1-38 自己治癒1
伸ばした腕が途中で綺麗に裂け、手首より先がぷらぷらと皮一枚でぶら下がっているという異様な光景に、一行は目は見開いて口はあんぐりと滑稽な顔をしている。
「呆けてないで魔力感知に集中してください」
一行に忠告すると、ベルはその切断面から魔力を醸し出す。
「自己治癒の基本は魔力操作によってこのような魔素連結の異常を修復することです」
身体側の切断面から溢れた魔力はやがてもう一方の断面を通り指先に向かっていく。すると魔力が断面同士を引き合い元通りにくっついていく。
「身体は服で、袖に魔力の腕を通すようなイメージでやるとくっつけやすいよ」
「いや、腕とか千切れたらそんな冷静に対処できる自信ないです」
「それは慣れだね」
「慣れたくない……」
一行はまじまじと見入るエドを除いてげんなりしている。
まぁそう何度も身体が千切れかけるような事態を避けたいのは当然だろう。
「ほら余所見しないで集中」
ベルは接合した断面の途切れた魔素同士を魔力で結び付け、元の繋がりを再構築していく。
「すごい……」
見かけでは裂けてぷらぷらと垂れ下がっていた腕がひとりでに元通りに戻っていくという妙な手品のような光景だが、今の四人にはベルの操る魔力がよく見えているだろう。自分の魔力、自分の意思で危うく切断してしまうような傷を治していく様に驚嘆している。
「アイリが服を着るようなイメージと言いましたが、このように断面をくっつける際は縫い物をイメージすればやりやすいと思います 魔力の糸で腕を結びつける」
言っている内にベルの腕は傷痕が分からないほど綺麗にくっつき、掌を握ったり開いたりと自在に動かしてみせた。
「ゆっくりやりましたが、これくらいは一秒以内にできるようになっておくべきでしょうね」
「……」
一行はまた無言で空を仰ぐが、一秒以内というのは甘い方だ。実際の戦闘では瞬きする間のやり取りが命を左右する場合もある。
「ちなみにいずこかの部位が縫合できないレベルで欠損した場合は……」
次いでベルは先ほどと同じように腕を一なぞりすると、今度はぶら下がるほどの皮も残さずその腕の手首より先を切り落とし、
「“光熱線”」
光を凝縮した熱線魔法を浴びせ、熱線の照射を浴びたベルの手は跡形も無く焼き消えてしまった。
ベルは分かりやすくと思いテキパキやっているのだろうが、恐らく人族の少年少女にとってそれらの所作は起きること起きることが未知との出会いだろう。一行はその都度目玉が飛び出しそうなくらい目を見開いて展開を見守っている。
「あぁ、言い忘れていましたが、まずは血を止める方がいいですね」
先ほどからの実演ではベルの魔力操作により切断面から一切血は流れなかった。戦ううちに慣れた私たちにとってはもはや止血は無意識かつ真っ先に行う癖になっている。
「その傷口で留まっている魔力が血を止めているんですか?」
「そうです ただしこれはすぐ治す予定なので止めているだけであって、治すのが困難な場合に血流を阻害し続けると調子を崩す場合もあります そのようなときは途切れた血流を魔力で補完するのですが……そちらはややこしいので敢えて習得するよりも怪我をしないくらい強くなるか、怪我をしたところで瞬時に確実に治すことを学んだ方がいいでしょう」
「あんた見た目に似合わず脳筋だな」
カイルの一言にウルハとリーナは顔を青くする。
「ノウキン? 何ですかそれは」
「な んでもないです! お気になさらず……!」
「で、で、そこからどうやって治すんですか?」
ウルハとリーナは必死に話を逸らそうとしている。“ノウキン”とは何か悪口のような言葉なのだろうか?
「……まぁいいです で、欠損の対処ですが、まずは魔力で欠損した部位の雛形を形作ります」
ベルは腕の切断面より先に魔力で欠損した手を形作る。
「これは見かけほど難しくはありません 通常部位欠損では感覚を損ないますが、魔力を伸ばして感覚をそこにあるものと思って想起すれば自然とこのような形になります 魔力で雛形を作ったら、空気中に漂う生の魔素を吸着して肉体を形成していきます」
魔力で形成された手のままではぼんやりと透けているが、魔素を吸着した部分から段々血肉の色に染まっていく。
「土や水など……何らか他の物質から魔素を吸着することも可能ですが、個性のある物質の魔素を用いた場合は操作を誤ると身体の方が“持って行かれる”場合があります」
「それは……身体の元にしようとした物質の方に同化してしまうということですか?」
「そうです なので、空気が使える状況では空気が無難ですね」
言い終わるが早いか、ベルの腕はまたも綺麗に元通りになった。
「さ、じゃあ皆さんもやってみましょうか」
次回分は週明け月曜0時頃更新予定です。




