1-51 竜を喚ぶ2
◆前回のあらすじ
生存報告してみた。
――東洋域のとある島 余所者の侵入を許さない鉄壁の守りを誇るという、謎に包まれた亜人種の里“和ノ国”にて
世界は魔物の再発生により各地で混乱が起こっていると風の噂に聞くが、この和ノ国は魔物の侵攻を一切寄せ付けることはない。
だがそんな和ノ国の象徴であるフジ山の頂上近くに宮を構える或る少女は、外の世界のいざこざよりも和ノ国内部で繰り広げられている泥沼の権力争いに気を憂いていた。
「アイリ……起きたのか…… 会いたいなぁ……」
そういえば、もう久しく外の世界に出ていない。
少女は彼の子と外の世界を旅した愉快な記憶を思い起こし、思いを馳せる。
またここから連れ出してくれないかなぁ……
………
「お、言ったそばから……」
「啼いたね ディアンの息吹?」
アイリの呼び掛けは遥か遠方、目論見通り二人の竜王にも届いていた。
「じゃのう どういうことかの? ……まぁよい せっかくじゃ顔を見に行こう」
「行ってらっしゃーい……」
ノアはディアンがどいた自身の玉座には目もくれず、硬い土の地面に大の字に寝転がりながら呟く。
「何じゃ君、行かんのか……残念じゃのう じゃあまた来るの それまで達者でな」
ノアは寝そべったままディアンに向けてパタパタと手を振る。
ディアンは玉座の脇に据えた枝に触れると、そのまま枝に吸い込まれるようにして消えてしまった。
「便利だなぁ……“ディアンの角”」
ノアの呟きはディアンの居なくなった広間に心なしか寂しげに木霊した。
………
「ごめんごめん こっちは気にしないで解体の方続けて」
「いや……アイリ様 そんなとんでもない大魔法見せられて気にしないだなんて……」
ウルハは依然天辺が見えないほどに高く伸びた大樹を見上げながら、震える声で呟く。
一行はただ木を生やしただけとはいえその規模に面食らっているようだ。
「まぁ、気にしたところでどうにもなりません あなたたちに危害を加えるものでもありません 気にせず解体しましょう」
ベルは再開を促すがエドは大樹に釘付け、ウルハは「いや~……」とか「でも~……」だとかとにかくそちらが気になって解体が手につかない様子だ。
「これほどのものを一瞬で生み出すほどの魔力がアイリ様の中にはあるということですか……」
リーナは私とベルが人族に危害を加えようなどと考えていないことは重々承知だろうが、それでもさすがにこんな魔法を見てしまっては心を平静に保つのも難しいようだ。
正確にはリーナが言うように私一人の持つ魔力でこの大樹を生み出したわけではない。やろうと思えばできないこともないが、特殊魔法“竜の息吹”系統は通常己が持つ魔力だけで発動するものではなく、自身の持つ属性魔力、そして世界に際限なく溢れている無色魔力や自然魔力を多分に取り込み三位一体で発動する場合が多い。
それに限らずとも、魔法は自身の持つ魔力だけでなく空気中に存在する無色魔力のみを以って発動することもできる。そのためには無色魔力を自身で使役するために掌握しなければならないが、多くの魔導師はそれができないがため自身の持つ魔力を上限としてしか魔法を行使できない。
「まぁ、ごめんね これはちょっとこっちで消しておくから、あんまり気にしないでよ……」
「よいぞ、君が骨を折らずとも」
と、不意に大樹の根元、ずっとそこにそうして居たかのようにいつの間にかそこに居た少女が告げる。
緑のローブに身を包みハーフアップで髪を結った少女は大樹に触れると、それが現れたときと同じように瞬く間にその小さな手に吸い込まれるように消失していき、最後には少女の手には掌大の新緑色の果実が残った。
「あなたたち、あれを魔力感知で見てはダメですよ」
そんな様を傍にベルは一行に警告する。
「あなたたちでは感知能が焼け付いて使い物にならなくなります 絶対に視覚だけで見るように」
「あいつそんなヤバい奴なのか?」
カイルは持ち前の恐れ知らずな口調でベルに問う。
「聞いたことくらいあるでしょう あれはこの世の理の一柱たる“竜王”です」
次回分は明日更新予定です。




