1-44 光の魔法3
リスリアを発って二日目
リーナの気を持ち直したところで、気取られる間も与えず催眠魔法で強制的に寝付かせ、四人にはそのまま朝までぐっすり眠ってもらった。
睡眠は肉体を持つ生き物にとっては必要不可欠な行動だ。魔素で構築された身体は絶えず魔力を消費して代謝を行っているが、睡眠時よりも起床時の方が消費する魔力が大きい上に、睡眠時には睡眠時特有の代謝によって身体の損傷や損耗を修復したり精神的な波立ちを整えるプロセスがある。そのため、肉体を持つ生き物は一晩睡眠を欠いたり寝つきが悪かったりするだけで身体の魔力が容易に乱れてしまう。
魔力操作で完全に代謝を制御できる私や人族の身体ではあるが精霊体に転成しているベルは眠らなくても調子を崩すことはないが、一行はそこまで魔力操作に熟練しているわけでもなく、睡眠不足の影響を如実に受けやすい人族の少年少女だ。このハードな旅路を有意義に学びながら終えるためにも一行にはよく眠ってもらわなければならない。
「“水雫”」
ベルが魔法を唱えると、陽が登ってもすやすやと寝ている四人の頭上で空気中の水分が凝縮するとちょうど人族の頭ほどの大きさの水の塊ができ、これから乱暴な起こし方をされるとは微塵も思っていない安心しきった表情で眠る四人の顔目掛けて落下した。
バシャッ
「ぶっ!」
「ふげっ!!」
一行は四者四様に素っ頓狂な声を上げ、咽こみながら何とか身体を起こす。
「朝だよ~」
「朝だよ~じゃねえんだよ!!」
カイルはいつもの調子で恨み言を叫ぶ。
よく眠れたおかげか、四人にとっては熾烈な訓練と旅の疲れはいい具合に抜けているようだ。
「元気じゃないですか 今日の稽古始めますよ “転位”」
ベルは起き抜けの三人の目前に二匹の猪型の獣種 野丘猪を出現させる。一行を起こす前に付近の群れを探知し照準を定めていたものだ。
一行は乱暴な起こされ方な上、起き抜けで獣種の相手をさせられるという理不尽を突きつけられたストレスか魔力に若干の淀みが生じるが、それでも各々すぐに構えを取りボアに対峙する。
「“火炎放射”!」
ウルハが二匹を射程に炎を放射して牽制する。
やはり魔力の練り方はまだ完璧ではないが、無駄な魔力を割かずに最低限の力で炎を広域に薄く放射し、一見強力に見える広範囲攻撃で複数の相手を牽制する。ボアは直線的な動きをするため、間合いを攪乱された二匹は動きにブランクが生じる。起き抜けにしては機転の利いた出だしだ。
ウルハの攻撃で二匹の間合いが乱れた拍子にカイルは火炎を逃れた一匹に間合いを詰め、首元に斬りかかる。近接戦闘要員の二人はまだ身体が温まっていないながらも、二日に渡って練習してきた身体魔力の操作によって悪くない動きでまずは一匹を仕留める。
が、それを脇で見ていた火炎を逃れたもう一匹がカイルめがけて突進する。
「“閃光”」
リーナがカイルとボアの中間地点に光源を生成し、ボアに向けて光を照射する。昨日のただ発光するだけの閃光ではなく、指向を絞って強力に発光している。闇雲ではなく、光の魔力を自身の意思で操れるようになったようだ。
ボアが目くらましに遭っている隙にカイルは避けるが、すんでのところで方針を変えたか、ボアはそのままカイルの後方に居たエドの方に突進する。一方のエドは避けずにボアの突進を食い止めようと思ったのか正面から受ける構えを取る。
一行の中で一番身体能力の高いエドだが、それでもまだ幼い少年だ。身体魔力操作によって膂力を引き上げてはいるが、小型種とはいえ相手は突進を得意とするボアだ。無事受け止めることはできないだろうが、今のエドなら致命的な大怪我はしないだろう。それもいい経験だ。
「ぐっ!」
そして予想通り、ボアの突進を真正面から受けたエドはボアの勢いそのまま四メートルほど吹っ飛ばされていた。さらに衝突の瞬間ボアの牙が刺さり、左肘の内側には痛々しく穴が空いている。
「“癒治”!」
が、そんなエドめがけすかさずリーナが治癒魔法を発動する。
淡く金色がかった光がエドを包み、突進を受けた打撲と牙で受けた傷が瞬時に修復されていく。差した陽の光から借りた魔力を用いた癒治は、展開から修復の完了まで一切無駄なく完璧に収束した。
エドに突進し一瞬勢いが緩んだボアはエドに追撃をかけようとするが、リーナの補助を受けてこちらも瞬時に体勢を立て直し、勢いのついていないボアのいかる牙をガッチリと掴む。
ボアが動きを封じられた一瞬の内に今度はカイルがボアに迫り、思い通りに動けないもどかしさからか息を荒くしていたボアの脇から切りかかり、二匹目も一撃で仕留めてしまった。
次回分は明日更新予定です。




