1-46 旅の苦労2
「ところで、何で今回は土の狼じゃなくて野丘猪なんですか?」
ベルに負わされた斬り傷が綺麗サッパリ治った腕を感心しながら見ているエドとカイルを余所に、リーナはベルが召還したボアについて訊ねる。
昨日は擬似召還によって召還した土狼を使っての戦闘訓練だったので、朝一番の得物が本物のボアだったことが気がかりのようだ。
「それは今日の食糧ですよ」
「えっ」
旅の食糧は多少の備蓄を除いて基本的には現地調達現地調理だ。あまりかさばる食糧を持って移動するのは冒険においては不便が多い。冒険中はどんな環境に身を置くか分からないため、備蓄は安全に保存し消費しきることができるのか、何らかの環境的要因によって変質しないか、食糧を抱えたまま万全に戦闘態勢を取れるのか。場合によっては敵に食糧を奪われ力をつけさせてしまう可能性もある。
一行も食糧を持ち歩いてはいないので現地調達の手はずだったのだろうが、まだ実力のない彼らは一晩の食糧を獲得するのにも骨を折るかもしれない。カイルは恨み言を言っていたが、今回の訓練は実はベルなりの優しさでもある。
「ですが、私が食糧に手を貸すのは今日限りです 今日は食糧の採取、加工、保存や持ち運びについても教えます ……どうせあなたたち持ち運びは抱えてか背負ってか、食糧は現地調達で調達できなければ食事を抜けばいいとでも考えていそうですから」
ベルの鋭い指摘に一行は苦笑いする。
まぁそうだろうなぁ。冒険者“養成所”を謳っていながら碌な教育をしていないのだから、当然冒険の肝の一つでもある食糧調達の技能も疎かなのだろう。
「では解体を……とその前に、カイルは剣の手入れはどのように?」
急な問いにカイルはボアを仕留めたばかりの剣を掲げて答える。
「手入れって言っても、血が着いたら拭き取るくらいだな……」
カイルの返答にベルは顔をしかめる。
「……あなた、剣士の風上にも置けませんね 剣は剣士の命ですよ それを無くして戦えないというのに、手入れの仕方も知らないんですか」
相変わらずベルの物言いはキツいが、カイルは図星を突かれた心当たりがあるのか、何とも不味そうな顔で肩を竦ませる。
「ただの鉄の剣ではすぐにサビて使い物にならなくなります 手入れに必要な魔法を習得するか、手入れ不要なように刀身に付与を施すか……あなたどちらもできなさそうですね」
「当たり前だろ 魔法も付与も俺は使えない ていうか剣士が魔法を使えてどうするんだよ」
カイルはバツの悪そうに言い放つが
「何であなたが魔法を使えないと決め付けているんですか もう使っているじゃないですか 自己治癒だって立派な魔法ですよ」
「「は?」」
ベルの言にはカイルだけでなくエドも驚いている。
「と言っても、自己治癒は様式もないような極めて原始的な魔法の部類ですが ……とにかく、自己治癒ができた以上使えないということはありません 使えるようになってください」
ベルはカイルに近づくと、カイルの掲げた鉄の剣に触れる。
「“武装吸築”」
魔法が発動すると刀身に付着した血の魔素が変質し刀身に吸収されていく。それに伴い刀身の小さな傷や刃こぼれは補修され、全く使用感を感じられないほど綺麗な刀身へと再生された。
「血塗れたままでは錆びますし、骨や鎧を斬れば刃こぼれもします 斬ったものを使って武装を修復するのが冒険者の常識ですよ」
「そんな常識聞いたことねぇよ……」
カイルは悪態をつきながらも、新品さながらに見違えた剣を気持ち嬉しそうな表情で眺めている。
「消耗する武装は適当な素材で都度補修すること 血の鉄分は鉄製の武器と相性がいいですが、魔素の変質に慣れてしまえばその辺の土でも代替が可能です」
「何でもありだな」
エドは感心と呆れが入り混じったような表情をするが
「使えるものは何でも使うんですよ “小刀召還”」
そんな様子に構うこともなくベルは地面に五つの魔法陣を展開すると、魔法陣上で土が凝縮していき、その魔素を変質させながら形を変え、五本の“鉄の”ナイフが生成された。
その内一本を手に取りくるくると器用に回しながらベルは一行を見やる。
「では、解体しながら勉強しましょうか」
飄々と告げたベルに、カイルは「何でもありだな」と枯れたような力ない声で漏らすのだった。
次回分は明日更新予定です。




