お前が壊れたのは俺のせいか
どうしよう、レオが何言っているか全然理解できない。俺の親友、壊れてた。
いや、その髪色本当に俺のか?なんかおかしくねえ?それにその目の色はなんなんだよ。変なもん食っちゃったから、おかしな化学変化起きてんじゃねえの?見た目だけ言えば、お前こそが魔王みたいになっちゃってるぞ。
怖い。目の前の親友が、滅茶苦茶怖い。
どうしてくれんだよ声の人。完全に脚本が間違ってるじゃねーか。
あれ?でも脚本どおりに進まなかったのに、どうして世界は平和になっているんだ?
「ちょ、ちょっと待て。とりあえず俺のことはどうでもいい。えーと……それでレオは、絶望して、こんな世界どうでもいいって自暴自棄になったのかもしれないけど……でも魔王は斃されて、世界は救われているじゃん!ちゃんと話の続きがあるんだよな?な、そうだよな?やっぱり立ち直って使命に目覚めたんだろ?!じゃなきゃ今こんなに平和なわけないもん……な…………」
途中で言葉に詰まったのは、親友の笑顔がどんどん禍々しくなっていくからだ。
なんか今地雷踏んだのか?全然わからん。
昔はレオが今何を考えているかなんてだいたい分かったのに。今はコイツのことが全然わからない。
「別に……世界のために魔王を滅ぼしたわけじゃない。タロを殺した魔物を、灰すらも残らないよう焼き尽くしてやったら、ついでに黒の森も消滅したってだけだ。そのままこの世界も全部焼き尽くして終わりにしようと思ったんだが、その時、あの御使いの野郎が慌てて出てきやがったんだ」
「…………うん、それで……お前の未来を聞いたんだろ?お前のおかげで世界は救われて、お前はあの三人と結婚して、それで……って、なんでお前そんなに怒っているの?」
俺の腕をつかんだままのレオは、燃えるような怒りを滲ませて俺を見下ろしている。
「御使いもそんなこと言っていたかもな。これから幸せになるんだから早まるなとか、あの三人と結婚して子だくさんの大家族になるんだとか、幸せな余生を約束するとか、愚にもつかない妄言を吐き散らすから、あれも一緒に焼き尽くしてやろうとしたんだ。
だってなあ、俺から家族も故郷も、幸せと名の付くものを全て奪っておきながら、なにが幸せになるだ?だったらせめて、死んでしまったタロを生き返らせろよって言ったんだ。親や故郷までも元に戻せとは言わない。俺に残された唯一の家族の、タロだけでいいから、俺に返してくれって言ったんだ。
けどあの御使いはなんと言ったと思う?『死んだ人間は生き返らない』だと。馬鹿だろ?神の御使いとか名乗っておいて、ゴミ以下の役立たずだろ。それができないなら、もうこんな世界に用はないんだよ。だから燃やしてしまおうと思ったんだけどな…………でも、御使いの野郎が、『タロの魂はこの世界のどこかで生まれ変わってくる』と言うから思いとどまったんだ」
「は……?じゃ、じゃあお前…………結婚してねえの?あれからもう十年以上たっているんだぞ?お前今までなにやってたんだよ…………俺のことなんかどうでもいいだろーが!死んだ人間は生き返らねーんだよっ!辛くても、前に進んで幸せになれよ!なんのために俺は死んだんだ!……し、幸せになれって言っただろうがぁ!」
俺だってお前と同じで、家族を亡くして故郷が燃えて、唯一の家族はお前だけだって思っていたよ!
俺だって、もしお前が死んだりしたら、同じように運命とか神様を恨むだろうよ!
でもなあ!だからこそ!お前には俺の分まで幸せになって欲しかったんだ!
お前が幸せにならなきゃ、そうじゃなきゃ、俺は…………ホントの無駄死にじゃねえか……。
怒りを滲ませるレオの顔を見ていられず、逃げるように下を向く。それを許さず、レオは俺の顔を片手でつかんで上を向かせ、真正面から見据えた。
「幸せになれよ、キョーダイ……だったっけか。お前の遺言。残酷なこと言うよな。俺のせいでタロはぐちゃぐちゃになって死んだのに、お前はただの一言も恨み言も文句も言わなかったよな。いっそお前のせいだって言われて責められたほうがマシだったよ。
世界を滅ぼして俺も死のうとしたけど、御使いの野郎が、この世界が滅んだら、タロの魂は生まれ変われずに消滅するだけだって言われたから、仕方なく思いとどまっただけだ。だが、お前がいつどこに生まれ変わるのか分からないと御使いは言うし、お前を見つけ出すのに十二年もかかってしまった」
十二年……。レオは、俺が死んでからの十二年間、ただ、俺を探し続けていたってことか?
「な、んのために……?後悔の念か?罪滅ぼしか?俺に悪いと思うんだったら、俺のことはもういいから、お前が幸せになる道を探せよ!それが俺の願いだったんだから。今からでも遅くないって。聖女様たちに会ってやり直せよお……」
俺のせいか?俺が死ぬとき余計なことを言ったから、レオはまだ、たった独りで、十二年間も地獄のような時を過ごしていたのか?
俺のせいだ。俺が勝手に死んだりしたから。
俺が……死んで……。
あれ?そうだ、俺は死んだんだ。
じゃあ俺は?
俺って誰だ?
ここにいる俺は、誰なんだっけ……?
レオが俺の頬を指で拭う。頬がぬれた感触がする。俺はいつの間にか泣いていたらしい。
「泣くな。泣いたらお前が減る。髪の一筋も、爪のひとかけらも、何一つ損なうんじゃない。もうほんの少しもお前が損なわれるのは耐えられないんだ。また死んだりしたら今度こそ俺は狂う。世界を焼き尽くして俺も死ぬ。
なんで生まれ変わったお前を探していたかって、聞いたよな?俺は勇者の力で、この世界のたいていのことには干渉できるけれど、魂は神の領域だから、死んでしまったら手が出せない。だからまたお前が失われる前に手に入れようと思って探していたんだ。
生きたままスキルでお前を取り込めば、俺が死なない限りお前も死ぬことはない。魂ごと、俺の中に閉じ込めることができる。
そうすればもう、二度と、俺は、家族を失うことは、ない」
瞳孔の開ききった瞳でレオは俺に熱く語る。
今度こそ狂うとか言っているけど、もうお前はすでに狂ってるんじゃないか?
世界は救われたけど、レオは救われなかったぞ、声の人。
「レオ……お前…………俺を食うの?」
「大丈夫だ、痛くない。一口で取り込むから、血の一滴も流れない。生きたまま魂ごと取り込んで融合すれば、もう何の心配もいらない。俺とひとつになって、生涯を共に生きよう」
スキルっていっても、物理的に食うとかさっき言ってなかったっけ?本当に一口で食えんのか?痛くねえって言ったけど、咀嚼されたら痛いに決まってるよな?
でも、そうすればお前は救われるのか?もう寂しくないのか?家族を亡くした悲しみは癒されるのか?今度こそ、幸せになれるのか?
……じゃあ、いいか。もとはと言えば俺のせいだし、仕方ないか。少々痛いくらい、我慢するよ。それでお前が辛くなくなるなら。
レオは俺の輪郭を確かめるように両手でゆっくりと撫でる。
「魂に性別はないんだな……まさか女に生まれているとは思わなかったから、見つけるのに手間取った」
女?
女ってなんだよ。お前赤ん坊のころから一緒だった親友の性別間違うとかアホだろ。小さいころから一緒に風呂入っていただろうが。
女に間違うとか……。
女?
あれ?俺、女なのか?
ていうか、俺って誰なんだ?
俺って…………。
「――――リンちゃんっ!!!!!」
聞き覚えのある声が聞こえ、俺はハッとして顔をあげた。




