1-66 ティラノの森 野営2
◆前回のあらすじ
野営拠点について考える一行
「もういけるぞ」
「おっけー、じゃあせーので行くから……」
一行は杖を掲げるウルハの肩にそれぞれ手を添え、自身の魔力をウルハの魔力と同調させている。
「“建造”!」
カイル、エド、リーナから添えられた魔力とウルハ自身の魔力を杖に載せ、四人を中心に直径十メートルほどの魔法陣が展開する。魔法陣が四人の魔力を必要分吸い上げると、周辺の木々が裁断され、土や苔を纏いながら十帖ほどの簡素な小屋が建造された。
「えぇ~…… できちゃったじゃん」
冒険者向けの小規模野営小屋建造用に様式を整えた“建造”は見事に発動し、一行の今夜の宿が完成した。
一行は自分たちの力を合わせて建造した野営小屋を感激しながら見入っている。
「ゴブリンのコロニーのときとは造り方が違うんですね?」
リーナが問う。
「仮設の小屋だからね 永く使うものであれば基礎からちゃんと組むんだけど 一晩だけ使うものだから、すぐに土に還るように簡素にね」
「なるほど……」
「簡易小屋の結界魔法についても同じ頁に書いてあるでしょ?」
「えーっと…… 『小規模野営仮設拠点用 簡易結界魔法』結界には秘匿結界を用いる 仮設の結界なので常駐型結界のように核と領域は定めず、小屋を中心に周辺空間に不定形で展開する ……で、大丈夫なんですか?」
「一晩程度ならね それは規模を抑える代わりに魔力遮断と秘匿効果を強く補正するように組まれた様式だから、大抵の生き物に対して正しく作用するよ 魔物も含めてね」
「はぇ~……」
「結界の魔力はどうなるんですか?」
「自然魔力で自動補填されるように様式に組み込んであるよ」
「なるほど……」
核を用いない結界魔法では通常展開中は絶えず術者の魔力を結界が吸い続けるが、そもそも寝て魔力を回復させようというのに魔力を消費し続けていては意味がない。
「何でもできるな」
エドは感嘆の声を漏らす。
「できないことをどうできるようにするか考えるのは楽しいよ」
「ただし、何でもできると思って万能感に酔わないようにしてくださいね」
ベルはきちんと釘を刺す。
まぁ大抵そのような浅はかな輩は早々に壁にぶち当たって心が折れる。力を過信すればいずれ力に溺れ身を滅ぼす。一行がそうなるならそれまでだ。
「じゃあ、朝獲った肉で夕飯にしようか」
と、食事を意気込むと一行はやっとこさ肩を撫で下ろすのだった。
………
月が天辺に昇る頃、森は暗闇に包まれていた。
気持ち豪勢な夕食を摂った一行は野営小屋を設えた時と同じように無事秘匿結界を展開させ、『指南書』に載っている『野営にオススメの魔法目録』を試したがるウルハの実験台になり、今は気持ちが高ぶって寝付けない様子のウルハを除いて眠りに就いている。
「せっかく眠れる拠点を作ったんだから、ちゃんと寝なきゃダメだよ」
「う~ん……」
気が逸り寝付けないと言っても、つい先ほどまで魔物の掃討に躍起になっていただけあって、身体に疲労が蓄積している様子だ。目が半分開いていない。
「……私、アイリ様と出会ったとき、終わったなって思いました 私の人生」
「大袈裟でしょ」
そんな魔王とかじゃないんだから。
「でも、アイリ様に会えて良かったです……色々教えてもらえて もっといっぱい教えてもらって、大魔導師になって、国を豊かにしたいんです……」
ウルハはないものを強請るような目つきでこちらを見る。
「アイリ様は、いつまで私たちと一緒に旅してくれるんですか……?」
「とりあえずアルボスティアまでは付いていこうと思ってるよ」
そこから先はアルボスティアの様子次第だ。
「アイリ様にもっと色んなこと教えてもらいたいです……」
ウルハは縋るように私のローブの裾を摘んだ。
「私は何でもは知らないから、私の中に何もかもを求められてもそれは教えられないよ」
「それはそうかもしれないですけど……」
「私はウルハが自分で色んなことを学び知るための土台作りを手伝ってるだけ」
あとは自分の力で知見を広げていく。
世界は魔素と魔力で美しく構築されている。知ろうと覗けば知ることができる。知ってどうするか、何をどうしてどんな成果を生むか、それを考えて前に進むのが魔導師の本分だ。
ウルハはこの短い旅の中で、そんな魔導師の最たる原動力である探究心に火を灯せたようだ。
この子が望むように色々な魔法を見出し国を豊かにし、人々を救う大魔導師になることを祈ろう。
次回分は明日更新予定です。




