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嫁同伴の異世界帰り最強伝説  作者: 坂水 雨木
地球、日本への帰還
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4. 今日の予定のこと

 朝、地球という星で久しぶりに迎える朝だ。日本に帰ってきてから初めての朝になるというのに、やらなければならないことが多すぎて落ち着けない。


「父さん、母さん、おはよう」

「お義父様、お義母様、おはようございます」


 洗面所で顔を洗ってからリビングに入り挨拶をする。二人とも食事中だった。


「おはよう、盛護にラミちゃん。朝ごはん、食べるでしょう?」

「二人ともおはよう」

「食べる」

「ええ、いただきます。お義母様、私にお手伝いできることは何かありますか?」

「ふふ、大丈夫よ。座っていてちょうだい」


 キッチンで作業する母さんをちらりと見て、ラミィと二人席に着く。

 横長の机に席が対面で三つずつと、左右のお誕生日席二つを合わせて八人がけだ。父さんはキッチン近くの椅子。俺はその対面、俺の隣にラミィ。昨日座っていたのと同じ位置付けとなる。


「父さんは今日仕事?」

「おう。明日は土曜で休みだから、昨日の続きは今日の夜か明日にでも頼もうと思っていたんだが…」

「了解。母さん、それでいい?」

「いいわよー」

「よし。ラミィ、今日は予定通り観光するぞ」

「ふふ、了解です。楽しみですね」


 顔をほこらばせるお姫様。どこに行くか悩みどころだ。俺のセンスが問われる。

 近場でもいいけど、この辺何もないからなぁ。どうせなら都会に行きたい。そうすると電車を使うか…。金がないな。


「はーい、二人分の朝ごはんよー」

「お、ありがとう母さん」

「わぁ、お義母様、ありがとうございます」


 それぞれ個別のプレートを持ってきてくれた。ソーセージとスクランブルエッグと温野菜と。あとミルクのコップも追加で。

 主食は雑穀米だ。さすが母さん。十年経ってもわかってくれている。


「いただきます」

「いただきます。…盛護さん盛護さん」

「なんだい」

「これはお米、ですよね?」

「うん。雑穀米だな。健康にいいやつだよ」

「なるほど」

「エステリアにもあっただろ?ほら、十麦とうむぎみたいなものさ。…そういえば、あれは見た目に違いがほとんどなかったか。これはわかりやすいだけだから気にするな。美味しいぞ」

「そうなんですね。わかりました」


 そんなやり取りをしながら食事を進めていく。

 ラミィの可愛いところは今もやったように、くいくいと服の袖を引っ張って尋ねてきたところにもある。あざとい、だが可愛い。

 ちなみに十麦とは、十種類の麦が混じったお粥、のようなもの。味はないので薬味や調味料をかけて食べる。結構美味い。


「ごちそうさま」

「ん…んー、盛護さんいつもより早いですね」

「はは、久々の母さんの料理だったからな。雑穀米も十年ぶりだ。そりゃすぐ食べ終えるよ」


 もぐもぐしている恋人に笑いかけて食器を片付ける。


「ラミちゃんって別の世界の人なんでしょう?お箸使うの上手なのね」

「ふふ、エステリアにも似たような食器はありましたからね。ティスと言うのですけど、見た目も使い道も同じですね。違うのは名前だけです。あ、でもデザインはもっと複雑でした」

「デザイン?」

「はい。広げたときに写真や絵が見えるものですから」

「そ、そうなの。すごいのね」


 母さんナイススルースキル。魔法に対する理解がないところでそんな話聞いても意味わからんからな。あれは見ないとわから…そうだ。魔法だ。


「ラミィ、魔法だよ。今も使えるんだよな?」

「ん…ふぅ、ごちそうさまでした」

「はいお粗末様ですー。片付けはいいわよ。私がやっちゃうから」

「あ、すみません。お願いします。…それで魔法ですか?」

「魔法だよ」


 昨日聞きそびれたんだった。ラミィの可愛さにやられて忘れてしまっていた。

 このお姫様、いちいち可愛いんだよ。今だって目をぱちぱちさせていて可愛いし、いつの間にか薄っすらお化粧もされていて綺麗だし、髪の毛もいつも通り毛先にかけての緩いカールが愛おしいし。なんだ、天使か。


「な、なんですかそんなに見つめて。別に見てもいいですけど…もらうものもらいますよ?」


 照れて顔を赤くしながらのセリフ。

 俺にはわかる。ラミィが何を欲しがっているのかわかる。彼女の方もそれをわかっていて言っているだろう。なぜならそう、俺たちは恋人だから。


「ふ、もらうものとはなんだ?」

「…そんなかっこつけても、ただかっこいいだけですからね」

「うん。ありがとうラミィ」


 誰に褒められても嬉しいが、それが恋人だと喜びもひとしおである。


「どういたしまして。盛護さんからは後できちんと愛をもらいますから。いいですよね?」

「任せろ」

「それで?魔法なら普通に使えますよ。というか盛護さんが言っていたアースと色々違うのですけど。この世界、普通に魔法だらけですし。なんならこの国だけでも魔法使ってる人いっぱいいますし」


 …そうなのか。


「母さん、今の日本って普通に魔法使いとかいるのか?」

「何言ってるのよ。そんなわけないでしょ」


 そうだよなぁ。


「なぁラミィ。どの辺りで魔法が使われていたかわかるか?」

「ふふ、私を誰だと思っているんですか?盛護さんの大好きなラミシィスさんですよ?」

「おーけー、任せた。時間があったらそこにも行こう」


 相変わらずの薄い胸を張るラミシィス。調子に乗りやすいところもまた可愛いのだよ、俺の恋人はな。


「うん?急がなくていいんです?」


 こてりと首をかしげる。仕草が可愛いのもまた一つポイントであった。

 結局のところ、ラミィのすべてが好きだから言葉一つ、行動一つとっても可愛く見えるのだろう。俺がどれだけ惚れ込んでいるかわかるというものだ。


「あぁ、急がなくてもいい。俺たちの戦いはエストリアルで終わったんだ。アースに来てまでどうこうしなくちゃいけない理由はないよ」

「…ええ。そうでしたね」


 少しだけしんみりと、だけど柔らかく笑いながら話す。

 平和になって、日本に帰ってきて、ようやく二人で幸せを描けるようになったんだ。わざわざ自分から面倒ごとに首を突っ込む理由はない。


「それに、まずはラミィと日本を見て回りたいから」


 どちらかというとこちらの方が大事だったりする。そう、つまるところ日常デートをしたいのだ。


「ふふ、私も盛護さんの故郷をいっぱい見たいです。一緒に見ましょうね」


 にこにこしながら嬉しいことを言ってくれた。

 それじゃあ出かける準備でもするか。どこに行くか細かいことは出かけてから考えればいい。魔法が使えるなら最悪どうとでもなる。金については…そうだ。


「母さん、そういうわけだからラミィと出かけてくるよ。ところで俺の財布と通帳ってまだあるのか?」

「ふふ、昨日のうちに準備しておいたわよ。ソファーの方に置いてあるから持っていきなさい。ある程度お金も入れたから安心して楽しんでらっしゃい」

「おー、ありがとう母さん。最悪コピーでもしようと思っていたから助かったわ」

「…私は息子がそんなことをしようとしていたことに驚いたわ。ラミちゃん。盛護が悪いことしようとしたら止めてあげてね」

「ふふ、はい。任せてください。盛護さんはちゃーんと私が見張っておきますから」


 ぐっと胸の前で両手を握る。可愛い。

 しかし、金の問題が一挙に解決したのは大きい。あればいいなとは思っていたけれど、あってよかった。金がないと外食一つできないからな。


「ああ、それと盛護。あなた携帯の契約してきなさいね。ラミちゃんは戸籍のこととかあるから難しいけど、盛護はできるでしょ?ないと不便だし買ってきてちょうだい」

「わかった」


 俺の捜索願やらなんやらは今日母さんが処理してくれるそうな。身分証は昨日のうちにもらった。顔写真付きの保険証で、十年前の俺が写っているものだ。

 ラミィが興味津々に俺の過去写真を眺めていたが、彼女の身分証や戸籍も作ってあげないといけない。俺自身、独り立ちという意味で金策きんさくも考えないと。

 やはりやること、考えることが多い。せっかく日本に帰ってこれたというのに、落ち着けるまで少し時間がかかりそうだ。


「それじゃあラミィ、出かける準備をしよう」

「準備ですね。いいですよ。どうします?私は何を持っていきましょう?」

「いや、荷物はいらないぞ。歯磨きとかお手洗いだけ済ませておいてくれ」

「そうですか。ふふ、わかりました。盛護さん、デートですね」

「デートだな」


 二人して軽く笑い合う。

 本当に、今日は最高の気分だ。家に帰ってきてからずっと気を張らずに済んでいる、それだけで帰ってきた甲斐があるというものだ。今日のデートは、何も気にせず純粋に楽しもう。

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