1-40 自己治癒3
カイルに続き一行も順次ベルの補助によって傷付いた身体を修復していく。
「分かりましたか? 自己治癒の感覚」
一行は微妙な顔をする。
「何となく……でもちょっとまだ」
ウルハは苦笑しながらも素直に心許なさを告白する。
「……まぁ、もしご所望であれば何度でも体感していただきますが」
「……お願いします」
「俺も」
ウルハとエドが我先にと志願すると、カイルとリーナもそれぞれ続いてベルに迫る。
自己治癒の訓練をするということはそれだけ実際に傷を負うことになる。一行は当然痛覚遮断などの術も持ち合わせていないだろうから、それには当然痛みを伴うし、修復するとは言っても傷付いた分身体に負担をかける。いくら冒険者志願で養成所で訓練を受けたと言っても、とても気持ちのいいものではないどころか命に別状はないとしても苦しい訓練となるだろう。
志願したとはいえ、心から望んでではないはずだ。それでも一行は各々が冒険者として歩んでいく上で必要となるであろう技術を貪欲に求めている。年端もいかない少年少女でありながら根性はある。
実を言うと、私なりベルなりが彼らの装束にほんの少し付与を施すだけで彼らが傷を負わず病気を患わず、仮にその防御を超えて傷付こうとも装束ごと自己修復し、加えて人並み外れた力を発揮できるよう容易く細工をすることができる。彼らがそれを望むなら私は付与を施すことに何ら異論はない。ゴブリンのコロニーにそうしたように言わずとも加護を施すこともやぶさかではない。
だが彼らはその様を見ていながら強請りもしない。私やベルの言を聞き、自身の冒険者としてのこれからの歩みに思いを馳せたのだろう。自分で努力し力を得るその過程できっと各々が各々の在り方を考えている。痛みを感じようともその中で考えようとしている。
昔アウローラを開拓したときのことを思い出す。最初はまとまりもなく我が強く、心に荒んだ部分を持っていた民が先の希望に思いを馳せ、それが通い合い力を合わせたときに大きな相乗効果を生む。
皆もアウローラの民のように明るい未来を見出して、そこを目指して歩んでいってほしいものだけど……
………
自己治癒の訓練に移って二時間ほど経っただろうか。
ベルが斬っては治し斬っては治し、「切り傷だけでは……」という一行の希望に今度はベルの方が渋々沿って打痕や火傷、凍傷などの自己治癒を実践したりしているうち、思いがけぬ早さで欠損修復の段階まで進んでしまった。
一行は気丈に自己治癒の訓練に励んではきたが、その表情には疲労の色が見えている。
「今日は自己治癒はこの辺にしておきましょうか」
「……せっかく感覚が分かってきたところだから」
特に戦士である自分にとっては自己治癒の技術は必要不可欠と踏んでか、一等熱心に励んでいたエドは惜しそうな表情をするが
「治るからいいと思っているのかもしれませんが……私の魔力で補助しているとはいえ、心身への負担は蓄積します 今は興奮していて気にならないかもしれませんが、あなたたちが思う以上に精神的に消耗しているはずです」
特にリーナの方は聖職者風だけあって傷を負うような戦闘には一行の中でも数段不慣れだろう。呼吸も乱れ、顔色も悪くなっている。これ以上続ければリーナに限らず、明日への疲れを残すだろう。
「“聖癒治”」
一行と、一行への魔力移譲で微かとはいえ消耗しているベルごと癒しの魔法をかける。
通常の癒治に加え、聖属性の清浄効果を添加している治癒魔法“聖癒治”では、傷や身体の不具合を復調させるだけでなく、精神の磨耗や魔力の淀みごと清浄する効果を持つ。
「焦らず着実に学べばいいよ 戦闘も自己治癒も……今の魔法はリーナもゆくゆくは使えるようになるようにね」
「わかりました」
焦らず着実にというが、最初が拙かったとはいえこの数日で既に一行は目覚しい成長を遂げている。それこそ彼ら自身にとって、数日前と比べ自分が自分でないような解離した感覚を持っているかもしれない。急激に成長して得た力は身に余り、しっかりと自分のペースに馴染ませていかないと混乱しかねない。
一行に寄り添って実践を見守る機会があとどれくらいあるかはわからないが、せめて一緒にいる間は無理のないペースで学ぶようにしよう。
無理してでも身につけなければいけないような力は今の彼らには必要ない。……というのも希望的観測だが、彼らの現在の拠点であるアルボスティアにそのような力で以って対峙しなければいけないような脅威があれば、そのときは私とベルで何とかしよう。
次回分は明日更新予定です。




