1-86 アルボスティア 奪還戦1
◆前回のあらすじ
思わずゴーシュに剣を向けてしまったカイルだが、ベルの機転によりその場を脱出し……
「この後どうすればいいんだ」
エドがベルに問いかける。
「どうもこうも、啖呵切ったんですから、やることは決まっているでしょう」
ベルは二人に鎮撫を施し、逸る気持ちを宥める。
「アルボスティアを奪還するんですよ」
………
土煙が収まったアルボスティア冒険者養成所教官室は騒然としていた。
カイルの持つ剣が火を噴いたかと思えば、足元を破壊して二人は跡形もなく消えてしまった。
「今のは……魔法剣か?」
「まさか、一介の生徒如きが使えるか……?」
カイルと言えば生徒たちの中では腕が立つ方ではあったが、所詮はガキの戯れ程度の話だ。剣の腕は三流もいいところだし、魔法剣どころか碌な魔力操作すら行えないような者だった。
それが暴発させて自滅するような杜撰さとはいえ、魔法剣を使用するとなれば只事ではない。
否、その中でもゴーシュだけは二人が本当に自滅してしまったのか懐疑的ではあった。
あの土煙が立っている間視界は悪かったが、だとしてもこの場にいる誰に気取られることもなく姿を消すというのは現実的ではない。だが奴が魔法剣を使用しようとしたことが既に現実的ではない。
もし暴発させたフリをしてどこかに逃げたとすれば?
先の魔法剣はとても実戦に適うような精度のものではなかったが、カイルの魔法剣にしろウルハの飛行魔法にしろ、教えてもいないものを使えるようになっている。遠征中に何者か力を持つ者と接触し、力を得た可能性が高い。これは想定していなかった事態だ。
所詮ガキと放置していては、いずれ何らかの力をつけて我々の脅威となるかもしれない。
「お前たち、今すぐカイルとエドを探せ」
予定より少し早いが、こうなってしまえば最早誰かの邪魔が入る前に作戦を遂行してしまわなければならない。
まさかあのガキ共がこんな形で俺たちの計画を邪魔することになるとはな……
ゴーシュは最早教官としてではないが、カイルたちの成長に感慨に耽ることになった。
人間だった時以来だな、この心躍る緊張感は。
ゴーシュは作戦の障害となり得る存在が現れたにも関わらず、内心浮き足立ったような気分で牢獄へと向かった。
………
「奪還…!?」
ベルの言にカイルは思わず首を傾げた。
「誰から奪還しようってんだよ……」
「あなたたち人族が、この街を牛耳る魔人たちからですよ」
ベルは淡々と告げた。
「今のあなたたちが気付かなかったはずがないでしょう 養成所の職員たちのこと 養成所だけではありません この街の自由組合、役場……そしてアルボスティア聖堂」
ただの人族では乗り越えられないような柵で囲って、その東西南北にそれぞれ魔人が牛耳る施設がある。まるで畜舎を見張る櫓のように。
もちろん、養成所の教官たちが尋常の者ではないことは直に接触したカイル達自身はよくわかっていた。だが、今の自分たちにあれを相手取るほどの力はない。
そしてそんな中でどうしても気がかりなことがある。
「ウルハとリーナは……」
「あの二人は今は放っておいて大丈夫ですよ」
が、そんなカイルの懸念をベルは飄々と流してしまう。
「大丈夫なわけないだろ!!!」
途端、カイルはまたも自身の感情に飲まれ、その剣に魔力を纏わせベルに斬りかかる。
が、
「ぎっ……!!」
ベルは熱を持って全力で振るわれた剣を軽々素手で受け止めると、瞬く間にカイルの腕を取り、その固い地面に背中から叩き付けた。
「全く……こんな馬鹿なガキが筆頭パーティーの剣士だなんて、笑えますね」
と、全く笑っていない氷のように冷めた表情でベルはカイルを見下ろした。
次回分は明日更新予定です。




