1-59 ティラノの森 掃討訓練5
◆前回のあらすじ
カイルは炎の魔力を掌握し、次はエドが地の魔力を……
「地殻を巡る魔力を感じるようにね」
「……」
エドは地面を巡る魔力を何とか感じようとしているが
「……わからん」
まぁそう簡単にはいかないだろう。何せ捉えようとしているものが莫大過ぎるのだ。
この星の地表は地殻に覆われている。それらは巨大なパズルのピースのように一つ一つが組み合わさり、あるところが沈めばあるところが隆起し、世界の地形を形作る土台だ。ピース一つ一つが固有の魔力の流れを持ち、それらが他のピースと絡み合い不規則な連なりを維持している。今エドが知覚しようとしているのはその一つだ。
だがピースの一つとっても、私たちのようなちっぽけな生物にとってみれば想像もつかないほど膨大な体積を持ち、その中を絶えず巡っている魔力は地に足をつけて生きる私たちは常に隣接していながら普段は意識して感知しようもないようなことだ。
光の魔力がそうであるように、普段自分たちに親しいものであればあるほど改めて捉えようとすれば難しいものだ。
「最初からあまり大きく捉えようとしすぎず、まずは手に触れる範囲の土を理解するところから始めればいいですよ」
ベルのアドバイスに肩の荷が下りたのか、エドはふっと一息つくと、再び足元の土に触れた。
そしてそう間を置かず、エドの触れた土がエドの拳を覆うように手甲状の鎧を形成していった。
「こういう感じか?」
「うん、そういうこと あとはそれを変幻自在に操れて、身体にも負担をかけなければオッケーだね ちなみにそれは“纏殻”っていう戦闘技術の系統だよ」
「“纏殻”……」
「“自己治癒”と理屈は同じで、要は別の物質の魔素・魔力を自分に取り込むか纏うかの違いね そして自己治癒と同様、魔力操作を誤れば身体の方が持っていかれることもある」
「諸刃の剣だな……」
とは言うが、エドはさすが戦士だけあって身体魔力の操作に関しては一行の中でも随一のセンスを持っているので、まぁそうそうしくじることはないだろう。
それにしくじって身体の一部を欠損したところで、今の一行であれば難なく修復してみせそうだ。
「本来はそのまま物理攻撃用途で使っても強力なんだけど、今回は魔物と戦うっていうことで、そこにより魔法的な効能を載せていくね」
「分かった」
うなずきながら、エドは鎧を纏った上でいつも通り動けるか確認するように空を殴る動きをしている。
「じゃ、一回鎧は解いてみて」
「あぁ」
エドが息をつくと、拳を覆っていた土がボタボタと地面に落ちていく。
「さっき私が魔物を倒すのを見てたよね?」
「魔力そのもので拳を覆って、その魔力を爆発させたように見えた……」
まぁおおよそその通りではあるが、アレは分かりやすく見せるために大げさに演出しただけで、本来そこまでする必要はない。
「魔物には通常物理で触れることはできないけど、あれは魔力で出来ているものだから魔力でなら触れることができる」
「ふむ……」
エドは先ほど土で手甲を形成したのと同じように、自身の拳を魔力で覆い見えない鎧を形作る。
「そうそう それが矛にもなるし盾にもなる 最初は心許ないだろうから、全身を覆っておければそっちの方が安全かな」
「どれくらいの密度で纏えばいいんだ?」
言いながらエドは拳を覆ったのと同じように魔力で全身を覆う。さすがに達者だ。飲み込みが早い。
「“岩撃”」
ちょうど付近にあった直径が人一人分ほどはある岩石をエド目掛けて魔法で放ると
「ふん!」
エドは拳に纏わせた魔力を厚く固め、そのまま飛んでくる岩を殴り砕いてしまった。
「そういうこと」
「常に纏っておいて、臨機応変に……ってことか」
「まぁ慣れたらもっと上位の纏殻も使えるようにはなるけど、一先ずはそれくらいでいいかな 魔物も別に魔力を纏ってさえいれば触れられてすぐ死ぬってことはないから、触れられそうなときには守りを厚くして対処っていう感じで」
エドは無言で頷く。
「で、それを土の鎧の上から展開する 土を纏っているから、そのまま土の含む地の魔力を使えばいいよ その鎧を変幻自在、自由な形に展開できるようになれば魔物と接近しすぎずに攻撃もできるし、何なら飛び道具としても使える」
「やべぇ」
いつもは物静かな方なエドは、今も一見落ち着き払っているようには見えるが端的に放ったその一言には「早く実戦してみたい」というワクワク感が隠しようもなく滲み出ていた。
次回分は明日更新予定です。




