1-53 ティラノの森1
◆前回のあらすじ
竜王ディアンに連絡手段である“ディアンの角”を手渡され……
「君ら、アルボスティアの子じゃろう」
要件が済むとディアンはあっさりと人族一行の方に向き直り、そう話かける。
「ここから向かう道中にちょっとした森がある そこにわしの“落とし子”がおるから、稽古をつけてもらうと良い」
「……」
一方、人族にとって(恐らく現代でも)伝説上の存在であるところの竜王たるディアンがあまりに飄々と話しかけてくる様に依然混乱している一行は、うまく返事ができないままだ。
「アイリがおるからの、死にはせんじゃろう な?」
「そうだね、じゃあ寄らせてもらおうかな」
「え!?」
一行は驚き声を上げるが、今度はディアンはそちらに脇目もふらない。
「今世でも色々大変じゃろうが、達者でな」
「うん、わざわざありがとね」
そしてディアンは「ではの」と一言告げると、現れたときと同じようにふっとその場から姿を消してしまった。
全く気ままなものだ。彼女らは皆そうだ。そんな自由気ままな彼女たちのあり方、私は好きだけど。
ディアンは姿を消してしまったが、当面はすぐ傍にいるようなものだ。親しい顔が現世でも息災と分かって少し胸が澄んだような気分になる。
「さ、解体が終わったらこのまま真っ直ぐ進もうか」
と、一行を向き直ると皆苦い顔をしている。
「どうしたの?」
「いやぁ……その~……」
ウルハは何か物言いたげな様子だが
「ほら、先のことは今は置いておいて、解体再開しますよ」
ベルの一言に、ウルハだけでなく心なしか動きが重くなった様子の一行は何とも奮わない刃捌きで解体を再開したのだった。
………
結局集中できない様子の一行が気持ちゆっくりと解体を負え、さらにゆっくりと調理や防腐加工、裏次元収納を教え込み、食事を摂り、やっと拠点を出発したのは陽が天辺まで上ろうかというところだった。
「学ぶことが多すぎて……」
一行は立て続けに色々教え込まれたせいか身体より精神の方に疲れが回っているようだ。
だが情報過多による精神的な疲れは一過性のものだ。一度得た学びを各々の中で噛み砕き納得していくたびに軽くなっていくし容積も増える。
「それほどに物を知らなかったというだけですよ」
ベルはばっさりと切り捨てる。
まぁ、冒険に出るなら知っておくべき知識を悉く知らないようではあったので、それこそ養成所を謳っておきながら何を教えてたんだとは言いたい気分ではあるが、教わっていた一行に非があるわけではない。
が、一歩まかり間違えば命を落としかねないのが冒険の常だ。そのような杜撰な教えで冒険に出た者の中に途中で命を落とす者がいたらそれは忌々しきことだ。
ベルは辛言を呈したが、一行はこの道中で重々それを痛感したのだろう。その言葉自体に嫌な顔はしていない。先ほどから足取りが重いのは、それよりも何か別のことに懸念を抱いているようだ。
「あの……森って仰ってたの、“ティラノの森”のことでしょうか?」
リーナが問う。
「それが道中ある目ぼしい森ならそうなんじゃない?」
ディアンは“ちょっとした森”と言っていたが、彼女の言う“ちょっと”は規模が桁違いだ。
だが彼女がそう言うからにはそこそこの規模の森があるのだろう。名が付いているのは知らなかったが、リーナがぱっと思い浮かんだのがそれであればきっとそうだ。
「ティラノの森だけは絶対に避けて移動するようにってきつく言われてるんですけど……」
ウルハは苦々しい声で言う。
「ここですね」
ベルが空間映写で広げた地図、西洋大陸の平原の中に森と思しき描写がある。
確かに現在地からアルボスティアへの直動線ではこの森を通過する必要がある。そしてそれを迂回した場合、大きく遠回りをすることになる。
「何でここは通っちゃダメなの?」
「強い魔も……生物がうじゃうじゃいるから迂闊に立ち入るなって教わってきたな」
答えたのはエドだった。
「あぁ、ディアンの子のことかなぁ……」
まぁ森で強くてディアンの子ともなれば沼竜か森竜あたりだろうか。恐らくその“ティラノの森”とやらを見守る主のようなものだろう。
しかしディアンがああ言ったからには何らか申し送りがあるだろう。強い生き物が出ると言っても私やベルが苦戦するような輩も居ないだろうし、何より私たちが居るのだからただ歩いて遠回りするならその分苦難を経験しておいた方がいいだろう。
「まぁほら、こうして私たちが付いてるから 果敢に経験していこうよ」
「……はーい」
一行は何とも覇気のない返事をするのだった。
次回分は明日更新予定です。




