物退治に特化した能力なんじゃないの?そんな工事とかに使えるものじゃないんじゃ?って思っていたけど、違った。



 レオひとりで巨大な丸太も楽々運べるし、掘削も特別な道具がなくともレオひとりでできてしまう。小山くらいある大きな岩をジャガイモでも潰すみたいに砕いたときは、すごいを通り越してちょっと引いた。


 巨大重機じゃんお前。すごすぎて完全に人間辞めてるけどいいの?でも周囲の人々は、『勇者さまって本当にすごいのね!』とか、『これが世界を救った力か!』て大盛り上がりで、特に怖がったり疑問に思う様子もない。



 ……勇者にこんな仕事をさせていいのか?本当ならこの世界を統治する王になる未来があった人間なのに、こんな田舎でダムとか作らせて才能の無駄遣いじゃなかろうかと、心配する村人も少なからずいたのだが、『仕事をしないとリンとの結婚を許してもらえないから、働かせてほしい』と笑って言うので、そういう声も自然と消えていった。




 そんなわけで、当初レオのことを絶対に認めようとしなかったとうさまも、こうなってしまっては逆に頭が上がらず、私とレオの婚約を早々に認め、ウチの屋敷にレオが住むことも同意したのだった。

 両親公認となった私とレオの婚約だが、七つ子兄さんたちだけは未だに諦めず、勝ち目のない戦いを毎日挑んでいる。が、かあさまも村の事業に貢献してくれているレオを全面的に味方するので、兄さまたちは孤立無援なのだ。

 ちなみに兄さまたちの事業は、まだまだ利益を出すには程遠い状態で、むしろ設備投資の借金があるので、余計に兄さまたちの発言権が低い。



「すごいね、レオ。もうダム出来るの?年単位でかかると思っていたのに」


「工事がしにくい場所だったからね。義父上も工期は長く見積もっていたが、リンが驚いてくれるかと思って頑張ったんだ。じゃあご褒美をくれるか?」


 ご褒美が不穏な響きを含んでいるように思えるのは私の被害者意識が強すぎるだろうか?


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