1-52 竜王
◆前回のあらすじ
竜王の息吹を使ったら竜王が現れた……?
ベルの警告に一行は一様に驚愕する。
「存在するんですか!?」
「あんな普通の女の子が竜王……!?」
「“竜王”などという大仰な名は下々の者が後付けで呼び始めたものじゃよ」
と、それまで数十メートル離れた大樹の跡付近に立っていた少女が一瞬で一行のすぐ脇に現れる。
「わしは“竜”の形はしておらんからの」
「ディアン……」
少女のような姿態を採っているソレは、ベルが言うように世界の理の一柱であり、世界の“実”を見守るものであり、そして私にとっては友であり姉であり育ての親のようなものだ。
「久しぶりじゃのアイリ……君は久しぶりという感じでもないかの?」
少女――竜王ディアンはその少女の身の丈があるままの姿であるかのように朗らかに微笑んでみせる。
「久しぶり……迷惑かけたね」
一〇〇〇年前の大戦でもそうだが、ディアンは追われる私たち家族を匿い、そして私が逃げ延びるためにその力を貸してくれた恩人だ。一〇〇〇年前に死んだときにはその感謝してもしきれない恩に報いる暇もなかった。
「迷惑なぞと思っとらんよ…… それよりほれ、喰え まだ本調子じゃなかろう?」
ディアンはその手に持った大樹だったものを差し出す。今は果実のようになっているソレは、大樹の生成に用いた膨大な魔力をそのまま凝縮したものだ。
「君なら喰らっても腹は下さんじゃろ」
「ふふ……どうしようかなと思ってたんだ ありがとう 美味しく頂くよ」
ディアンの差し出すそれを受け取り、ありがたく齧り始めた。
一方ディアンは私との挨拶が一通り終わると、脇に居た五人に興味を向ける。
「ベルも久しぶりじゃのう ガルムとは懇意か?」
「ご無沙汰しています 未だこの身にはガルムの加護を享けています」
「そうかそうか アレも最近色々と気を揉んでおるようじゃからの ……して、この人族の子は?」
「アイリが拾いました」
「え、私?」
肝心の一行を差し置いて話を進める私とベルにディアンはくすくすと笑う。
「君、生まれ変わっても変わらんのう そういうところが愛い奴じゃの」
ひとしきり笑うと次はしっかりと人族一行を見据える。
「ディアンじゃ」
「カイル……です」
「エドです」
「ウルハです……」
「リーナと申します」
「で、アイリよ 君に……」
「ちょちょちょっと待ってください!」
話し始めようとしたディアンをウルハが遮ると
「本当に……竜王様なんですか……?」
改めて問うた。
一〇〇〇年前にも見たなぁ、こういう光景。
どうにも人族に限らずあらゆる種族で“竜王”を神格化していたり伝説化していたりするため、いざ目にしたときに今のディアンのような姿態では混乱してしまう者が多い。
「そもそもわしを竜王と呼ぶのは君らじゃから、わしが竜王かどうかは君らが決めれば良い」
「そんな大雑把な……」
「本物だよ 生態系や環境に障らないようにこういう格好で出てきてくれているだけ」
実際に神や伝説扱いは下々の者たちが勝手に抱いている印象ではあるが、竜王と呼ばれる者たちが莫大な魔力を持ち、それが世界の環境にすら影響を与え、そのバランスを調整する役を担う天上の存在であることは事実だ。一行もそのように教わっているからこそ、今のディアンのような親しみやすい格好ではギャップを受け入れがたいのだろう。
が、そんな一行の様子を気にも留めずディアンは続ける。
「アイリよ 加護を引き継いどるようじゃから語りかけようと思ったんじゃが、上手くいかなんでの」
「あ、うん 私も話しかけようとしたけど出来なくて……」
本来“加護”の主とその受け皿は特殊な縁で結ばれる。特に竜クラスの加護を享ける素質のある者は加護の主が受け入れれば、離れていようとある程度意思の疎通ができる。私は本来全ての竜王とそれぞれ離れていながら話しかけるくらいはできたのだが、どうも転生して以降それができなくなってしまっている。そのためわざわざ竜王の加護の最たるものである一つ“竜王の息吹”を使用することによって、その加護を受けた私が今世でそれを行使し改変した事象により間接的に生誕を報告するという手段を採らざるを得なかった。
ディアンは何やら神妙な顔をするが
「ともかく、何かと不便じゃろ これを持っておけ」
すぐに元の穏やかな顔に戻った。
彼女が言うや否やその頭から鹿を思わす角が生えると、ディアンはそれをぽっきりと根元から折って手渡してくれた。
ディアンが創造した植物の一種“ディアンの角”。文字通りディアンの角を模した小木の一種で、彼女の魔力が色濃く宿っているため彼女専用の連絡手段のようなものだ。
「ありがとう 困ったら頼らせて欲しい」
言うとディアンは無言でにっこりと微笑んだ。
次回分は明日更新予定です。




