1-73 アルボスティア 冒険者養成所1
◆前回のあらすじ
アルボスティアの地下に魔物の気配を感じ、一行にお守りを授けることに
「皆はこれから養成所に行くんだよね?」
一応この突拍子もない旅は一行にとっては卒業試験のようなものだということなので、無事帰還したことを戦利品(偽装)と併せて報告するのに立ち寄らなければいけないだろう。
「アイリ様はこれからどうされるんですか?」
「ん~……とりあえずちょろっと養成所の様子だけは覗いておきたいかな」
取り急ぎはアルボスティア全体を俯瞰して観ておきたいところだが、リスリアの寄宿舎のようにここの養成所にも精神攪乱系の魔法が仕込まれているのであれば取り急ぎはそれを何とかしておきたい。
「アイリさんはずっと姿消してるのか?」
ふとカイルが訊ねる。
「まぁ必要であればそのつもりではあるけど」
一行は苦笑する。
「アイリ様にとってはその程度、手間とすら感じないんでしょうね」
「そうだねぇ……」
息を止めて過ごす訳でもないし。まぁ私は止めてもあまり問題はないんだけど。
「冒険者証取ればいいんじゃないか?」
カイルはそんな提案をした。
「ここでも堂々と歩けるし、もし外に出るときもあれば便利だろうし」
珍しくこちらを気遣ってくれているようだ。
彼も彼とて一概なところはあるが、真人間ではあるのだ。それはそうか。心に炎を燻らせているとはいえ、彼もまだ純真な子どもだ。
「簡単に取れるの? それは 市民証とかもないのに」
「冒険者証は“自由組合”共通の国家からは独立した標識なので、必要な能力を満たしていれば基本的に誰でも……アルボスティアには居ませんが、|他国では亜人や獣人の冒険者も居ると聞きますし」
「ただ、ステータスは見られると思うので、できるならほどほどに偽装した方がいいかもしれません お名前とか、種族とか……」
「ふむぅ……」
その気になれば偽装は都度いくらでもできるだろうが、確かに堂々と歩ける標識があれば今後の旅での手間は省けるかもしれない。
「あと、ギルドに所属していれば、お金や資材を手に入れやすいと思います ……真っ当な手段で」
「じゃあ、後で取りに行こうかなぁ」
人族を知るためには、そこに寄り添うのが一番手っ取り早い。
まぁあと、面白そうだし。
………
養成所の施設は、どこもいい具合に設えられたアルボスティアの木造建築の中でも頭一つ抜けた精巧な造りをしていた。
見覚えがある風貌。予想通り学校とかいうやつと似た様な施設のようだ。
「あるなぁ……変なのが」
案の定、養成所にはリスリアの寄宿舎と同様の精神攪乱魔法が所狭しと仕込まれている。
「私たち、こんな中に居たんですねぇ……」
ウルハはしみじみと言う。
今や一行にはその不自然な魔力の淀みも見えていることだろう。作りの良さがその不自然な靄を却って目立たせている。
しかし、舐められたものだ。このような分かりやすい仕込みを半端な隠匿様式で隠せた気になっていること……並みの冒険者でも気付きそうなレベルだが、リーナはアルボスティアには人族の冒険者しか居ないと言った。それが何らかの意思や権力によってそうなるよう統制されているとすれば……。
「“隠式・術喰蟲”」
地に展開した魔法陣から無数の魔力蟲を生成する。知覚されず、術式を喰らい増殖する擬似召喚だ。
蟲はウゾウゾと養成所の施設を覆っていくと……
「うげぇ……」
その壁面に仕込まれた術式を喰らい、次々と増殖していく。今にも黒々と気色の悪い蟲たちがその壁面を覆い尽くそうかという勢いでおぞましく増殖していく蟲たちの姿は人々の目には映らない。
「アイリ様が敵じゃなくて良かったなって……心底そう思います」
後ろの一行は、下手に精神攪乱魔法の煽りを受けるよりもよっぽどその光景に気分を害したようだ。
次回分は明日更新予定です。
◆更新情報
明日30日は『十畳 いわく 鈴の音(小説版)』と『ふれたいもの(小説版)』も同時更新となります。
GW中更新頑張っていくので、お読み頂ければ嬉しいです!




