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同じものを一緒に食べたい

  この国の不思議なところは、貴族の、それも上の方に近いほど、犬の食べられないものを嫌うことだ。

  アルコールはさすがに幾らかは飲まれているらしいが、それもシードルが主流。ハーブもものが限られていて、玉ねぎすら使う料理が少ないことに、リーゼロッテはおったまげた。


  孤児院において、頂き物はすべて恵み。だから外に出て初めて知ったそういう風習に、リーゼロッテは目を白黒させるばかりだ。


「お父様とお母様は、葡萄好きなの?」

「好きでも嫌いでもない。偏見はないけど、食べ物として見ることができないって感じかな」

「へえー」


  クロヴィスはこの国では趣味が悪い上に悪食らしい。葡萄が好きならチューリップも水仙も好きで、一番好きな花は百合。

  特に花粉のあのべたべたになる感じがいいらしい。そこに関しては、洗濯の大変さを思い出して顔をしかめざるを得なかったが、玉ねぎもハーブもなんでも食べるクロヴィスは、リーゼロッテからすればいい料理の味見相手だった。


「ヴィー、今日はね、ハンバーグ!」

「おいしそう!」


  玉ねぎがたくさん入った庶民派ハンバーグを、クロヴィスは目をキラキラさせて見つめている。

いつもありがとう、リズ。そう言って、クロヴィスは食事前の祈りの代わりにリーゼロッテに感謝を述べる。

  侯爵家での晩餐が入らなくなるから、あくまでおやつのつもりで小さく丸めたそれを、クロヴィスは丁寧に、とても貴重なもののように食べる。


「おいしい?」

「うん!……リズ、リズのは?」

「もう食べちゃった」


  ちょいちょいと焦げが強いものを摘んだのでもう満足だ。久々の玉ねぎたっぷり料理は口に優しく、独特の甘みが今も口に残っている。

  見た目がいいものをクロヴィスにあげたかった。

  これでも前世がある分クロヴィスより年上だ。

  つまるところ、リーゼロッテはカッコつけたいのだ。


  ちらり、とクロヴィスが自分のハンバーグを見る。

  そしてリーゼロッテを見て言う。


「リズ、失敗したの食べた?」

「失敬な!ちょっと形が悪いだけで美味しいわよ!」

「やっぱり」


  失敗した、と思った。いや、ハンバーグがではなく、言動を。

  クロヴィスはぷくっと愛らしい顔を膨らませてぷんぷんしている。


「形が悪かったって焦げてたって、リズの作ったおやつは美味しいよ。僕もリズと同じものがいい。一緒に、隣に座って食べたい」


  じとっとリーゼロッテを見つめるクロヴィスは、相変わらずかわいい。

  だからリーゼロッテは、わかったわ、と軽く返事をした。

  が、その軽さに気づいたのだろう。

  クロヴィスがリーゼロッテの腕を引っ張って、とす、と自分の膝に座らせた。


  ーーは。

 クロヴィスにそんなに力はないはずだ。けれどリーゼロッテは踏ん張ることすらできなかったし、まるで流れるように椅子に座ってしまった。


「ちょ、ちょっと!ヴィー!」

「しょうがないじゃないか、リズが一緒のものを一緒に食べてくれないんだから」

「そ、そうじゃなくて……!」


  言いつつ、はっとリーゼロッテは今の体勢に気づく。

 これは、膝抱っこというやつで、横抱っこで、さらに言えば姫抱っこみたいなものでは?

  自覚するやぽぽん!とリーゼロッテの顔が赤く染まる。


  え。いや、そうじゃなくて、いや!でも……。

 どうしてこんなに恥ずかしいんだろう。お姉さんだから?そうじゃない。

 もっとこう、直球で恥ずかしかった。


「顔赤いね。リズも僕を意識してくれてる?」


  クロヴィスがにっこりとほほえむ。その笑顔はすこし、なんというか、いたずらというかその上位互換というか、怪しい?笑顔で。


「ば、ばかっ!」


  ぽかぽか!とリーゼロッテがクロヴィスの胸を叩く。相変わらずひょろっとした体なのに、意外と固くて、その、なんだろう。

  異様に恥ずかしかった。


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