1-84 アルボスティア 投獄2
◆前回のあらすじ
ウルハとリーナが投獄されたと聞いてカイルとエドは教官のもとへ
「……」
ウルハは自分が空中浮遊を使える訳を話せないでいた。
禁書中の禁書とされている『指南書』のことを言うわけにはいかない。
だが、だとすれば習ってもいない、しかも伝説上の魔法とすら教わってきた飛行魔法を養成所の一生徒である自分が使えるのはおかしい。教官たちが疑念を抱くのも当然だ。
「……言う気はない、か」
「あの時、お前たちが話していた相手は誰だ」
ゴーシュが深くため息をつくと、代わりに他の教官がウルハに詰め寄る。
「それは……」
言っていいものだろうか。
あのお二方なら教官たちに存在を知られたところでさして困ることもないかもしれない。だがお二方はここにいる教官方と思想を分かつ。
それに、ここに居る教官の方々全員が恐らくお二方が言う“魔族”だ。
今だからこそ分かる、隠す気もないだろうその殺気は人族のそれとは程遠い。
「……」
「今この街には異変が起きている お前たちが事に絡んでいるのかどうかは分からないが、現状ではお前たちには疑わしい点が多すぎる」
ゴーシュはギロリと二人を睨む。
「牢獄に入れておけ」
………
「で、こんなところに入れられたのね~」
ウルハとリーナが何やら邪悪な魔力に囲まれた後奥まった場所に連れて行かれた様子を感知したので、私が直々に様子を観に来て事の顛末を聞いたところだ。
牢獄の入り口には門番が居たが、中には今私とウルハとリーナの三人だけだ。牢獄という割に障壁や結界の類は仕組まれておらず――まぁ仕組まれていようと私の障害とはなり得ないのだが――潜入は容易だった。
ありきたりな石造りの牢獄に鎖で繋がれた二人を前にすると、不憫な上に嘆かわしい。こんな幼い少女二人を鎖で繋ぐなんて正気の沙汰じゃない。
が、恐らく彼女らがかけられている嫌疑は本来こちらに向くべきものなのだろう。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「どうする? 出る?」
問うが、二人は首を横に振る。
「今抜け出したら怪しまれます しばらくここで大人しくしてようと思います」
答えたリーナは置かれた境遇とは対称的に堂々と言う。
「そっか……怖い思いさせるけど ごめんね」
だが二人はまたも首を横に振った。
「今私たちはアイリ様に守られていますから」
「こんなに心強いお守りはありませんよ」
二人は気丈だった。
「それに、杖がなくても今の私たちならこれくらいの鎖、簡単に切れますよ」
「ふふ 頼もしくなったね」
「私たちはここで気を引いています だから、お二人は私たちのことを気にせず、お二人がすることをしてください」
口ではそう言うが、二人の魔力には波立ちがある。気丈に振舞ってはいるが相当な恐怖を感じているだろう。
「ちゃんと守ってあげるから、しばらく少し待っててね」
口にしてもしなくても加護に変わりはないが、そう言い聞かせることで少しでも彼女らの不安を取り除けるだろうか。
私が牢獄を抜け出すときも、二人は笑顔で見送ってくれた。
………
「教官! リーナとウルハをどうするつもりですか!?」
教官室に居るゴーシュの元へと直談判にやってきたカイルとエドに、ゴーシュは怪訝な視線を向ける。
「何でお前たちがそのことを知っている?」
「二人が何をしたって言うんですか!!」
が、ゴーシュの問いを差し置いてカイルは詰め寄る。
エドはそんなカイルの肩を掴んで制止するが、その目はゴーシュを睨みつけている。
「……カイル そんなに敵意を剥き出しにして、お前誰に物を言っているか分かっているのか」
ゴーシュはゆっくりと立ち上がると二人を睨みつける。
その熊のように大柄な体躯はそうして対峙するだけで二人に恐怖心を抱かせた。
だが、今はそんな恐怖に立ち竦んでいる場合じゃない。
カイルは腰に下げた剣を抜くと、その切先をゴーシュに向けた。
次回分は週明け月曜0時頃更新予定です。




