1-54 ティラノの森2
◆前回のあらすじ
ディアンの勧めでアルボスティアへ向かう道中にあるティラノの森に立ち寄ることに
「あぁ、ここねぇ」
何だかんだ歩き続け、その道中不意に土狼をけしかけては一行の戦闘訓練をし、夕方頃には森の入り口あたりに辿り着いた。
一行が当初想定していたよりも早く着けたとのことだが、陽が落ちる前に辿り着けてよかった。これでより実践的なサバイバル経験を積むことができる。
「じゃ、入ろうか」
「もう夕方だぞ!? 森で暗闇なんて危険だろ!」
カイルはさすがにゴネる。まぁ言い分は尤もではあるし、通常であれば避けるシチュエーションだ。
「普通なら夜の森には敢えて入らないけどね もし入らなきゃいけないようなときがあったら、ぶっつけ本番で大丈夫?」
「それも回避できるならできるに越したことないだろ」
それもその通りだ。だが今の一行にはそれが有言実行できるほどの実力を備えていない。
「冒険は皆の思い通りになるものじゃないからね」
旅も戦闘もいかに自分のペースで事を運ぶかが肝だ。だがそれにこそ力が必要だ。
力が全てではないが、力がなく不測の事態に陥ったときには力任せで事を解決するのは難しい。状況を覆し得るのは経験に基づく知識と技術と工夫だ。
つまり、何事もまずは経験である。
「こういうときのために魔力感知を鍛えたんだから、実地で活かし方を……」
「“転位”」
と、まだ一行が本意気で納得していない内からベルは転位魔法で全員を森の中へと飛ばしてしまった。
………
「今のあなたたちの文句や意見は考慮するに値しません 頑張りましょうね」
まぁ結局はそうなるんだろうけども……
「滅茶苦茶だよな本当……」
カイルはぶつくさくどいてはいるが、それでも森に足をつけてすぐに魔力感知を展開し、周囲に意識を集中させる。
それに続き一行も魔力感知を展開し、索敵を開始する。
「パーティーで動く時は、一人一人が広域に展開しなくても感知の交わるところで感覚を共有できるから 仲間が何を見ているのか、感じているのか 意識を集中して自分の範囲をより遠く見通すように」
「はい」
じっくり学ぶ時間があればじっくり学べばいいが、実地の緊張感で感覚が研ぎ澄まされている中で叩き上げれば今まで同様すぐに感覚を養うことができるだろう。
「じゃ、例によってお手本を見せるから」
今の一行はせいぜいが付近十数メートルくらいが正確に索敵できる限界だろう。最初を考えればめまぐるしい進歩ではあるが、それでは当然森を練り歩くには心許ない。
「“隠遁索敵”」
森のほぼ全体を見通す感知を展開し、その感知域で一行がそれぞれ展開している感知を飲み込む。
これで一行は私がどのような地形、どこに何があるか、どこに何がいるか、手に取るように視えている景色を共有することができる。
「すごい……」
「生き物がいっぱい……」
「索敵ってこういうことね この感覚を覚えるように」
と、一行に言い聞かせながら私の方は嫌な予感が当たってしまい憂鬱な気分になっていた。
まぁ仕方ない。とりあえず、せっかくの実地がお遊びになってしまうので、私の索敵はさっさと仕舞ってしまおう。
「強そうな生き物がいっぱい居たな」
「大きな反応が二つあったような……」
エドとウルハは森のちょうど中腹ほどに鎮座する一際大きな存在感が気になったようだ。
「お、ちゃんと視てたね それが竜だね」
「竜……」
一行は皆顔に緊張を滲ませているが
「何も竜と闘おうってんじゃないんだから、そんなに気負わなくて大丈夫だよ」
「え、そうなんですか?」
一行は揃って竜との戦闘を想定していたのか、分かりやすく胸を撫で下ろしている。
「竜に限らず、森にいる生き物はよっぽどの有事じゃなければ襲ってこないよ」
「それよりも今回はあなたたちも殲滅に参加してもらうことになります 心の準備をしておいてくださいね」
「殲滅……」
「“黒色”ですね」
リーナはズバリ、索敵に触れたおびただしい数の魔力の淀みを見定めていたようだ。
今回は展開した索敵を隠遁にしておいてよかった。まさかとは思っていたが、この森も魔物がうじゃうじゃ犇いているようだ。隠遁にしたのが幸い、目覚めた森のように魔物がこちらに押し寄せるような素振りはない。
とは言え、これを見つけたからには駆逐しないわけにはいかない。まぁ一行には魔物への対処もいずれ教えなければいけないのだから、この機に練習できると思えばありがたい機会だ。
しかしディアンも上手いこと言うよなぁ……“稽古”って。彼女は自然に親しい竜王だけあってその摂理に一等身を任せる質だ。大方放任していた森の掃除を私たちに丸投げしようという腹づもりだろう。
やるけどさ。何だかんだ。
「じゃ、今から森の散策兼魔物掃討の実地演習始めよっか」
次回分は明日更新予定です。




