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忌み子、のんびりパワフル世界救済(1000年ぶり2回目)  作者: 憩葱助
第一章:アルボスティアの少年少女
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1-41 聖職者

 リスリアを発って一晩目、既に日は落ちて辺りは真っ暗になっている。

 土狼との模擬戦、自己治癒の訓練を経てくたくたに疲れた一行を治癒魔法で強制的に持ち直し、ペースを落としながらではあるが日が暮れる直前まで目標地点であるアルボスティアに向けて歩き続けた一行は、今はリーナを除いて皆豪快に寝息を立てている。

 道中ベルが採集した野草と猪型の獣種の肉で、即席かつ簡素ではあるが(こしら)えたボリュームのある食事に腹鼓を打った一行は、やはり疲労が蓄積していたのであろう、食べ終わるとさっさと寝入ってしまった。


 「アイリ様、ベル様……」

 

 だが一行が寝静まってからもリーナだけは眠らず、今こうして見張りがてら星を眺めていた私たちのとっころへとやってきた。

 

 「眠れない?」

 

 「……はい」

 

 リーナは特に自己治癒の訓練では消耗の色が濃かったが、それも聖癒治(ホーリー・ヒール)によって持ち直し、歩き続けた後でも魔力操作の恩恵で身体の方にはさほど消耗は見られなかった。

 だが聖癒治で心身のケアを図ったにも関わらず、リーナはその心の方が未だ淀んでいるようだった。

 

 「自分が何もできなかったことを悔いているんですか」

 

 脇のベルが話しかけると、図星だったのかリーナは唇を噛み締めながら俯いてしまう。

 確かに土狼との模擬戦とその後の自己訓練でのベルとの組み手では、リーナはほとんど出る幕もなく戦闘にカタがついてしまっていた。

 

 「別に気にすることはないよ」

 

 「でも……」

 

 慰めの言葉がリーナは腑に落ちない様子だが、これは別にお世辞や気遣いではなく私的には本心で言っていることだ。

 もちろん、戦闘における治癒役やサポート役としての立ち振る舞いという点ではリーナはまだまだ課題を残すところではあるが、あくまでそれは現時点での話だ。そもそも圧倒的に実戦経験を欠くであろう一行が今の時点で完璧に立ち回れるはずがない。これからまだまだ伸びしろはあるし、むしろこれからが肝心なのだ。

 それにリーナは自分ができないと思っていたウルハの大怪我の治癒を一度で成功させてみせた。彼女には素質がある。今はそれを自分の思うままに使いこなせず、また扱うタイミングを自分で定めかねているだけだ。

 

 「今リーナは生きているから」

 

 「……はい?」

 

 さすがに漠然としすぎた物言いにリーナは首を傾げる。

 

 「まだまだ未熟な皆が旅に出て、道中大した怪我もなく無事に進むことができて、森で私たちと出会って、帰路の今もちゃんと生きてる もしどこかで何かのズレがあったら、リーナも皆も、既に命を落としていたかもしれない 冒険ってそういう紙一重のものだよ」


 「……はい、痛感しています」

 

 森には人族が恐れる魔物が犇いていた。私とベルが掃討しなかったとして、それらが森を散策していた一行に牙を剥いたのかどうかは分からないが、もし出会っていれば一触即発だっただろう。

 

 「でも今こうして生きて、皆着実に成長している 今は私とベルがお供をしながら皆を鍛えられる 今リーナが自分の思うように立ち回れなくてもどかしいことも、私たちが見てあげられる」

 

 「光の属性魔法ならアイリも私も得意なので、いくらでも指南できますよ」


 リーナは激励の言葉に目を潤ませる。

 

 「もう何も出来なくて大切な人を失いたくないんです」

 

 故郷を滅ぼされたリーナにとって、逃げ延びた今の仲間はかけがえの無いものだろう。今このパーティーにおける彼女の役割は、そんなかけがえのない仲間の命を左右しかねないものだ。各々がきっとそうだが、リーナは特に現状に重圧を感じている。

  

 「皆で冒険者を志そうと決めて、聖職者の素質があると言われ修道院に入り、ずっと言われるがままに祈ってきました 祈れば救われる 祈れば聖なる魔法の加護を受けられる 信じて祈りなさい、と」

 

 リーナは搾り出すような震えた声で語りだす。

 

 「でもそうやって祈り続けていてもどこか不安でした これで本当に救われるのでしょうか 皆を守れるのでしょうか 故郷が襲われたときも、祈っていれば救われたでしょうか?」

 

 「救われなかったでしょうね」

 

 ベルは淡々と否定する。

 

 「現実に慈悲の入り込む余地はありません その環境と自分の持てる力で然るべくそうなるんです」

 

 ベルの言は残酷ではあるが事実だ。今この過ぎていく時間に、この星の全ての生物に降りかかる無作為のあらゆる出来事は、何らか唯一神のような絶対的な存在によって慈悲を付与されることはない。様々な要素が作用しあってそうあるがままに起こることだ。

 祈ること自体は決して無駄ではない。祈りは魔力を生むし、祈ることで魔法作用を高めることは可能だ。だが降りかかる不幸を祓うことも死を覆すこともできない。

 

 「大昔の人たちもきっと今のリーナと同じように悩んだんだと思うよ」

 

 だからこそ人々は魔法を研鑽し、理不尽に抗う術を見出そうとした。そしてそれらは万能でこそないものの、それが叶わなかった時代の人々の祈りを叶える術となった。

 

 「……私は強くなれますか?」

 

 リーナはその目に涙を貯めながらも真っ直ぐとこちらを見据える。

 

 「じゃあ、強くなろうか」

次回分は明日更新予定です。

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