1-81 アルボスティア 冒険者畜舎
◆前回のあらすじ
アイリとベルは招集命令により護衛の同行任務につくことに
「半刻後に南門前に集合だ それまでに装備を整えておくといい」
ゴーシュはそれだけ言うと、さっさと自由組合を去って行った。
「良かったですね、早速招集依頼請けられて」
一連のやり取りを傍で見ていた受付嬢は我が事のように喜んでいる。
「何が良いことがありますか」
ベルはそんな様子に苦言を呈す。
「招集依頼は報酬が弾むんですよ! それと、昇級査定にも大きく影響しますから 頑張ってくださいね!」
………
「って、そんなことで今頑張ってられないよねぇ」
約束の半刻過ぎ、私とベルは見晴らしの良い家屋の屋根に座ってアルボスティアの街並みを眺めていた。
招集依頼の護衛同行には二人分の霊体分身を送っておいた。本当に護衛が目的なのであれば、私たちが自ずと出向くほどの脅威と出くわすことはないだろう。本当ならば霊体分身でももったいない、霊獣召喚くらいでいいようなものだが、それでは相手方も納得しないだろう。
それにこの招集依頼は私たち二人をアルボスティアの外に一時的に追い出すという意図もきっと含んでいる。であれば、それに乗った体を取っておけば相手も油断し綻びを見せるかもしれない。
ちなみに護衛には私たち以外の数名も着いていくようだが、遣わせた分身を何ら疑うこともなく今しがた出発したところだ。
「これで上手く邪魔を払えたとでも思ったんでしょうかね、あの魔人は」
「どうだろうね そんな間抜けが仕切ってるなら拍子抜けだけど……まぁ楽に済めばいいけどね」
………
「例の二人はちゃんと任務に合流したようだ」
南門で張っていた諜報員が、自由組合の一室で待つゴーシュたち首脳陣に顛末を報告する。
この街に起きた異変と突然現れた強者二人に因果関係があるかはまだハッキリとはしていない。
だがあの二人、実戦では体術を主に使用していたとのことだが、あの小柄な風貌で隙がなく余裕を持った佇まいは凡人のそれとはかけ離れている。よほど武術に覚えがあるか、あるいは魔法が扱えるなどそれ以外の奥の手があるのか……
とはいえ、どんな強者であってもこの場に居ないのではどうしようもないだろう。
無事に厄介払いができたので、もう一つの懸念について考える。
「今年の首席パーティーが一番乗りで生還したらしいな」
詳細な時期までは定かではないが、今年は彼の魔王が復活する年と言い伝えられている。それに相対する下地作りも大詰めだ。
今年は資源確保のため養成所の卒業試練も例年の比ではない難易度で課した。首席パーティーもクレスト山脈の麓の森で順当に命を落とすはずだった。それが思いがけずホブゴブリンを討ち取った上生還するという偉業を達成してしまった。
「まぁ結果オーライじゃないか パーティーでとはいえホブゴブリンを屠れるほどの素体が手に入ったと考えれば」
「仕留めるのに苦労しないか?」
「いや、俺が直々に報告を受けたが、そこまで化けたような印象じゃなかった 報告書にも“奇襲が成功して”と書いてあったしな」
「全く……運のいい奴らだ」
ゴーシュは自分が見てきた少年少女が偉業を成したことに、最早何の感慨も湧くことはない。
自分が育てたというのもおこがましいほどに、ただ温く縛ってきただけの家畜たちだ。いずれ獲って食うそれらに愛着を抱かないように、そしてそれを気取られないようにということだけを念頭に教官として長年働いてきた。
だがそれも今年で終わりだ。
「これからは我々の野望のための礎として、身を粉にして働いてもらうとしよう」
自由組合の一室に、黒い笑い声が木霊した。
次回分は明日更新予定です。




