赤子に転生したけど?
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いや、赤子じゃーん!て、俺自身気付くまでにも大分かかったよ?!
でもなんの前兆もなくしっこ漏らした感覚がして、このアンコントローラブルな体の状態について嫌でも理解したよ…………。言葉もしゃべれんし、どうにもならねえ……。
おい!声の人―!
役目って?!お手伝いって?!追ってお知らせするとか言ってたけど、赤子なんですけど?!赤子になにができるの?!
どういうこっちゃと声の限りに叫んだけれど、『ほぎゃあああんほぎゃあああん』とベビーな鳴き声にしかならねえ。
やけくそになって泣いていたら、声を聞きつけたのか、誰かの大きな手が俺の足を持ち上げてオムツを取り換えてくれた。
あ、すっきり。乾いた布の感触がキモチイー。
って、そうじゃねえよ!俺をここに送り込んだ声の人はどうしたんだよ?!
おーいおーいと声をあげてみるが、反応はない。まあ『あうあうあー』みたいな喃語にしかならんが。
しばらくジタバタと叫んだり泣いたりしてみたが、お世話してくれる人が時々くる以外、反応がなかったので、数日もがいた挙句、諦めた。
……とりあえず、赤子に生まれてしまった以上、頑張って生きるしかない。
神様からのお知らせを待ちながら、日々を生きる俺。
生きるっていっても誰かに世話されているので、生かされているって言ったほうが正しいかもしんない。シモの世話までしてもらう生活。ほんとすんません。
最初のころは、視界もぼんやりしていて、誰が誰だか分らなかったが、どうやら俺の世話をしてくれているのは何人かいて、母親とかではないらしい。それに子どもの声が常にたくさん聞こえている。
大家族で乳母とか使用人とかいるのかしらんと思ったけど、その割には最低限にしかお世話をされないし、なにより着ているものや部屋の様子がぼろっちい。
成長するにつれ、どうやらここは孤児院のようなとこだと気が付いた。お世話してくれているのは年配の修道女のような人たちだ。
わあ…………俺、孤児なのね。
気づいたときは若干ショックだったけど、まあメンタル成人男子だしね。ママが恋しい年ごろでもないし、衣食住用意されているだけで有難いと思える。
オムツやらお腹空いたとかで訴えるためには泣くしかなかったけど、それ以外では俺は非常におとなしいデキた赤子だったと思う。とにかく寝て、ミルクを飲んで、早く成長することを願うばかりだ。
つーか早く歩いてトイレいけるようになりたい。ダダ洩れしんどい。
まあそんなわけで、色々メンタル削られながらも日々を生きているうちに、俺は大変なことに気が付いた。
…………ここ、ドコの国?
成長とともに周りがよく見えるようになっていて、家の外まで動き回れるようになると、目に入るもの全てがおかしいことだらけだった。
かつての俺の常識ではあり得ないようなどピンクの髪やら、青髪の子やら居て、天井の電灯は宙に浮いているし、子どもたちも修道女の先生たちも魔法みたいなの普通に使っているし、見上げた空には太陽がみっつ浮いているし、なにもかも俺の知っていた世界ではあり得ない光景だった。
アカン、ここ地球と違うんじゃね?ほかの惑星?
…………もしかして俺、異世界転生とかしたんじゃね?
うん、それが一番しっくりくる。いかにもファンタジーな世界だし。
つーかなんだそれ、ラノベかよ…………。
全てにおいて色々説明が足りなすぎるぜ声の人…………。
ピンクだの青だの赤だの金だのと色がうるさい髪色ばかりがいるなか、俺は前世と同じ、この世界でも普通代表みたいなこげ茶の髪。なぜ俺だけ地味なん?解せぬ。なんかちょっとがっかりした。
この世界、電気もない、水洗トイレもない、超アナログ生活……かと思いきや、そこは魔法が使えるファンタジー世界。魔法や魔術道具で色々なことを賄っている。魔力で明かりを灯すとか!トイレは魔道具で自浄されるとか!風魔法でぬれた服を乾かすとか!大人になって忘れていた俺の厨二が滾る。
俺も魔法とか使えちゃう?と試しに電灯みたいな魔道具に気合を込めてみたら、なんかついた。俺、魔力あんじゃん!すげくね?と思ったけど、生活魔道具は基本小さな子どもの魔力でも使えるよう効率よく作られているらしいので、別にすごくもなんともないと知ってちょっとへこんだ。
この世界の電灯は、魔力を込めると点いて、ふわっと宙に浮かんで部屋を照らしてくれる。おお!これぞ魔道具!て感じする!
やべえ、これだけで異世界転生してよかったかも。
そういえば、この孤児院には、小さな子供がずいぶんたくさんいる。
そんなにもこの世界(国?)は貧困であえいでいるのかと思っていたが、ある時シスターがチビたちを集めて、かつてこの国に何が起きたのかを話してくれた。
ちょうど俺が生まれたころに、突然魔物と呼ばれる生物が大発生し、この国の各地で甚大な被害をもたらした。
それまで魔物がいないわけではなかったが、滅多に現れることがなかったため、魔物と戦える者がこの国には少なかったのだ。
王都から遠い小さな村などは、魔物の大侵攻により全滅したところも多数あった。小さな子を持つ親は、押し寄せる魔物を前にこれは逃げ切れないと察し、子を家の床下やかまどの奥に見つからないように隠していったのだ。
国を守る聖騎士団が、魔物を討伐し終えた後に、ようやく各地に救援隊が向かい、隠された子ども達が発見された。
幼い小さな子どもほど見つかりにくかったらしく、こうして俺くらいの幼い子どもがたくさん孤児となったのだという。
この孤児院は、その孤児たちの住まいとして建てられたもので、俺を含めここに居るのは皆、魔物に親たちを殺された子たちだった。
割りとシビアな世界に来ちゃったんだなあ……。本当に神様は、この世界で俺になにをさせるつもりだったんだろう?
この世界で俺の役目ってなんだろう?
毎年すくすくと成長しているが、いまだに神様からの連絡はこない。