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あなたが女王様になるのですよ

「リーゼロッテ先輩」

「ごきげんよう」


 リーゼロッテが、人混みを縫うように進み、抜けた先で声をかけてきたのは、そっくりな2人の少女だった。

 驚いて反応を見せぬリーゼロッテに対して、平凡な緑の目と白に近い銀髪の、しかし可愛らしい少女たちは、にっこり笑って綺麗な礼をとってみせた。


「私、クリスティーネ・ヒュントヘンです」

「私はアレクシア・ヒュントヘンです」

「クリスティーネ、アレクシア……」


 その名前に聞き覚えがあって、リーゼロッテは首をかしげる。

 くすくす笑うクリスティーネとアレクシアは、何が面白いのか、2人でぴったり寄り添いあって緑の目をリーゼロッテに向けた。


「ヒュントヘン家の娘です」

「ヴィルヘルム副会長の妹です」


 リーゼロッテは得心した。そういえば、お助けキャラでヴィルヘルムの妹がそういう名前だった。

 ゲームの絵とはだいぶん顔が違うが、現実とゲームは違うものだし、そういうものなのだろう。

 ただ、もう少し美少女だと思っていた。などと失礼なことをこっそり思う。

 けれど、やはりヴィルヘルムと顔立ちも似ていないし、つり目がちな目は少々気が強そうにすぎる。


「生徒会長と副会長が、リーゼロッテ先輩に御用なのですって」

「ティーゼ侯爵子息のことで、相談があるそうです」


 双子の姉妹はにこにこ笑う。可愛らしいが、少し怖い。

 ただ、クロヴィスのことだと聞いて、リーゼロッテは一も二もなく飛びついてしまった。


「ヴィーに何かあったの?」

「ええ、ええ。リーゼロッテ先輩、大切な、大切なことですわ」

「ティーゼ侯爵子息の命に関わることなのです」


 命に関わる。それを聞いて、リーゼロッテの背が震えた。

 ゲームの知識で補えないことがある。

 まばらなリーゼロッテの記憶では、クロヴィスを助けきれない。

 今はクロヴィスも平気だけれど、これから何が起こるかわからない。クロヴィスが死なない未来が欲しい。死ぬ可能性を少しでも潰しておきたい。

 もう、あんなーー王城で、クロヴィスに冤罪がかけられたような、あんなことを引き起こしたくない。

 そう思ってリーゼロッテは頷いた。


「行くわ。話を聞きます。連れて行ってください」


 リーゼロッテの言葉に、双子の姉妹は嬉しそうに笑った。


「こちらですわ」

「生徒会長と副会長がお待ちです」


 クリスティーネが先導し、アレクシアがリーゼロッテの手を取る。


 そうして、薔薇園を抜けるように、細い道を迷わず進んでいく。

 急くような早さだ。だが、そんなにも焦ることなのだろう。

 アルブレヒトと、ヴィルヘルムが呼ぶほどなのだから。


 ……ふと。そこで。

 リーゼロッテは、一つ、おかしなことに気がついた。どうして、この双子は。


「ヴィルヘルム、お兄様とは、よばないの」


 ゲームの中で、双子はヴィルヘルムをお兄様と呼んで心から慕っていたはずなのに。その呼び方は無機質で、不思議だった。

 そう、口にした瞬間、アレクシアの手に力が込められた。

 反射的に手を抜こうとしてもできないほどに強い力。リーゼロッテの頭に警鐘が鳴り響く。

 思えば不可思議なことだ。どうして、リーゼロッテの来る場所で待ち構えていたのだろう。

 顔も違う。それなのに名乗って。

 リーゼロッテと双子に面識がないことを知っていた。

 だから、だから。いいや、そんな場合ではない。早くこの手を振りほどかねば。

 この2人は、ヒュントヘン家の双子ではないから。


 ーー逃げなければ。早く。


 くるうりと、からくり人形みたいな動きでクリスティーネの姿をした別人が振り返る。アレクシアを名乗るものががきゅうっと目を細める。


「賢くて、可愛らしくて、愚かなリーゼロッテ様」

「気付かなければ、丁重にお迎えいたしましたものを」

「何を……」

「私たちのお姫様。リーゼロッテ・アインヴォルフ姫様」

「あなた様が、女王様になるのですよ」


 聞き返す前に、リーゼロッテの口元が濡れたハンカチで塞がれる。

 百合の匂いがする。それを知覚する前に、リーゼロッテの頭にもやがかかる。

 意識を繋ぎとめようとする意思ごと奪われていく。

 リーゼロッテは手を伸ばした。助けを求めようとしたのは、誰にだろうか。


 ーーごめんね、ヴィー。


 私は、いつだって君の足手まといにしかなれない。

 空が陰る。太陽が雲に覆われて、リーゼロッテの目に最後に見えたのは、白銀のかつらを投げ捨てた少女らの、燃えるような赤毛だった。





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