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嫁同伴の異世界帰り最強伝説  作者: 坂水 雨木
地球、日本への帰還
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6. 雑談ついでの魔法

「…はぁ」

「どうした。ため息なんてついて」


 電車を降りたところで重い息が聞こえてきた。アジアンビューティー(異世界出身)なラミィには似合わない、と思ったがよく考えたらアンニュイな雰囲気も悪くないので色々と悩ましい。


「いえ、満員電車に疲れただけです…」

「そうか。お姫様抱っこでもするか?」

「え!いいんですか!?」

「…いや、まあ」


 俯き気味だった顔がばっと上がる。勢いがあったせいで髪の毛も一緒に跳ねた。ふわりと香る彼女愛用のシャンプーが鼻腔びこうをくすぐる。

 なぜ俺が彼女のシャンプーを知っているのか、それはそう。俺も同じものを使っているからである。

 ところでラミィ、期待の眼差しを向けてくれているのは嬉しいが、お姫様抱っこは冗談だぞ。


「冗談」

「とか言ったら怒りますからね」

「…なるほど」


 被せて言ってくれるとは、なんと。さすがラミシィス・エステリア。第三魔法国家エステリアのプリンセスなだけはある。


「さて、それじゃあ行くとしよう。お姫様抱っこは駅を出てからだ。人の邪魔になるのはよくないだろう?」

「ええ、それには同意します。さあ行きましょう。すぐ行きましょう。抱っこが私たちを待っています!」


 ぐいぐい手を引っ張って歩く恋人。自分の欲望に忠実なところもまた可愛い。惚れた。

 俺を引っ張りながらも距離が離れないようくっついて歩く姿にときめきを覚えつつ、階段を上がり改札を抜け、別の改札に入る。そして別の電車へと…。


「ま、待ってください!普通に盛護さんの指示に従ってしまいましたが、どうしてまた電車に乗るんですか!?」

「どうしてって、乗り換えしないと着かないからだよ」


 いったい何を言っているのだろうか、このお姉さんは。

 年上にあるまじき可愛さだな。惚れるぞ?もう惚れてたか。


「そんな…だ、騙しましたね?」

「まあ落ち着け。さっきよりは空いているはずだぞ。ほら」


 詰め寄ってくるラミィの頭を撫でながら、空いている手で電車の車両を指し示す。

 時刻は9時手前。階段を下りてすぐの場所から少し歩いたため、人の数も減っている。さすがに椅子は空いていないが、それでも身動きするのに十二分なスペースはある。


「あ、本当ですね。乗りましょう」

「ああ」


 あっさりと乗車をする。先ほどまでの文句が嘘のようだ。単純に満員電車が嫌なだけなのだろう。俺も満員電車は嫌だから、その気持ちはよくわかる。


「盛護さん、今ってどこに向かっているんですか?」

「うん?言ってなかったか」

「はい。まったく聞いてないです。さっきの電車はずっと密着してただけでお話できませんでしたし」

「それ今言うことか?周りに聞こえるぞ」

「あはは、消音魔法かけてるので大丈夫ですよー。変な盛護さん」


 いや変なのは君だから。ぽやぽや笑われても困る。とても可愛いが。


「消音魔法か。…やっぱり普通に使えるんだな」

「魔法のことですか?」

「うん」


 高精度の魔力センサー的なものを俺は持っていないから、ラミィほどこの世界で魔法が使われていることを実感できていない。というかまったくできていない。母さんも言っていたけれど、一般的に魔法が存在するといったことはないらしい。

 そうなると、定番的な感じで"世界の裏では秘密組織が暗躍しているのであった"、みたいなことになっているのか。…今は忘れておこう。最悪殴ればなんとかなるだろう。この世界にも改造魔人最強説を立証してやる。任せておけ。


「んー、盛護さんがわからないのも無理ないかもしれないですね。割としっかり隠蔽いんぺいされてるみたいですし」

「そうなのか」

「ふふ、ま、それでも私にかかればちょちょいのちょいですけど」

「さすがだな。褒めてやろう」

「んふふ、私を撫でることを許可します」

「それはありがたい。遠慮なく撫でさせてもらおう」


 というわけで、軽く頭を傾けるラミィの頭をさわさわと撫でる。


「えへへ、ほとんど理由なくても褒められるのはやっぱりいいものですね」

「それはなによりだ。しかしラミィ、魔法の痕跡はともかく、俺は魔力そのものも感じないぞ。それはどうなんだ?」


 ちょうどいいタイミングなので、気になったことを聞かせてもらった。

 通常、魔法は体内にある魔力と、体外にある魔力を結合させて使用する。体内魔力だけで魔法の発動もできなくはないが、必要魔力量が天と地の差はあるのでほぼ意味がない。

 日本に戻ってきてからは体外魔力をまったく感じ取れないため、魔法は使えないと思っていた。ラミィならわかるはず。答えてくれ博識プリンセス。


「あ、今超可愛いラミシィスお姉さんって言いました?」

「言った言った。だから教えてくれ、超可愛いラミシィスお姉さん」

「ふふふ、いいでしょう。めちゃくちゃ可愛いラミシィスさんが教えてあげます」


 どうでもいいことだが、調子に乗るラミィはとてつもなく可愛い。


「体外魔力を感じ取れないのはですね。そもそも魔力そのものの隠蔽も行っているからです」

「魔力の隠蔽?」


 ぴっ、っと人差し指を立てて話を進める。先生っぽい雰囲気もまた良い。とても良いものがある。


「そうです。これは結構すごいことですね。おそらくこの星限定ですが、星全体に魔力を認識しにくくなるような魔法がかけられています。誰がかけたんですかねー。私でも三日はかかっちゃいます」

「またスケールの大きいことだな」

「ふふ、エストリアルではこれくらい普通でしたよね?」

「捏造はやめてくれ。いくら魔法が進んでいるとはいえ、惑星規模の魔法を普通に使っているわけないだろう」


 確かに必殺技で星単位の魔法使うやつもいたが、それは特別。もちろんラミィも特別。そう何万、何十万人もいてたまるか。


「はいはーい、盛護さん、今のでわかりましたか?」

「ん?あぁ、わかったよ。ありがとう」


 納得できた。もしや魔力の隠蔽とは、予想外だ。しかしそれなら、俺もいつも通り魔法を使えるというわけだな。さっそく使ってみよう。


「再生魔法再生魔法…お、できた」


 使用したのは第三魔法国家エステリアでもポピュラーなもの。それは再生魔法と呼ばれ、名前通り再生にかかわっている。

 魔法をイメージすると、俺の手のひらの上にふわりと半透明なクリスタルが浮かんだ。


『盛くーん。んふふー、元気ですかぁ?わたし?私はぁ、あははっ!元気ですよぉ!んふー、ぎゅーってしましょう?ぎゅーー』

「ななな、なにをしているんですかあなたは!!」


 以前録音しておいたものを再生したところ、顔を真っ赤にしたラミィが他人ひとの魔法キャンセルを行使してきた。

 わざわざそこまですることだろうか。せっかく日本に帰ってから初の魔法だったのに。もったいない。


「少し魔法を試そうかと」

「べ、別に私との会話を使う必要ないでしょう!もうもう!というかなんであんなもの録音しているんですか!!」

「ふ、愚問ぐもんだな」


 やれやれだ。

 そう怒るなよプリンセス。怒っても可愛いだけだぞ。俺が惚れ落とされるだけだ。


「俺が好きだからだ」

「はい消去!!」

「なぜだああああああああ!!!!」

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