1-55 ティラノの森 掃討訓練1
◆前回のあらすじ
ティラノの森に足を踏み入れるとまたも魔物が……
「魔物掃討って言っても、どうやって倒せばいいんだよ」
カイルの言う通り、一行は出会い頭に私が魔物を屠る瞬間を観てはいるが、そもそも“倒しようがないから近付くな”などと言われていたものにどう相対すべきか分からないだろう。
だが一行はもはや出会い頭の何も知らなかった少年少女ではない。
「じゃあ今から二匹釣るから」
今度は隠遁を用いず辺りに魔力を這わせると、比較的付近にいた魔物二匹に魔力が触れ、触れた魔物二匹は目論み通りこちらに向かって移動し始めた。意思や思考力を持たない愚鈍な魔物はこれで簡単に釣れる。
「今のあなたたちに魔物を倒す術は二つあります 私とアイリ、それぞれの攻撃をよく注視するように」
言いながらベルは剣を抜くと、そこに視認が難しいくらい薄く光の魔力を纏わせる。
そして間を置かず、こちらに迫っていた魔物二匹がまだ狭い一行の感知域に侵入する。
「あ! き 来ました!」
「狭いですね 索敵なんですから、もっと広く視られるようになってください」
「今そんな厳しいこと言わないでくださいよぉ~~!」
ベルの辛辣なアドバイスにウルハは思わず泣き言を上げる。
が、泣き言を発する余裕があるだけ彼女も逞しくなった。出会い頭は魔物を見るや否や腰を抜かしていたのに……
「じゃ、まず私から」
ちょうど私のと対峙する位置から一匹目の魔物が顔を出す。
前回は火球の実演も兼ねて魔法を使ったが、炸裂魔法による魔力の乱反射は魔力感知に慣れた者でも全貌が掴みにくい。
それに今は下手に魔物の関心を惹いて思い通りのペースで実演兼掃討を進められないとせっかくの好機がもったいない。
ベルとは対照的に、無色の魔力を圧縮し拳を厚く覆っていく。
そして迫り来る魔物の間合いに入り
「……ふんっ!!」
そのまま思い切りぶん殴った。
ドゴォン!!!
「はぁ!?」
そんな光景を見て後ろでは一行が素っ頓狂な声を上げている。
魔力を纏った拳はそのまま魔物の身体に拳大の風穴を空け、その風穴付近で圧縮していた魔力の縛りを解く。すると膨れ上がった魔力の衝撃で魔物の身体は風船が弾けるように爆散していった。
……だけだと思ったのだが
ゴォン!!!!
バキッ
バキバキバキ……
久しぶりの肉弾攻撃に息みすぎてしまったか、拳撃の軌道にある木々までうっかりへし折ってしまった。
「あ えーっと あ、ほら エドもいるから 分かりやすいかと思って」
「えぇー…… アイリ様……えぇえ……」
一行はドン引きしていた。
「……ほら、もう一匹来ましたよ」
と、そうこうしているうちにベルの前には魔物が迫っているが
パンッ
ベルは薄く光を纏わせた剣をただ正面に掲げていると、その剣目掛けて突っ込んできた魔物が勝手に剣に触れ、小気味のいい音を立ててその身体を散らしてしまった。
「簡単でしょう?」
「何だそれ!?」
一行は魔物があっけなく散っていった様に面食らっている。
「風船を割るようなものだよ」
以前の一行であればそう言ったところでいまいちピンと来なかっただろうが、今の一行は魔力感知による第六の視覚を持っている。私が「風船を割るようなもの」という例えが、それが簡単にできるかどうかは別として今の彼らにはよく分かっただろう。
「風船……確かに見てくれはそんな感じだが」
「触られると死んじゃうって教わってきたんですけど……魔力を纏ってたから平気なんですか?」
「まぁ……それは正解でもあるし不正解でもあるかなぁ 魔力を纏ってなくても心が強ければ奴らに侵される心配はない……けど皆はまだそこまでは無理だろうね 魔力を纏って盾にするのが安全だと思うけど、纏う魔力の練りが甘ければ相手も魔力の塊だから身体への進入を許すことになる」
まぁそうは言っても、今の一行であればよほど油断するか調子が悪いかでもなければ侵されることはないだろう。言ってしまえばアレらの脅威は実際にはその程度で、それを知らず過剰に恐れることで魔物を恐怖の象徴たらしめているようなものだ。
「逆に、奴らの殻の方は大したものじゃない こちらにどうこうされる前にああやって破って魔力を霧散させてしまえば奴らは成す術もないから」
「攻めることで守る、と……」
「そういうこと」
あんな吹けば飛ぶような雑魚、しかもゴキブリのようにうじゃうじゃ犇く軍勢相手に守ったり逃げたりするのは効率的ではないし合理的でもない。
「じゃ、これから順に釣っては倒してってしていくから、皆気を引き締めてね~」
次回分は週明け月曜0時頃更新予定です。
◆告知
明日0時よりR-18百合SFバトルアクション小説“Garden ~蟲壺の乙女たち~”の
更新が開始します。ダークな物語ですがお読み頂ければ幸いです。




