1-85 アルボスティア 状況開始
◆前回のあらすじ
カイルとエドはウルハとリーナの投獄に異議を唱えにゴーシュの下へ……
「……納得できねぇ」
カイルは内心震えていた。
自分では絶対に敵いようのないと思っていた教官相手に切先を向けること。
自分の怒りを飼い殺せていないとはこのことだろう。そのこと自体自分で恐ろしいが、剣を抜いてしまった以上今はそれは後回しだ。
ゴーシュは脇に立てかけた剣に手を伸ばしていない。だがきっとこの教官は剣を抜くことすらなくこちらをねじ伏せるだけの力を持っている。どう転んでもきっと勝ち目はない。
それでもカイルはこの教官に相対する以外に自分の道を見出せなかった。
一緒に歩んできた、苦楽を共にした仲間が謂れの無い疑いを向けられ投獄されている。納得できるわけがない。
一方のゴーシュはただその大柄な体躯をいからせるようにカイルを見下ろすだけだ。
その目は剣を向けるカイルを見ているが、敵を見る目ではない。物知らぬ子どもが駄々をこねているのを呆れ見ているようにエドの目には映っていた。
だが当事者三人を除いた教官室の他の面々には緊張が走っていた。
仮にも首席パーティー、それも遠征中にホブゴブリンを屠るという異例の成果を上げた者の一人だ。所詮は子ども、雑魚は雑魚と侮っていいものかと悩みあぐねていた。
「カイル……剣を収めろ」
今ならまだ引いて穏便に済ませる余地がある。そう思ったエドはカイルを諫めにかかる。
「……試練を経て少しは大人になったかと思ったが、お前はまだまだ青いな」
ゴーシュはそのまま自身の剣には手をかけず、自分に向けられたカイルの剣を素手で掴んだ。
「ん?」
が、次の瞬間、カイルの剣は赤く輝き熱を持ち始め
ボゥ!!!!
ゴーシュの手を振り払うと、激しく火を吹いて地面を焼き砕いた。
そして激しい土煙が教官室を舞い、その場に居た全員の視界を奪った。
………
「……あ!?」
構えていた剣が突然赤く光輝いてひとりでに動いたかと思えば、次の瞬間には教官室とは全く別のどこか裏路地に居た。
「全く、青いですね あの教官の言う通り」
と、ここがアルボスティアの内側ではあるが養成所とは遠く離れた郊外部の路地裏であると気付く傍ら、それまで一緒にいたエドと、あの場にいなかったはずのベルが一緒にいることに気付いた。
「とはいえ、教官相手に剣を構える気概は評価しますよ」
彼女は呆れたように腕を組みながら、そのメイドを思わす装束に似合わず雑な佇まいで路地裏の壁に寄りかかった。
「あんたが何かしたのか……」
「あの場で私が何かしなかったら、どうなったと思いますか?」
彼女はこちらを見ることもなく問い返す。
「そもそもあなたが剣を抜かなければ大事にせずに済みました あなたが剣を抜いたから、あの教官はその折れない剣を折ろうとした」
そういえば今この鉄の剣には森での魔物掃討の訓練に耐えるため、アイリが壊れないように魔法を付与してくれていたのを思い出す。
「あなたの剣が折れないことを気取られると、後ろについている私たちの存在が気取られる そうなれば奴らが何らかの強硬手段に打って出るかもしれない それはまだ好ましくない」
言いながら彼女が俺の剣に手をかざすと、持ち主の意に反して火炎を纏い赤白く発光した。
「なので、一旦魔法剣が暴発して消し飛んだ風を装わせてもらいました」
次回分は明日更新予定です。




