1-91 ベル・エド VS 魔人
◆前回のあらすじ
ゴーシュはリーナの目の前で何故か聖堂の神像を破壊
一方ベルと戦っていた冒険者は禍々しい魔人へと変貌し……
「エド、纏殻を……」
面食らっていたエドはベルの一言ですぐさま自身の身体に魔力を纏わせる。
変貌を開始した三人の体躯はそれまでより筋肉が隆起し、禍々しい角と不気味な体色をしたとても人族とは思えないものへと変貌している。
と、そんな様を見ていたエドの目前に黒色の鉤爪が迫る。
ガキィ
だがその鉤爪による一撃はエドの目前で何かに弾かれた。
アイリが施した加護による守護は、三人のうち一人、拳闘士が身につけていた手甲による奇襲を防いで見せた。
「ちょうど戦士同士ですね いい勉強になると思うのでそちらはお任せしますよ」
「なっ……!?」
まさに青天の霹靂のような告知だった。
だが以前にも彼女は言っていた。戦闘はいつどこで起きるか分からない、敵は待ってくれない、その緊張感こそが大切だと。
実戦訓練か……手厳しいな。……と思いつつ、こんな体たらくでよく冒険者を務める気でいたものだとこの期に及んでの自身の甘さを恥じる。
命をやり取りするんだ。奪うことがあれば奪われることもある。これから俺はそういう世界で生きていくんだ……エドは震える拳を強く握り、そこに纏う自身の魔力をより濃密に練っていった。
………
エドが戦士風の魔人と対峙する一方、ベルは二人の魔人の猛攻をいなしきっていた。
二刀の小剣使いによる魔刃入り混じった近接の攻めと、後衛の魔道士による絶え間ない攻撃魔法。
なるほど、確かに一行に比べれば一線画したモノになった立ち回りではある。が、ベルは飛躍的に向上した魔人たちの攻めを前にしても退屈していた。
(……魔人化してこの程度とは、高が知れますね)
一〇〇〇年前の戦争で相手取ってきた魔人たちの力に比べるのもおこがましく感じるほどこいつらはどうしようもない雑魚だ。
今の世の人族ではそもそもの地力が低いというのもそうだろうが、根本的に基礎の叩き上げがなっていない。ただ魔人化によって潜在能力を強制的に底上げしただけで、その力を引き出すことも思いのまま操ることもできていない。それで強くなった気でいる。目の前の相手との力量差すら分からずに闇雲につっかかってくるくらいに。
ともあれ、こんな雑魚と渡り合っていても時間の無駄だろう。応援でも呼んでもらって大事になってくれた方が話は早いかもしれない。
そう思うや否や、それまで丁寧に一撃一撃いなしていた小剣使いの攻撃をかいくぐり一瞬で後衛の魔道士に間合いを詰めると。
「ひっ」
パンッ
有無を言わさずにその身体を縦に両断し、凍らせた。
「……!」
「あなた一人で私を止められますか?」
さすがに分が悪いのを悟っただろう。小剣使いはじわじわと距離を取ると、大きく跳躍して屋根を飛び渡っていった。
「……チョロいですね~」
そんな様をベルは悠長に見送っている。
「ではエド、そちらは任せましたよ」
「…………」
睨み合う二人の緊張を余所にベルはそう告げると、気持ちゆったりと小剣使いの後を追った。
(任せましたよ って簡単に言ってくれるよなぁ……)
エドの内心は恐怖が膨らむ一方だった。
先ほどの一幕では恐らくアイリが施してくれた加護が守ってくれたのだろう、そしてその加護もまだ生きているという安心を抱きつつも、人間としてアルボスティアで暮らしてきた同胞と思っていた者が自分に明確に殺意を向けて攻撃してきた事実はまだ十代も半ばほどのエドの精神には重い出来事だった。
とはいえ、やるしかない。人間だと思っていたそれは人族ではなく、今は明確な敵だ。
相手の力量は計り知れないが、ベルがああ言ったということはどうしても敵いようのない相手ではないということだろう。……希望的観測ではあるが。
エドは全身に魔力を、特に拳に厚く固く纏う。身体を巡る魔力を掌握するのも忘れない。
逃げるな。出来る。やる。
と、力んだ瞬間相手がこちらに距離を詰め、大振りの拳が迫る。
(この一撃をどうする!? 受けるか? いや……!)
エドは相手が魔人化したことで生じた体格差を上手く利用し、自ら相手の間合いに詰めながら拳をいなす。纏殻の表面を滑らすように通過させた拳はそのまま地面に激突すると石畳を粉々に粉砕した。
(まともに喰らったらひとたまりもないな……)
と、分析しながらいなした勢いのまま相手の脇腹に後ろ回し蹴りを放つ。
「シッ!!」
ドゴッ
「ぐっ……!」
が、蹴りは相手に直撃こそしたが、鎧にヒビを入れただけで本体の方まで威力が貫通しなかった。
(脚の纏殻が甘かった ……あと魔力操作で勢いをつける それを使いこなす 課題が多い……!)
しかしその一撃は威力以上に相手に衝撃を与えた。
「……とても養成所の一生徒の動きとは思えねぇな」
相手は地面に突き刺さった手甲の爪を引き抜くと、エドの蹴りが直撃した箇所をさする。
「お前は確か今年の首席パーティーの戦士だったな」
「……それが?」
「名を聞こうか」
相手は構えてこそいれど、すぐにでも打ち込もうという勢いはない。
「エドだ」
「エド……か 知ってはいるだろうが、俺はCランク冒険者バモスだ」
「……知ってる 憧れてた冒険者だからな」
そう、エドと近しい戦闘スタイルを持つバモスはアルボスティアにおけるエドの冒険者としての目標でもあった。
危険な戦闘において、臆することなく身体を張って前線で拳を振るうその勇ましいあり方はエドが展望する強さを体言している。戦士が性分に合うエドが戦士として歩む道の先にいるのがバモスだった。
「憧れてた、か ……もの寂しいな、若い芽を摘むような役を負うのは ……だが」
バモスは今度こそ確実に命を叩き潰す一撃を振うべく殺気をエドに一点に注ぐ。
「俺たちの計画を邪魔する者は潰す」
言うや否や、先より増したスピードで迫るバモスの強烈な蹴りがエドの胴へ炸裂した。
今日は残業で疲れたので明日はお休みします。




