1-60 ティラノの森 掃討訓練6
◆前回のあらすじ
エドの戦闘スタイルを確立したが……
「じゃ、カイルもエドも目処がついたところだし、二人も実戦いってみようか」
先ほど同様、付近にいた魔物二匹を引き寄せる。
魔物の反応が近付くとカイルとエドは構えを取り、それぞれ剣と拳に魔力を集中させる。
「……来た!」
吸い込まれるような不気味な漆黒の体躯が二匹、木々の合間をすり抜けてこちらに押し寄せると……
「オラァ!」
「……シッ!」
カイルは剣を発火させ燃え盛る刃で魔物を一刀両断し、エドは土で膝から下にブーツ状の鎧を形成すると、魔力を纏わせて魔物の頭部と思しき部分に渾身の飛び蹴りをお見舞いした。
それぞれの一撃は的確に魔物の身体にダメージを与え、二匹とも成す術もなくその邪悪な魔力を散らして消えていった。
「おぉ……」
「……」
二人は新しい技を見出したこと、そして自身の手で魔物を討伐できたことに感動しているのかその感触を噛み締めているようだ。
「チョロい…… とでも思っているのかもしれませんが、油断していてはやられますよ 弁えて励むようにしてください」
ベルの辛言が図星だったのか、二人とも一瞬ビクリとした後目を泳がせていた。
「まぁね、魔物にやられちゃうと蘇生するのがちょっと難しいからね」
「そうなんですか!?」
「はぁ!? 先に言っておいてくれよ!」
「だって言ったら皆萎縮しちゃって却って戦闘が覚束なくなるかもしれないし」
それに難しいと言ってもちょっとだけだ。あの程度の有象無象なら比較的簡単に祓えるので現状問題はない。
「じゃ、最後はウルハだね」
「はい!」
待ちわびてましたと言わんばかりにウルハは身を乗り出す。
「魔道師はオールマイティーであることを求められるから、あらゆる状況に適切に対処する術を持つべきなんだけど……魔物の掃討では基本的には現象属性の魔法が効果的かな」
「現象属性……炎と雷と光と闇ですか」
「そうそう」
属性により顕現する作用は違うが、その中でもより魔法的な効果の強い現象属性とより物理的な干渉が主の物理属性の二種に大きく分けられる。
ウルハはこれまでの戦闘訓練を見る限りでは現象属性の炸裂系魔法を得意としていたようだった。魔物の掃討に用いる術は既に持っているようなものなので、あとはその使い道だ。
「何度も言ってるけど、魔物は魔力で身体を成しているから魔力をぶつければいい ……とはいえ、魔物の身体は薄っぺらいナリではあるけどそれを乱せるだけの魔法じゃないと当然通用しないから」
実際、魔物が発生した当初は魔法体系が洗練されていなかったがために魔法による攻撃がことごとく通用せず、多くの命が魔物によって奪われてしまった。
だがそれは当然といえば当然だ。現象の発現程度が主であった魔法を攻撃用途に転用するのにまだ知識も技能も足りない者だらけだった当時は凝縮や発散、指向性添加などにより魔法効能が飛躍的に向上させる術もほとんど開発されていなかったのだから。
「大きく薄くではなく、小さく鋭く ですよね」
「そういうこと」
ウルハもこの数日で色々な事象を観察する内にしっかりと真に迫る学習ができているようだ。……まぁ学んだことと、実際にそれを思い通りに使えるかというのは別の話だが。
「森の中だと雷属性が使い勝手がいいかもしれないね」
「……やってみます」
さぁ実戦訓練最後の一匹だ。これまで通り、野良の魔物をおびき寄せる。
魔物がウルハの感知域に侵入すると、ウルハはそれまで掲げて使っていた杖の先端を魔物の来る方角に向けて地面と水平に構え、杖を中心に二つの魔法陣を展開させた。
漆黒の体躯がひたすらに無言で襲い来る、その中心目がけて
「“雷光矢”!」
以前ベルとの組み手で用いていた小規模な落雷を生じさせる魔法“雷光”に形状変換と直線軌道の指向性を加えた魔法だ。
雷の小さくも莫大なエネルギーをそのままに放つのではなく、自らの意思で特定の形状に押し込める。そうすることで通常の雷光よりも効果面積あたりの作用を格段に大きくすることができる。
さすが道中隙あらば指南書を読んでいただけある。ここに至ることを想像して頭の中でシミュレーションしていたのだろう。魔法は彼女の意思通り見事に発動した。
が、やはりまだ息みがあったようで、ウルハの放った雷光矢は魔物の身体をいとも容易く貫くと、そのまま森の奥へと際限なく飛んでいきそうな勢いだったので、すぐにその軌道上に逆位相の魔力壁を展開し、雷光矢を中和した。
無論、そんなこんなをしているうちに魔物は例に漏れずあっさりと霧散していった。
「は……やったぁー!!!」
ウルハは歓喜の声を上げ、一行各々もそれに同調する。
さて、これで一行各々が晴れて魔物に相対する術を身に着けられた。あとはその感触が残っている内に身体に焼き付けてもらうとしよう。
次回分は明日更新予定です。




