22. 魔法の翼(趣味)
「「「……」」」
昨日両親に話をしたときは、この世界で魔法が使えるとは思っていなかったため口頭だった。しかし、今回は違う。恋人のラミシィスから異世界にいたとき同様魔法が使えると聞いたので、さっそく役立たせてもらった。
今回使用したのは再生魔法の一つ。俺程度の魔法制御力じゃ使えない、記憶の再生だ。ラミィなら軽くできてしまうのでお願いさせてもらった。ついでに俺自身が言葉で解説しながらなので、説明がかなりわかりやすくなっていると思う。
その結果、だんまりと口をつぐむ俺の家族三人。順に顔を見ても、全員難しそうな顔をしている。
「なあラミィ、次はどの場面にしようか」
「え?そうですねぇ。ある程度省いていきますよね?」
「おう」
「じゃあ、私たちの初対面とかはどうですか?」
グッドな提案をもらったので、軽く頷いて恋人に魔法を頼む。
「ふふ、わかりました。じゃあいきますよー」
「ちょ、ちょちょちょっと待って!」
他人の記憶を再生するのは自分のものより難しいため、いかにラミィと言えど俺に触れなければならない。ちょうど俺の頭に手が置かれたところで、我が姉の割り込みが入る。
「姉さんどうした、そんなに慌てて」
八人がけのテーブル。俺とラミィが隣り合い、対面に姉、父、母といった順で座っている。俺たち側は椅子を少しずらしているため、父さんの正面に二人で並んでいるような形だ。お誕生日席は当然空席である。
そのような状況で、姉さんが腕をいっぱいまで伸ばして静止してきた。
何かおかしい部分でもあっただろうか。ラミィと二人、顔を見合わせてから揃って姉を見つめる。
「えっと、うーんと、色々言いたいことがあるんだけど…とりあえず、今の魔法なんだよね?」
「ラミィの魔法だな。最初に言った通り、異世界は魔法に満ちたザ・マジックワールドだったんだよ。ほら、俺も使えるぞ」
伝えながら右手で左胸を叩き、具現化魔法を使う。作り出すのはファミレスでラミィが魔力遊びをして見せていた翼だ。あれは魔力感知ができないと見えない青い翼だった。しかし今回作ったものは違う。
「わぁぁ!盛護ちゃん羽生えてるよ!お母さんお父さん!私の弟が天使だよぉ!」
正真正銘、人の目に触れる純白一対の翼である。
「魔法についてはまだ半信半疑だったんだが…これはすごいな」
「あぁ、母さんには思念魔法を使ったが、父さんには何も使ってなかったか。どうよ、これが俺の魔法だ」
ふぁさふぁさと翼を動かす。羽が落ちたりはしないので、部屋を汚すこともない。
片翼で二メートルはあるので、隣からとても迷惑がっている視線をひしひしと感じる。しかし効かない。無視である。
「すごいな。信じられん…本当に魔法なんだな」
「はは、魔法だよ」
「そうか…。盛護、もしかしてその翼で空を飛べるのか?」
「いや?」
「…飛べないのか?」
「おう」
「…なんのための翼なんだ?」
「意味などない」
「……」
父さんが悲しい目で俺を見てくる。なんでか俺も悲しくなってきた。助けてラミィ、悲しいよ。
「ラミちゃん。盛護の翼が意味ないって本当なの?」
「ええ、本当ですよ。これは見かけ倒しですね。ちゃんと空飛ぶ用のものも作れますけど、無駄に魔力使うのでやらないんです。翼なんて作るよりそのまま魔力を浮力にして飛んだ方が早いですから」
「そうなの…。魔法も現実的なものなのね」
お隣のラミィは母との会話に勤しんでいたので、助けを求めるのはやめて父と向き合う。
仕方がない。この趣味翼の真骨頂を父さんに教えてやるとするか。
「父さん、この翼はな。色も変えられるんだよ」
「……色を変えるとどうなるんだ?」
期待していない眼差しが俺を襲う。
論より証拠。すぐに答えを見せてやろう。
「ほらどうだ」
魔法を使って翼の色を変えた。変更先は青色。
「どうだってお前、青色になっただけじゃないか」
「ふ、甘いな父さん」
予想通りの答えを返してくる父にニヒルな笑みを見せる。
俺の魔法がただ色を変えるだけなんて、そんなわけがないだろうに。
「姉さん、感想をくれ」
困惑した様子の父さんに答えを教えるため、俺の片翼を抱きしめてうっとりしている姉さんに声をかけた。
実はこの姉、翼を動かし始めたときからずっと抱きついてきていたのだ。きらきらした目で見てきたので、なんとなく左の翼を動かし持たせてみたらぎゅぅっと強い抱擁をくれた。
ずいぶんと幸せそうにしているので放っておいたが、姉さんなら感想くらい軽くくれるだろう。
「んー、これはねぇ…ひんやりしてて気持ちいいんだぁ…。う…ごめんね…お姉ちゃん、眠くなってきちゃった…」
「…そういえばそんな機能も付けておいたなぁ」
瞼も重く椅子に座ったままうとうとしている。申し訳ないことをした。この翼、基本性能として安眠用に眠気呼び起こしやら誘眠といった魔法効果も入れておいたんだった。リラクゼーション効果しか覚えてなかった。完全に忘れてしまっていたよ。
「姉さん、疲れてるなら寝てもいいぞ。今日仕事だったんだろ?明日はどうなんだ?休みか?」
「ぅ…おやすみだよぉ…」
「じゃあゆっくり休んでくれ。どうせ泰毅にも説明するんだ。疲れてるのに話を聞いてもらうのも悪い」
「ふぁ…ぅ」
あくびで返事にならない返事をする姉。いくら魔法がかかっているとはいえ、こうはっきりと効果が表れるということはそれだけ疲れているということ。
ささっと腕を振って浮遊魔法をかける。姉さんの身体をふわふわと浮かばせてソファーまで運ぶ。ゆっくり下ろして魔法を解いた。ついでに姉を包む形で消音魔法を使い、安眠用青翼から羽ををもぎ取って散らしてあげた。これで話し声に起こされずゆっくり眠れるだろう。
「父さん、翼は色によって効果が違うんだよ。緑や青はリラックス、赤や橙は高揚、といった形でな。色々見せたし、魔法についてはもういいよな」
「ああ、十分だ。夏菜恵が宙に浮いた時点でよく伝わったよ」
「よし、じゃあ今度こそ次に行こう」
父からの納得ももらえたところで隣に意識を移す。
先ほどは嫁姑仲良く話をしていたが、ちょうど落ち着いたのか目が合った。
「あら、どうしました?」
薄く微笑んで聞いてくる恋人の可愛いこと可愛いこと。
このまま膝枕でもしてもらいたくなる衝動が俺を襲う。
「いや、なんでもない。そろそろ次を話そう。再生魔法を頼む」
「ふふ、わかりました。私と盛護さんの出会いですよね?」
「ああ、転移から半年後の記憶だよ」
エストリアルのエステラという星に流れ着いた俺が、ラミシィス・エステリアという女性と出会った日。その日までの半年間に外見から中身まですっかり異世界に染まったのは言うまでもないだろう。
なにせ、俺ともう一人、別宇宙出身のシルベスは貴重な異世界の素体だったのだから。




