1-58 ティラノの森 掃討訓練4
◆前回のあらすじ
カイルが燃えた……
「あぢぃいいいいい!!! おい! いつまで燃やし続けるんだよ!」
焼かれながら治癒を受けているのを自分でも感じているだろう。カイルは文句こそ言うが、何だかんだ素直に焼かれ続けている。逞しい少年だ……
「その炎を自分に取り込んだら消えるよ」
「簡単そうに言いやがって!」
「あなたが今焼かれている中で心を燃やしている、その熱と炎を同化させればいいんですよ」
炎属性と聞くと当然火炎を連想する。それは通常起こさなければ起こりえないものと捉えられがちだが、実は炎属性が附帯する熱・爆属性は人々の感情の発散が大きく影響するという特異な性質を持つ。
人々の感情が揺れ動いた時、何らか激情が芽生えた時、その熱気を魔力として用いるときに炎属性は相性が良い。
今カイルは理不尽に焼かれては治され、それが延々続く苦痛の中で当然私に対して怒りを覚えているだろう。その激情、怒りこそがカイルが操る炎の原点であり、原料ともなる。
つまるところこれは、彼を怒らせるための手法のようなものだ。
「おぉおおあああああああああああ!!」
ゴォッ
カイルの雄叫びと同時に、彼をちょうど一回りほど大きく覆っていた炎がさらに大きく燃え上がる。
が、木々に飛び火することがないよう私の魔力操作によって炎の魔力は一定範囲に留めさせている。
さすが激情型、同期が早い。
炎が燃え盛ったということは、カイルの心の発するエネルギーがカイルを燃やす炎と同調し始めている証拠だ。
あとはそれを自身で掌握できればいい。
と、思っているそばからカイルを覆っていた燃え盛る炎がふっとカイルの身体に吸い込まれていった。
「カイル! その感情を剣に乗せて、私を斬ってみろ!!」
さぁ、腕試しだ。
「おぉおおおおおおおおお!!!」
私の煽りを受けたカイルはその頑丈に強化した剣があわや溶けて崩れ落ちようかと思うほど熱で赤白く変色させ、全身全霊で私に斬りかかった。
そして斬撃の刹那、その刀身は激しく燃え上がり……
フッ
それを受け止めた私の手の中で一瞬にして立ち消えた。
逆位相の魔力で中和したから良かったが、まだ威力を絞る方面には訓練が必要かもしれない。
「見事な“火炎剣”でした」
脇でパチパチとベルが手を鳴らす。
「あとはそれを自分の意思で使いこなせるようになれば完璧だね」
「……てめぇぜってーいつか痛い目見せてやるからな」
カイルは恨み言を言いながらも、その激情を既に飼い殺し始めたようだった。
激情を糧とする闘士はその心を折られたときが危うい。そのようなタイプでは激情を使いこなしながらも絶妙に一歩引いて冷静に動けるようになってこそ一人前だが、カイルはその片鱗まで見せてくれた。
痛い目ね、楽しみにしているよ。
………
さて、カイルの準備ができたので次はエドだ。
エドの方もカイルと同様に鑑定によって適性を確かめたところ、エドは地属性に親しいようだった。
「地かぁ……」
「何か問題があるのか?」
地属性は一般的な作用が物理よりに比重が傾いていることもあり、使いようによっては強力ではあるが対魔物の戦闘では使い勝手が悪い一面もある。何せ魔物は通常物理攻撃を寄せ付けない特性を持つため、地属性の初歩的な攻撃では他の現象系属性のように少出力で致命傷を与えるといった使い方ができないのだ。
「まぁエドは身体魔力の操作も上手だから、問題ないかなぁ」
エドの戦闘スタイルは肉弾戦士だ。物理方面に振り切って属性魔力を上手く使えば、攻撃力防御力共に近接戦闘で大きな力を発揮する。
対魔物の場合は、その目的と手段を通常と逆転させればいい。
「地属性の媒介である土はどこにでもあるからね、その場その場の戦闘に必要な鎧を臨機応変に形作ることができる」
「便利だなそれは」
エドは相変わらず無表情ながら心なしかウキウキした声色だ。
「普通はそうやって作った鎧での攻撃なり防御なりを主な目的とするけど、対魔物の場合は魔物を屠るための拡張器具みたいに思うといいかもね」
要は鎧による強化及びその効果自体が目的ではなく、魔物を屠る戦闘を有利に運ぶための道具として鎧を用いる。
「まずその鎧を作る練習をしないとね」
「なるほど……」
エドはその場でしゃがみ込み、自身の立つ地面に手を当てるとそこに魔力を通わせ始めた。
次回分は明日更新予定です。




