1-74 アルボスティア 冒険者自由組合1
◆前回のあらすじ
アルボスティアの養成所には案の定精神攪乱魔法が仕込まれていたので、蟲を召喚して喰わせることに。
蟲たちは次々に術式を喰らい、間もなく建物を黒々と覆い尽くした。闇属性の魔法ではないが、見てくれのおぞましさは魔物のそれとも匹敵する。
そんな光景を目にした一行はその気味の悪さに顔を青ざめさせている。
「よし、味を覚えたね この街を喰らい尽くしておいで」
養成所の術式は喰い尽くしたが、まだこの街の至るところに同じような精神攪乱魔法が仕込まれているかもしれない。残しておいていいことは一つもないので、街中一斉清掃だ。……一見すると清掃などとは程遠い光景だが。
蟲たちは私の号令に応じ、街へと散っていった。
「じゃ、私は一先ず用事済んだから、自由組合の方に行ってくるよ」
「はい ここまでありがとうございました」
一行とは一旦ここでお別れだが、彼らには鎧を授けた。攪乱も散らした。とりあえずはこれで持つだろう。私は私の用事に移るとする。
「あ、皆 それから、養成所の中ではあんまり積極的に感知を展開しないように」
「……? 分かりました」
腑に落ちない様子ではあるが、一行は忠告に頷くのだった。
………
(ベル ちょっと来られる?)
ベルと繋いだ魔力に意思を流すと
「お呼びですか」
すぐさま隣にベルが降り立った。
今私たちはアルボスティア東区にある養成所から中央区にある自由組合に向かう道中、商店街の裏に入った路地に立っている。
「養成所は黒だったよ」
「さっき見ましたよ 凄まじい勢いで蟲が走ってました 本当に、衰えというものを知りませんね……さておき、この街はひどいです どこに行っても攪乱だらけですよ」
「指向性は?」
「何種か 鎖国的な政情に煽りをかけているのかと」
やはりこの国の、或いはそれより上の何者かは人族の独立した国家として他種族に対する排他的な思考を煽りたいのだろう。
弱い種族……いや、自分の弱さすら知らない井の中の蛙を。だがだとすれば、そんな弱い蛙大勢を疑心暗鬼にして、大事に一国に囲う意味は?他種族に対抗する戦力を養えているわけでもない。何のためにここに人族を留めているのか。
「それから国土全体に仕込まれた魔法陣ですが、柵沿いに恐らく対物理結界、対霊体結界、街中のいたるところにあるのは、全貌までは見て回れませんでしたが恐らく召喚と……」
「……“生贄召喚”かな」
ベルは無言で頷く。
「ここは畜舎のようですね」
「知らすべきではないね、ここの人々に」
とはいえ、そう目論む何者かを叩きこの国の人々を解放した上で、深く根付いているだろう他種族の嫌悪を取り除くところまでやってしまわなければならない。
骨が折れるとは思ったが、筋肉痛にもなりそうだ……。
「それはそうと、私自由組合で冒険者証作ろうと思って……」
言うとベルは怪訝な顔をする。
「必要でしょうか?」
「あれば便利かなって 今後偽装し続けるより、最初に偽装して冒険者証を取っておけば楽にならない?」
「ふむ……まぁアイリがそう言うなら」
ベルは一息つきながら、特に懸念もしていないだろう間で頷いた。
………
「冒険者証の新規発行……新規の冒険者登録ということでよろしいですか?」
登録窓口に並ぶ私たちに向かい合った自由組合の受付嬢はこちらを一瞥し、手元の書類に目を通す。
自由組合と言うだけあって国全体の厳重――と市民は思っているのだろう――な柵とは対称的に奔放な様子で、余所者である私たちも難なく潜入することができた。
カウンターに並べられた書類の中から冒険者登録の様式に適当な情報を記入し、今しがたそれを提出したところだ。
「書類の方確認させていただきますので、少々お待ちください」
そう言って受付嬢は、記入した文字列に催眠魔法が紛れ込んでいるとは気付く由もなくしっかりと読み込んでいくのだった。
次回分は明日更新予定です。




