1-87 アルボスティア 奪還戦2
◆前回のあらすじ
教官室から突如姿を消したカイルたちにゴーシュは動き出す……
「馬鹿は嫌いですよ なまじ知能が高い分獣より扱いにくい」
ベルの辛辣な言葉に心はさらに燃え上がるが、起き上がろうにもその華奢に見える腕を優しく添えられているような格好でいながら今カイルの身体には尋常ではない圧力がかけられている。
「ウルハと……リーナが……! 俺たちの大事な仲間なんだ……!」
「知っています」
「それが牢獄に入れられて……俺が歯向かったから……何されるか」
「だから、大丈夫だと言っているんです」
が、そんな昂ぶって仕方のないカイルを余所に、ベルは淡々と告げる。
「あの場であなたに暴れられては相手の手の内を探れないでしょう」
「だから、その事が起こったらウルハたちの命が危ないって言ってるんだろうが!!」
カイルの剣に纏った炎はカイルの身体をも飲み込もうかというくらいに燃え盛るが……
「…………あぁ そういうことですか」
ベルは何か思いついたように目を見開くと、そんなカイルの燃え盛る剣に事も無げに触れ
パキッ
カイルの腕ごと一瞬で凍らせ、そのまま地面に固定してしまった。
「私があの場からあなたたちを助け出したとでも勘違いしているんですか」
「……どういうことだ?」
ベルは地面に固定され這い蹲るカイルを余所に立ち上がると、その場にいた二人にとって衝撃の告白をした。
「私があの場からあなたたちを連れ出したのは、泳がす前にゴーシュを殺されては困ると思ったからですよ」
………
「カイル……やっちゃったかぁ まぁそうだよねぇ」
ベルがついて見守ってくれているので万が一はないと思っていたが……にしてもまさかあそこまで短気だとは。
「向こうは貴重な情報源だし、今死なれても困る でも警戒しただろうなぁ これを機にテキパキ進めようとしてくれればいいけど」
そんなアイリはと言うと、今まさにアルボスティアのちょうど中心にそびえる時刻塔の上に立っていた。もちろんそのような目立つ場所に立つ上で、認知妨害の魔法を展開することは忘れない。
次はどうなる?どこに誰が動く?
この街を観察してみてよく分かった。円形に街を囲う柵、その東西南北に点在する要所――養成所、自由組合、役場、大聖堂……そしてそれらを結んだ中心にあるこの塔、そんな街の地下を巡る下水施設の形状。大方何がしたいかは既に見当がついている。あとは誰がどのように手をつけるか。
私はとりあえず、牢獄の方に向かうかな。
………
アルボスティア冒険者養成所に隣接する牢獄、ウルハとリーナが囚われるままになっている薄暗い牢獄に一人分の重い足音が近付く。
「……ゴーシュ教官」
二人の前にやってきたゴーシュは最早教え子に向けるものではない、籠に捕われた羽虫を見るかのような冷たい目つきで二人を見据える。
「しばらくここに閉じ込めておけばいいと思っていたが……事情が変わった」
ゴーシュは言いながら無造作に牢獄の扉を蹴破ると、リーナにかけられた手錠はそのままつながれた鎖だけを踏み折った。
「教官……?」
と、成り行きを傍で見守るウルハを
ドゴッ!!
「教官!?」
子どもの頭ほどはあろうかという拳で思いっきり殴りつけた。
衝撃で吹き飛んだウルハはそのまま牢獄の石壁に頭を強打し、力なく崩れ落ちた。
「……お前は後で拷問だ」
「ウルハ!? ウルハ!」
「お前はこっちだ! 付いて来い!」
「教官!? 何でですか!? ウルハ! ウルハぁ!!」
リーナは泣き叫びながらウルハの安否を問うが、最後まで返事がないまま牢獄を木霊するリーナの絶叫は遠ざかっていった。
次回分は明日更新予定です。




